陰山先生:「百ます計算」には、計算が速くなる、集中力が身につくという効果があるのですが、この『陰山メソッド徹底反復 百ます計算』は、子どもが「自分もやればできるんだ!」と自信をつけることができるドリルなのです。
「百ます計算」とは、縦 10 ます×横 10 ますの上と左に並んだ0~9の数を、たしたり、ひいたり、かけたりして、交差したますに答えを書いていく学習方法です。毎回、かかった時間を計り、目標タイム 2 分を切ることをめざします。

この「百ます計算」を考案されたのは、私の師匠の岸本裕史先生(きしもと・ひろし1930~2006 年)で、1963 年のことだったそうです。私は、教師になって 7 年目に岸本先生の研究会に参加して「百ます計算」を知り、自分の授業に取り入れました。
「百ます計算」は勉強ができない子への指導法としては有効でしたが、ハードルが高いものでした。1 問で 100 回も計算しないといけないのですから、すぐには向上しないのです。
同じプリントを3日やったらタイムが向上!
「百ます計算」の使い方の試行錯誤を続ける中、転機は意外なところから訪れました。
教師になって 10 年を超えたころ、授業以外の仕事がどんどん増えて忙しくなってきました。困ったことに、「百ます計算」を印刷する時間も取れなくなってきたのです。そこで良くないことと思いながらも、同じプリントを 3 日分印刷して子どもたちに渡したのです。
すると 2 日目、子どもたちは大喜びです。「百ます計算」が楽になったからです。
3 日目も同じ問題だから、一気にタイムが上がります。子どもたちは不安が減り、取り組む姿勢が変わって意欲的になりました。
子どもたちが喜んでやっていますから、私もいけないことと思いながらも、今度は 1 週間分、次は 10 日分とプリントを渡してしまいました。
すると 2 分をクリアする子がどんどん出てきたのです。
こんなやり方では「百ます計算」が速くなっただけで、本当の計算力が高まっているはずがないと思っていました。
ところが、子どもたちに筆算の問題を与えたところ、1か月前とは大違いで、みんなサーッと解いていったのです。本当に驚きました。
数字の並びを変えたプリントで苦労しようが、同じ問題で楽に練習しようが、「百ます計算」が2分以内になれば、子どもたちの計算力は上がるのです。
さらに検証すると、高学年であれば、「百ます計算」を2週間続けると、タイムがほぼ半分になることがわかりました。

徹底反復でタイムが急速に上がる!
私は高学年を担任することが多かったのですが、2 週間でタイムが半減することがわかってからは、学期の初めに子どもたちにこう予告しました。
「『百ます計算』を 2 週間やったら、タイムが半分になる。計算のスピードが倍になる」と。
子どもたちは「ウソだ!」って信じません。子どもたちに「やればできる」と言っても、子どもたちは「やってもできない」という経験をくり返し、高学年になってきています。
ですから「やってもできない」と信じ込んでいるのです。
しかし、同じ問題の「百ます計算」をくり返すと、実際にタイムは急速に上がります。
子どもたちは「やればできるかも」と思い始め、やがて「もっと速くなりたい」と思うようになります。みんな集中するようになります。そして子どもたちの頭の中にあった「モヤ」が晴れて、「自分もできるようになれる!」と信じられるようになるのです。
この指導から得た教訓とは、子どもたちを最も効果的に伸ばす学習方法は
「決められたことを単純な方法で、徹底的に反復すること」。
いろいろと手間暇をかけ、やり方を工夫し続けて導き出した結論が、「最も横着なやり方」だったのです。
こうして誕生したのが『陰山メソッド 徹底反復 百ます計算』です。
「百ます計算」は、くり返すごとに計算が速くなり、学習時間はどんどん短くなるのに、子どもたちの学力はぐんぐん伸びていくのです。

