社会情勢が不安ないま、戦争と平和を親子で考えるきっかけに。国連WFP協会理事・本田亮さんが絵本『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』に託したメッセージ

イスラエル・パレスチナ、ロシア・ウクライナ、そしてアメリカ・イラン……。世界各地で続く紛争や痛ましいニュースに胸を締め付けられ、「子どもにどう伝えればいいのか」「平和のためにできることはないのか」と不安を抱いているママやパパもいることでしょう。そんな今、ぜひ手に取ってほしいのがストーリー絵本『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』です。
環境マンガ家として40年以上発信を続け、国連WFP協会の理事も務める著者の本田亮さんに、本書に込められたメッセージを伺いました。

シリアスなニュースを、優しく、楽しく、広く伝えたい

――本田さんが『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』を描くに至った経緯からお聞かせください。

本田さん:やはり、昨今の社会情勢が影響しています。イスラエルとパレスチナ、ロシアとウクライナの問題、あるいはアメリカの一国主義……。人間が、特に大国がわがままばかり言って、他国に対してひどいことをしているニュースをたくさん見るにつけ、「世の中が非常に良くない方向へ向かっている」という強い危機感を持ちました。

こうした大国のトップが進めている物ごとに対して、「何か優しい形でメッセージを送ることができないか」と思ったことがきっかけです。

――メッセージを伝える手段として、「絵本」という形を選ばれたのは、やはり子どもたちに伝えたかったからでしょうか?

本田さん:それもありますが、もう一つ理由があります。こういう戦争や平和といったテーマは、すごくシリアスに描くこともできます。でも、そういう本を買う人は、最初から社会の動きに対して高い意識を持つ人たちに限られていると思うのです。

私はどちらかというと、意識がそこまで高くない、ごく普通の人たちに広く知ってほしかった。普通の人の方が、圧倒的に人数が多いですからね。

昨今は、書籍は売れないけれど絵本はまだ売れている、という話も耳にしていました。それならば、シリアスな戦争と平和について、絵本という形で多くの人に伝えてみようと考えました。

イラストやクイズを活用し、子どもたちに環境問題について楽しく伝える講演活動も行っている。

本田さん:「世界全体の平和」よりも「自分の国の豊かさ」を優先する自国第一主義の方向に向かっている今だからこそ、一瞬立ち止まって、人間本来の「優しさ」をもう一回思い出す必要があります。

その際、難しい言葉で力説するよりも、かわいいイラストを使って優しく楽しく伝えた方が、多くの人の心に届くのではないかと思ったのです。

――作中ではみつばちの首が取れていたり、体が真っ二つになっていたりと、あえて「死」を直視させる描写があります。ただ、絵がかわいいので、子どもを必要以上に怖がらせることなく大切なことを伝えられるため、安心して読み聞かせができます。

本田さん:それは良かった! 私は長年、環境問題をテーマにマンガを描いてきましたが、環境問題も本質は重くて暗いもの。でも、絵のタッチが優しければ「壁に飾ろうかな」と手に取ってもらいやすくなります。

楽しく絵を見ながら、その向こう側にあるメッセージを同時に感じてもらう。それが私の伝え方です。

魔法の言葉「ダイダイジョーブ」が意味する前向きな心のあり方

――物語の中で、過酷な運命に翻弄される主人公・フローラが何度も口にする「ダイダイジョーブ」という言葉が印象的です。どのような思いが込められているのでしょうか。

本田さん:まず、読後感をポジティブなものにしたいという気持ちがありました。どれだけ痛めつけられても、フローラは決してくじけないし、誰も恨まない。その「心のあり方」を、子どもたちにも感じてほしいと思いました。

――お守りのような感じで、親が子どもに読み聞かせる際、その言葉を口にするだけでも意味がありそうです。

本田さん:まさに「お守り」や「チチンプイプイ」のような魔法の言葉で、親御さんが子どもに言ってあげるといいですね。読み進める中で、子どもが悲しい思いをすることもあるでしょう。そんなときに親御さんが「大丈夫、フローラはまた立ち上がってお城を作るんだからね」と言うことで、子どもの中に安心感と希望が育つと思っています。

フローラが子どもたちに「ダイジョーブ」と言い聞かせている。

なぜフローラは優しいのか。みつばちの性質に見る「平和」のヒント

――なぜフローラは、これほどの困難に遭っても優しくいられるのでしょうか。

本田さん:それが、みつばちの性質だからです。彼らは決して攻撃的ではありません。誰かに巣を壊されても、蜜を奪われても、また淡々とやり直す。その「健気さ」は、今の世界が見習うべき姿であり、どこか日本人が本来持っていた精神性にも通じる気がしています。

