《乳幼児の睡眠》お悩みをアプリでサポート! 一部の自治体で運用が始まっている「ねんねナビ®️」とは?

日本は、乳幼児の睡眠時間が諸外国と比べて最も短いといわれています。「寝かしつけても、なかなか寝てくれない」「やっと寝たと思っても、すぐに目を覚ましてしまう」「夜泣きが続いてつらい」と悩んでいるママ・パパも多いのではないでしょうか。大阪大学大学院連合小児発達学研究科の研究グループでは、2014年から研究を始めて、乳幼児の睡眠課題のアドバイスアプリ「ねんねナビ®️」を開発。2017年から、いくつかの自治体で実証実験を行い、有効性を確認しました。「ねんねナビ®️」のサービスと、今後の展開について、大阪大学大学院連合小児発達学研究科附属 子どものこころの分子統御機構研究センター 吉崎亜里香先生に伺いました。

諸外国と比べて最も短い、日本の乳幼児の睡眠時間

*乳幼児の総睡眠時間の国際比較図は、「Mindell et al., (2010)」をもとに作成

上は、日本の乳幼児の睡眠時間のグラフです。日本の乳幼児の睡眠時間の平均は11.6時間と、諸外国に比べて最も短いです。睡眠時間が最も長いニュージーランドは約13.3時間です。

また日本を含むアジアの乳幼児は、欧米に比べて就寝時刻がやや遅い傾向にあると言われています。たとえば、Mindellらの国際調査(2013)によると、日本の幼児の平均就寝時刻は約21時5分、オーストラリア・ニュージーランドの幼児では約19時50分でした。国内の調査では、2歳6か月で約83%、3歳6か月で81%の日本の子どもが、21時以降に眠っていたと報告されています(厚生労働省, 2013, 21世紀出生児縦断調査結果の概況)。

日本の子どもの睡眠時間が短いのは、睡眠習慣や住環境が一因

日本の乳幼児の睡眠時間が短い背景には、生活習慣や住環境、ご家族の生活リズムや就労状況などのほか、家庭や社会の価値観など、さまざまな要因が複雑に関わっていると考えられています。たとえば、薄暗い間接照明が多い欧米に比べて、日本の住宅では夜でも明るく白い照明が使われていることが多く、気づかぬうちに光環境が睡眠に影響している可能性があります。

部屋も欧米に比べて狭いことが多いので、「やっと寝ついた」と思っても、他の部屋の音で目が覚めてしまうというお悩みもよく耳にします。また、日本では親子が一緒の部屋で眠るご家庭が多く、親御さんが家事などを終えて休むタイミングで一緒に寝室に行くことにつながっている場合もあります。

乳幼児期からのスマートフォン利用・ゲームや動画視聴なども、使い方によっては睡眠に影響を与えることがあると指摘されています。日本を含む多くの国で低年齢からの利用が広がっており、子どもの睡眠を守るうえで気をつけたいポイントとして注目されています。

乳幼児の睡眠は、脳の発達と深く関わっています

昔から「寝る子は育つ」といいますが、乳幼児期の睡眠が脳の発達と深く関わっていることは、近年の研究から明らかになってきています。乳幼児期に睡眠不足が続くと、その後の注意力の問題や落ち着きのなさ、気分の不安定さなどのリスクになることも指摘されています。そのため、最も発達が進む0~3歳の睡眠は、特に大切にするのが望ましいと考えられています。

子どもが寝てくれないとイライラしたり、育児に自信を失ったりするママ・パパも

子どもの睡眠課題は、ママ・パパのメンタルにも影響を与えやすいです。ママ・パパからは「子どもが夜中に何度も目を覚ますから、親も寝不足です」「子どもが寝てくれないからイライラして、つい叱ってしまう」「子どもを寝かせることもできないなんて…と、自己嫌悪に陥ることがある」などの声も聞かれます。

一部の自治体で運用が始まり成果を上げている「ねんねナビ®️」

「ねんねナビ®️」アプリのトップ画面

日本では、小児睡眠の専門家が少なく、子どもの睡眠に悩んでも専門家からアドバイスが受けづらい、という課題があります。

そこで大阪大学大学院連合小児発達学研究科の研究グループでは、2014年から研究をスタート。睡眠課題を改善するアドバイスアプリ「ねんねナビ®️」を開発して、2017年からいくつかの自治体で実証実験を行い、有効性を確認しました。現在は、大阪府吹田市、石川県加賀市、徳島県鳴門市で運用中です。

