前編では『百ます計算』の効果的な使い方についてお話しいただきました
陰山先生:「百わり」は、「百ます計算」とはまったく別物。計算のしかた自体が別格なのです。
九九は0×0から9×9まで、100題あります。これらをすべて1回で練習できるのが「百ますかけ算」です。
一方、九九の裏返しになる、九九1回でできるわり算は、全部で450題あります。
わりきれるわり算90題と、あまりのあるわり算360題です。
さらに、あまりのあるわり算には、あまりを出すときのひき算がくり下がらないものが260題(23÷3、58÷8など)、くり下がるものが100題(31÷4、55÷7など)あります。
このわり算の分け方と指導方法を確立し広めたのが、私の師匠である岸本裕史先生のお仲間、三木俊一(みき・しゅんいち)先生です。
私が校長を務めていた広島県尾道市の土堂小学校(当時)では、この最もやっかいな、あまりを出すときのひき算がくり下がりになるわり算100題を1枚のプリントにし、「百わり」と名付けて教材にしていました。
今回、『陰山メソッド 徹底反復 百ます計算』が新装版になるのを機に、「あまりのあるわり算100」としていた章タイトルを、私たちのなじみのある呼び方「百わり」に改めました。

「百ます計算」と「百わり」とでは、計算に必要な力がまったく異なる
「百わり」が別格というのは、わり算の答え(商)を求める計算と、あまりを求めるためのくり下がりのあるひき算、この2つを同時にしなければいけないからです。
「百ます計算」が単純な計算、シングルタスクを高速化する教材なのに対して、「百わり」は2つのシステム、マルチタスクを高速化する教材なのです。
愛さん:「百わり」になると、難易度は一気に上がります。それは違う能力が必要になるからです。
私も小学3年生のときに、家で父にやらされました。そして、挫折しました。ギブアップです(笑)。
当時、わが家には「百わり」の前の段階というものがなくて、「百ますひき算」が2分でできるようになったら、かけ算は九九を覚えるだけだからと、すぐに「百わり」にいったのです。そこに方法論はない。5分という目標しかない。じゃっかん、根性論はあったと思いますよ(笑)。

陰山先生:「百わり」の目標5分は、小学校の現場としては適正なタイムです。「百わり」を始めた当時は、あえて目標を到達しにくいものにして、そこにこだわる、という思いもありました。
「百ます計算」2分以内というのは、「百わり」5分をクリアするためのものなのです。できれば教師の欲として、「百わり」2分以内という突き抜けた才能を引き出してみたいという思いもありました。実際に2分を切るとんでもなく優秀な子どもも出てきて、そういう子たちは国立大学の医学部に行きましたね。
愛さん:小学校だったら、授業で毎日やらせることができるかもしれません。それが家庭だと、子どもが「もう無理」と音(ね)を上げたらおしまいです。
だから、段階を追ってできるようにと、私の塾では独自の教材を作り、五十わり、七十五わり、百わりと、少しずつハードルを上げられるようにしています。
塾の子たちはこうした取り組みで、ほとんどすべての子が5分をクリアできるようになりました。「百わり」5分を達成するまでに2年かかった子もいますが、2分台でできるようになった子たちもいます。
このわり算教材のメソッドは、今、製作に携わっている『陰山メソッド 徹底反復 プレ百ます計算 かけ算・わり算』(2026年夏刊行予定)に反映されるので、「百わり」へのハードルはかなり下げられると思います。

陰山先生:「百わり」は確かにむずかしい教材ですが、知能を高めるためには最もよいコンテンツです。小学校で習う計算はほとんどがシングルタスクの計算です。筆算もシングルタスクなので、マルチタスクの計算は「百わり」のほかには分数の約分・通分しかありません。しかし、中学受験の算数には、マルチタスクが必要な問題が入ってきます。
マルチタスクの計算能力が身につけば、中学受験に強くなります。連立方程式ができるようになります。微分積分まで計算力を伸ばすために必要な力が身につきます。理系の大学への進学には不可欠な力なのです。
陰山メソッドの「徹底反復」の肝は、できるようになるまで反復することです。
お子さんが続けられるよう、大いにほめ、励まして、「百わり」でマルチタスクの能力を養っていただきたいと願っています。
◎「陰山メソッド」=「百ます計算」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、「陰山メソッド」とは「読み書き計算」の「徹底反復」で基礎学力を向上させるもの。後編では、このメソッドについて詳しく語っていただきます。
後編はこちら
本書は陰山メソッドの代表作『百ます計算』の入門編です。小学1年生で学習するたし算とひき算を、少しずつレベルを上げながら繰り返し学習することで、くり上がり・くり下がりを完璧に仕上げます。
「百ます計算」は、縦10ます×横10ますの上と左に並んだ0~9の数を、たしたり、ひいたり、かけたりして、交差した「ます」に答えを書いていく学習方法です。時間を計りながら、1問2分以内を目標に高速計算することで、脳の処理能力を高め、集中力を養います。
本書は『百ます計算』をしっかりと学習し、1けたの百ます計算がたし算、ひき算、かけ算のどれでも2分以内でできるようになってから取り組むドリルです。2けたと1けたの百ます計算とエレベーター計算で、筆算力をきたえます。
お話を聞いたのは
かげやま・ひでお 1958 年兵庫県生まれ。陰山ラボ代表、「考える子どもを育てる塾」陰山式スコーラ監修。「早寝・早起き・朝ごはん」による子どもたちの心身の健全化、「読み書き計算」の徹底的な反復指導による学力向上を提唱。独自の指導法「隂山メソッド」は常に進化を続け、全国各地の小学校に導入され、大きな成果をあげている。
お話を聞いたのは
かげやま・あい 陰山メソッドを次世代へつなげる役割を担っており、2016 年に陰山式スコーラを開校。現在はオンラインで保護者向けに学習相談やアドバイスも行っている 。 『 陰山メソッド 徹底反復 十ますたし算 』、 同 『十ますひき算』(小学館・2025 年 9 月刊)では中心メンバーとなり製作に携わる。二児の母。
取材・文/細川達司 撮影/杉原賢紀(ともに小学館)