――最近の社会では、そうした真面目さを冷笑するような風潮もありますが……。

本田さん:そういう「上から目線」や差別意識は、非常によくないですね。コツコツ働く存在を軽んじるのではなく、その尊さを伝えていきたいです。

実は、1匹のみつばちが一生をかけて集める量は、スプーン1杯もありません。私は毎日はちみつを食べていますが、彼らがどうやって集めたのかを想像し、感謝しながらいただいています。私たちが普段なにげなく口にしているものが、誰かの労働の結果であること。そこに気づくだけでも、世界の見え方は変わるはずです。

「知識」が差別を生むこともある。まっさらに人を見る勇気を持とう

――本田さんは国連WFP協会の理事も務められています。日常生活で「これだけはしない」と決めていることはありますか?

本田さん:「誰に対しても、差別のない対等なコミュニケーションをする」こと、でしょうか。人はどうしても、地位や職業、住んでいる場所で相手を判断してしまいがちです。ですが、私はどんなときも相手をそうした色眼鏡で見ないよう心がけています。

――差別しないために、知識をつけることは必要だと思いますか?

本田さん:ええ。ただ、「知識や情報に左右されすぎない方がいい」場合があることもあわせて伝えたいです。第一印象や学歴などの情報で相手を縛ってしまうと、それが先入観となり、差別意識につながってしまう可能性もあるからです。

私は日本各地や世界中の川をカヌーで旅する「サラリーマン転覆隊」という活動をしています。転覆隊では、様々な地域を訪れ、多くの人と出会いますが、一見「なんじゃこりゃ」と思うような個性的な人でも、話してみるとものすごい魅力を持っていることに気づきます。最初の印象や情報だけで相手のことを決めつけずに、素直にその人自身を見ることが大切だと実感しています。

本書の印税は、すべて国連WFPによるガザ地区の食料支援に役立てられる。

平和へのアプローチ――ネットを閉じ、現地の空気を感じること

――この絵本を読んだ親子が、さらに平和について知りたいと思ったとき、何ができるでしょうか。

本田さん:今はネットやAIで何でも調べられますが、あえて「海外へ行き、その土地を見ること」が何より重要だと思っています。

それも、先進国ではなく、ミャンマーやカンボジアなどの開発途上国を訪れるといいでしょう。そこでは、物乞いをする子どもの姿やスラムの風景を目にするかもしれません。ネットで得た情報より、その土地の空気を肌で感じ、子どもたちと接したときに受ける刺激の方が、意識を根底から変えてくれるはずです。現地の人を知ることで、外国の人に対する意識も自然と変わっていくでしょう。

※2026年3月現在の情勢に基づき、渡航の際は外務省の海外安全情報を必ずご確認ください

ーー最後に、これから『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』を読む方へメッセージをお願いします。

本田さん:日常生活の中で、はちみつを食べたり、みつばちを見たりしたとき、フローラのように健気にがんばっている「弱い立場の人たち」のことも一緒に思い出してほしいです。この本をきっかけに、「その人たちの優しさを忘れないようにしよう」と考えてもらえたらうれしいです。

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本田さん初めてのストーリー絵本

本田亮 小学館 ¥1,760

フローラは、たくさんの子どもたちを育てる女王ばち。毎日一生懸命はたらいて、はちみつたっぷりの豊かなお城を築きました。でも、たくさんの動物たちがはちみつをうばいにやってきて・・・・・・。
どんなにつらいときも「ダイジョーブ、ダイダイジョーブ」と子どもたちを元気づけるフローラ。フローラの願う“しあわせな明日”って、いったいどうすればやってくるのでしょう? フローラの明日について、私たちの住む世界の平和について、親子でいっしょに考えてくれたらうれしいです。
※本書の印税はすべて、国連WFPによるガザ地区の食料支援に役立てられます。

お話を聞いたのは

本田亮 国連WFP協会理事・環境マンガ家

東京都生まれ。国連WFP協会理事、環境マンガ家、葉っぱアーティスト、カヌーイスト。1998年から小学館のアウトドア月刊誌『BE-PAL』にて連載中の「サラリーマン転覆隊」の隊長としても知られる。1990年より、環境問題や社会問題をわかりやすく楽しく解説するユーモアイラストを描き続けている。「エコノザウルスの環境マンガ展」や「SDGsユーモアイラストレーション展」などの展覧会も開催。近著に、『ムズカシそうなSDGsのことがひと目でやさしくわかる本』(小学館)や、『環境問題を楽しく学べるエコかるた』(プレーリードッグ)など。

文・構成/HugKum編集部

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