対象年齢は主に1歳6か月~3歳代ですが、乳幼児健診でチラシを配布したり、健診会場にポスターを貼ったりして、ママ・パパに利用を呼びかけています。また自治体だけでなく、小児科クリニックでも導入されています。

LINEで運用。届いたアドバイスを試しながらスモールステップで睡眠課題を改善

「ねんねナビ®️」の主な利用の流れは次の通りです。

① スマホのLINEで友だち登録をして、子どもの生活リズムを連続8日間記録する。

② 記録をもとに、子どもの様子やママ・パパの悩み、家庭の状況などに合わせたアドバイスが5パターン程届く。

③ ママ・パパが無理なくできるアドバイスを1つ選び、翌月までトライする。

④ 再び連続8日間の生活リズムを記録する。

このサイクルを1か月ごとに繰り返す。

ねんねナビ®️から届くアドバイス例

アドバイスは、たとえば「朝7時半*までに、寝室のカーテンを開けて子どもが太陽の光を浴びるようにしてみる」「午前中は、30分以上は外遊びをしたり、子育て支援センターなどに行ってみる」「午後の昼寝は16:00*までに切り上げる」「お風呂の前までに、テレビ、スマホ、タブレットを見せるのは終わりにする」などです。スモールステップで改善を図っていくため、ママ・パパがトライしやすい提案が特徴です。

(*は、理想的な目標ではなく、ご家庭の状況に合わせた数値の例を示しています)

またアドバイスは、小児睡眠と小児発達を専門とする医師・心理師などの専門家チームがエビデンスに基づいて作成。子どもの様子やママ・パパの悩み、家庭状況などに合わせてAIが自動判定してメッセージを送ります。

利用者の9割が、子どもの睡眠の改善を実感

私たちの調査では、「ねんねナビ®️」の導入によって利用者の9割が眠りの改善を実感しています。利用者の声を紹介します。

〇3歳児のママ

保育園の先生から「寝る時間が遅い」と言われて、どうしたらよいか困っていました。でも「ねんねナビ®️」は、忙しい私にもできそうなアドバイスを提案してくれるので、取り組みやすかったです。家族全員の生活リズムも整い、1日の流れがスムーズになりました。

〇2歳・9歳児のパパ

子どもが2人とも夜中に何度も起きて困っていました。「ねんねナビ®️」のアドバイスは、具体的で、共働き夫婦でも取り組みやすい内容なので、親も行動に移しやすかったです。

「ねんねナビ®️」のアドバイスによって、子育て不安も軽減

「ねんねナビ®️」は、子どもの睡眠改善だけでなく、アドバイスによってママ・パパの子育ての不安やイライラ感が軽減することも特徴です。私たちの調査では、6割が子育てに自信がついた・不安が減ったと答えています。

利用した方からは「ねんねナビからの“今日もお疲れさま”などのメッセージに励まされました。また少しの変化でも“改善していますね!”とほめてくれるので、子育てに自信がつきました」という声も聞かれます。

発達特性がある子どもの睡眠課題にも介入

「ねんねナビ®️」は、現在、大阪大学・金沢大学が共同で、発達特性がある子どもの睡眠の課題をサポートする研究を進めています。子どもの眠りには個人差がありますが、発達特性がある子どもでは、たとえば「感覚過敏や聴覚過敏によって、わずかな刺激や音でも目を覚ましてしまう」「寝かしつけに多くの時間や大人のサポートが必要になる」など、特性に関連した困りごとが生じることがあり、ママ・パパの育児負担も大きいです。今後は、発達特性がある子どもの睡眠の悩みをサポートして、ママ・パパの育児負担を軽減するとともに、すこやかな発達を支援するツールの開発が目標です。

取材・構成/麻生珠恵

記事監修
吉崎亜里香先生
大阪大学大学院連合小児発達学研究科附属 子どものこころの分子統御機構研究センター。臨床心理士、公認心理師、博士(医学)。専門分野は、発達臨床心理学、小児睡眠、認知行動療法。「ねんねナビ®️」開発のほか、睡眠健康教育、神経発達症支援の地域連携などの研究を行う。

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