「百ます計算」は小学 2 年生から。2 年生の秋に子どもは「突き抜ける」!
陰山先生:僕が小学校の現場に立っていたころは、4 月は何よりも「百ます計算」。「百ます計算」は 2 分間集中するトレーニングであり、知能を高める学習です。学期の最初に集中的に取り組んで、子どもたちの知能をできるだけ引き上げるのです。そうすることで、子どもたちは自信がつき、後の学習が楽になる。
岸本先生が言われていたように、百ますのたし算・ひき算・かけ算がすべて 2 分を切るようになると、計算力が一気に高まります。分数や小数の計算もできるようになります。小学校で学習する計算で、つまずくことがなくなるのです。
愛さん:この春、小学 3 年生になった娘(長女)は、2 年生の夏までは「十ますたし算」「十ますひき算」をやっていました。夏休みから「百ますたし算」を始めて、休みの終わりに 2 分を切れるようになり、秋から「百ますひき算」を始めたのですが、かなり苦戦していましたね。それが 11 月ごろに急にひき算でも 2 分を切るようになりました。
父はこれを「突き抜け」だって言います。私の塾で見ていても、高学年の子は徐々に伸びていくのですが、1 年生・2 年生は、ゆっくりというか、なかなか伸びない。それが2年生の秋冬に急にバン!と突き抜ける。それが実際に自分の娘にも起こりました。
それまで親の言葉に反応はしていてもしゃべらなかった赤ちゃんが、一度しゃべり始めると、堰(せき)を切ったようにしゃべるようになる、というのがあるでしょう。それと同じなのだと思います。それまでの積み重ねが突然、2 年生の秋ごろに形となって表れるみたいです。
だから、それまでの積み重ねが大切です。2年生の秋から慌てて家庭学習を始めても、「突き抜け」は起こりません(笑)。

陰山先生:2 年生の秋になると、「速度」を求められるようになります。指先を動かす速さ、字を書く速さも、頭の働きも、あらゆるものが速くなる。タイピングも 2年生の1学期ではできないのに、秋になるとできるようになる。
「百ます計算」2 分以内というのは、答えを速く書かなければいけないので、1年生にはかなり厳しい。2年生の秋からだとタイムがすんなり上がっていきやすいですね。
2年生の夏までは運筆の練習や「十ます計算」などを何度もくり返し、2 年生の秋から「百ます計算」に取り組んで、お子さんの知能を大いに高め、自信をつけさせてあげてほしいですね。
◎『陰山メソッド 徹底反復 百ます計算 新装版』には、あまりのあるわり算が 100問入ったプリント「百わり」も14日分収録されています。中編では、このプリントを収録した理由とその学習効果について詳しく語っていただきます。
中編はこちら
本書は陰山メソッドの代表作『百ます計算』の入門編です。小学1年生で学習するたし算とひき算を、少しずつレベルを上げながら繰り返し学習することで、くり上がり・くり下がりを完璧に仕上げます。
「百ます計算」は、縦10ます×横10ますの上と左に並んだ0~9の数を、たしたり、ひいたり、かけたりして、交差した「ます」に答えを書いていく学習方法です。時間を計りながら、1問2分以内を目標に高速計算することで、脳の処理能力を高め、集中力を養います。
本書は『百ます計算』をしっかりと学習し、1けたの百ます計算がたし算、ひき算、かけ算のどれでも2分以内でできるようになってから取り組むドリルです。2けたと1けたの百ます計算とエレベーター計算で、筆算力をきたえます。
お話を聞いたのは
かげやま・ひでお 1958 年兵庫県生まれ。陰山ラボ代表、「考える子どもを育てる塾」陰山式スコーラ監修。「早寝・早起き・朝ごはん」による子どもたちの心身の健全化、「読み書き計算」の徹底的な反復指導による学力向上を提唱。独自の指導法「隂山メソッド」は常に進化を続け、全国各地の小学校に導入され、大きな成果をあげている。
お話を聞いたのは
かげやま・あい 陰山メソッドを次世代へつなげる役割を担っており、2016 年に陰山式スコーラを開校。現在はオンラインで保護者向けに学習相談やアドバイスも行っている 。 『 陰山メソッド 徹底反復 十ますたし算 』、 同 『十ますひき算』(小学館・2025 年 9 月刊)では中心メンバーとなり製作に携わる。二児の母。
取材・文/細川達司 撮影/杉原賢紀(ともに小学館)