始まりは、社会への不安と願いの話から。
坂本美雨さん(以下敬称略)「社会への悲しみや怒りが強く、本当に怖くて仕方がないと感じるときもあって。不安なことだらけですが、それを何とか自分の人生の中でちょっとでもいい方に変えられたらいいなと思っているんです。けれど、猫を1匹元気にするだけでもいっぱいいっぱいになったりもするので、そんなに大きなことはできないとは思うのですが、でもやっぱり子どものことを考えるとほんの少しでもいい社会になるといいなと強く願っています」
五味太郎さん(以下敬称略)「今の社会、というか大人だな。大人が今壊れ始めているんだよね。なんで壊れちゃったんだろうかと考えると、個人的にはいつも初等教育の問題にぶち当たるのね。一般に子どもと言われるあの元気な時期、つまり6歳くらいかな。そこから10〜20代あたりまで、あんなにいい時期を、学校という設定の、あんなに貧しい空間で、あの子たちをシステム化してしまう社会。これはやっぱり壊れる原因の一つだろうなと」

学校に行っている時間が長いなぁ
坂本「本当にそう思います。娘が4年生になったのですが、比較的自由な学校で、彼女にも合っていていいなと思ってはいるのですが…。それでも、ふと、学校に行ってる時間が長いなぁと感じるんです。夕方に帰ってきてご飯食べて、9時には寝かそうと思うとちょっとしか一緒にいられないから、つまらないなぁといつも思うんです(笑)。この大切な時期にもっともっと一緒に過ごしたいのに、と考えてしまって。」
五味「学校はシステムだから、軽く扱えばいいんだよね。けれど社会全体で見ると、学校ありきなんだよね。生意気言うけど、俺は学校に行ってるときから、学校制度の異常さに気づいていたわけ。ここはなんか不思議な世界だなと。でも俺の時代は、戦争に負けて大人が何をしたらいいのかわからない時代だったから、システムもまだしっかりしていなかったんだよね。だからそれが救いだったのかもしれない。今だったら許されないようなことが許されていて。というか、システムが間に合わなかったんだよね」
偏ったアンバランスな大人たち
坂本「私が幼い頃は、ダメな大人もまだたくさんいて、そういう人たちのダメでもありすごく魅力的なところも見て育ったんです。偏ったアンバランスな大人たち」
五味「社会的な力の方が勝っちゃったんだろうね。そこそこ、という感じで収まる方が平和に生きていけるよって。だから社会はうまくいったのかもしれないけど、個人がつまんなくなっていって」
坂本「私は自分にもダメな部分がもちろんあって、でも親の影響なのか、すごく育ちがいいと思われているということに、大人になってから気づいてビックリしたんです。そう思ってたの? ということがよくあって。そういうとき、もっと自分を見せなくちゃダメなんだなって思います」

五味「また初等教育の問題になるんだけど、この国ほど個人の精神的な個性というものを認めない社会は珍しいと思う。本当に珍しい。みんなが発言をしないし、新しい考えが出てこない。例えば、お金があって長生きして何をする? みたいな価値観を羅列して、そこに向かってみんながしっかり努力するよね。わりと皆が同じ「既製服」みたいになっていく感じというのかな。俺は学校というものを無視していたというか、逃げ回ってきて、今仕事をしていて『どこの学校を出ているんですか?』と聞かれたことないわけよ。学校制度というものが、いい悪いではなく不思議で仕方がない。すごく不思議」
自分で選んで、自分で生きていく
坂本「でもきっと、その学校に入らないと見えない景色みたいなものもきっとありますよね」
五味「面白いこと言う。俺の息子が大学行くとか言い出して、へぇお前なんで大学行くの?って聞いたら同じこと言ってた。『ちょっと見てみたいんだよね』って。そういう発想は面白いと思う。自分で選んで、自分で生きていく。人生って簡単なんだよねということを、俺のまわりはみんな簡単にやってるんだけど」
そして、こんな印象的な言葉も。
五味「子どもが親の心配をし始めたら育児は成功なの。俺は息子に『太郎、大丈夫?』って聞かれるたび成功したなと思ってる」 この言葉に、「それなら私もいい線いってるかもしれない」と笑顔の坂本美雨さん。
子どもを育てること、初等教育、今の社会、戦争と平和、個人と社会、そしてどう生きていくのか――二人の対話は、”子ども”を起点にしながら、大人の生き方そのものへと静かに広がっていきました。
子育てと社会をめぐる、率直で深い対話の時間。この対談の全編は配信でご覧いただけます。
ギャラリートークアーカイブ配信情報
『五味太郎 絵本出版年代記展 ON THE TABLE』で、全6回にわたって開催されたギャラリートーク。編集者、デザイナー、作家、翻訳家、シンガー、文学研究者——多彩なゲストとの対話から見えてきたのは、五味太郎という表現者の核心と、絵本や言葉をめぐる自由で豊かな世界。予測不可能な展開、思わず笑ってしまう瞬間、そして深く考えさせられる問い。どの回も、その場でしか生まれない特別な時間でした。
ぜひアーカイブ配信で、その豊かな対話をお楽しみください。
お好きなタイミングでご視聴いただける【アーカイブ配信】のオンライン配信チケットをご購入いただけます。 (配信終了は2026年5月末日。※アーカイブ配信は、内容を一部カットする場合がございます。)
全6回のラインナップ:
- 歴代編集者たち /絵本ができるまでの裏話
- 祖父江慎さん(ブックデザイナー) /空っぽになる力、感覚を信じること、デザインについてなど。新刊『そういうことなんだ』公開打ち合わせも
- 荒俣宏さん(作家・博物学者) / 本はどこまで自由になれるのか。知的冒険の2時間
- 金原瑞人さん(翻訳家) / 翻訳で見える言葉の面白さ。10年越しの宿題とは?
- 坂本美雨さん(シンガー) /子育てと社会、「今、大人が壊れちゃってる」とは?
- ロバート キャンベルさん(日本文学研究者) / 誤解は愉快。答えが出ない面白さなど
配信特設サイト:
https://dps.shogakukan.co.jp/gomitaro50
※本記事は、2026年1月23日開催のトークイベントを再構成したものです。
★代官山LURF GALLERYでの『五味太郎 絵本出版年代記展 ON THE TABLE』は2026年2月15日で終了いたしました。次は千葉県の佐倉市立美術館に巡回予定、2026年4月11日〜7月5日まで、『五味太郎 絵本クロニクル展』として開催されるそうです。
人生にモヤモヤしている人にもおすすめ!
『そういうことなんだ』五味太郎著
2026年 3 月 5 日発売

文/柿本真希