【子どもの水難事故】実は海よりプールで多発していた!水中の見えない死角、救命のタイムリミットなど、水難学会理事・斎藤秀俊さんに聞く夏休み前に親子で知っておきたい注意すべきこと

夏になると、川や海、プールでの事故が相次ぎます。「絶対に目を離さないようにしよう」——そう心がけていても、わが子の異変に気づけなかった。そんな痛ましい事故が、毎年後を絶ちません。

「見ていたはずなのに」「すぐそこにいたのに、どうして…」そんな言葉の裏には、思わぬ"視覚の落とし穴"が潜んでいます。なぜ、目の前にいる子どもの危険を見逃してしまうのでしょうか。水難学会理事・斎藤秀俊先生 に、水辺で起こる「見えているつもり」のメカニズムと、いざというときに命を守るためのポイントを伺いました。

「監視員がいるから安心」は危険? プールで起きやすい子どもの事故

——これから夏休みにかけて、家族で海や川、プールへ出かける機会が増えていきます。水辺の事故が多く起きてしまうのは、どのような場所なのでしょうか。

斎藤秀俊先生(以下、斎藤先生)子どもの水難事故は、海よりもプールで多く発生しています。海は波があるため危険を感じやすく、親御さんも子どもと一緒に水に入って見守ることが多い傾向があります。
一方でプールは「監視員がいる」「管理された施設だから安全」といった安心感から、保護者がプールサイドで見守るだけになりやすいのです。その間にスマートフォンを見たり、ほかの保護者と話したりしていると、子どもの異変に気づくのが遅れてしまうことがあります。

——監視員がいるという安心感が、かえって油断につながり、思わぬ事故を招くこともあるのですね。プールの事故で、起こりやすいパターンなどもあるのでしょうか。

斎藤先生:プールで特に多い事故は2種類です。ひとつはプールサイドからの転落。もうひとつは、水深を調整するために設置された調整台、いわゆる「赤台」からの転落です。赤台の上に乗った子どもがバランスを崩し、そのまま水中へ落ちてしまうケースも珍しくありません。

「静かに溺れる」は誤解だった? 実際には音や水しぶきも上がっている

——「子どもは静かに溺れるため、周囲が気づきにくい」と聞くこともあります。実際はどうなのでしょうか。

斎藤先生:最近ではプールに監視カメラが設置されることも増え、その映像を解析することで、実際は「静かに溺れている」というイメージとは異なることが分かってきました。子どもは溺れながら必死にもがいていますし、水しぶきも上がります。いわゆる、アップアップした状態で激しく動いているんです。ただし、その時間は決して長くはありません。

——「静かに溺れる」というイメージとは異なりますね。

斎藤先生:そうですね。一瞬目を離した隙に、子どもはすでに水中へ沈んでしまっていると、水面からは姿が見えなくなります。そのため、周囲の人が気づいたときには、まるで子どもが突然消えたように見えて「静かに溺れた」と受け止められてしまうのです。

「水は透明だから見えるはず」は誤解! 水中に潜む“死角”とは

——子どもが水中に沈んでしまった際に、なぜすぐ周囲の大人が気づくことができないのでしょうか?

斎藤先生 :みなさん、「水は透明だから中がよく見えるはずだ」と思っていますよね。実は、それこそが大きな勘違いなんです。実際には、水中の様子は驚くほど見えていません。

——透明なのに見えないとは…どういうことでしょうか?

斎藤先生:「透明」であることと「全部見える」ことはイコールではありません。原因は、小学校の理科で習う「光の屈折」にあります。水と空気では光の屈折率が異なるため、水面を通して見ると錯覚が起きる。「見えているつもり」になっているだけで、死角だらけなのが現実です。

水面から見た写真(上)では、人形は確認できませんが、水中から撮影した写真(下)では、その姿がはっきり見えます。同じ場所でも、見る角度によって見え方は大きく変わるのです。(写真提供:斎藤先生)

斎藤先生:ベテランの水泳指導員の方であっても、私たちの講習会で実験映像などを見てもらうと、「見えているつもりだったけれど、実は見えていなかった」と驚かれます。多くの方は「屈折」という言葉自体は知っていますが、それが実際のプールでどのような見え方の違いや死角を生んでいるのかは、イメージしにくいのかもしれませんね。

10メートル先の足元も見えない!

——実際には、どのくらいの範囲まで水中の様子が見えているのでしょうか。

斎藤先生:水面から見ると、5メートル先にいる人の足元であれば見える程度です。10メートル先になると、ほとんど見えなくなります。プールの反対側にいる子どもの水中の様子は、確認できないと考えた方がよいでしょう。

5m先の人の足元は確認できますが(上)、10m先になると足元は見えなくなります。(下)(写真提供:斎藤先生)

——10メートル先でも見えないとは…想像以上に範囲が狭くて驚きます。

斎藤先生: そうですね。プールの底に描かれているコースラインは、水面の上からでもはっきり見えるようになっています。そのため、底が見えていると「水中の子どもも見えているはずだ」と錯覚しやすいのです。この「見えているつもり」という思い込みが、子どもの異変への気づきを遅らせる一因になっています。

「5分以内」が救命のカギ。発見の遅れが命を左右する

——万一、子どもが溺れてしまった場合、救命のためのタイムリミットはどれくらいなのでしょうか。

斎藤先生:救助して引き上げ、人工呼吸などの応急処置によって救命できる可能性が高いのは、沈んでからおおむね5分以内。水中に沈んでしまった場合は、まさに一刻を争う状況と言えるでしょう。

さらに脳へのダメージを防ぐためにも、できるだけ早い発見と救助が欠かせません。発見がわずか1分遅れるだけでも、その後の回復や後遺症の有無に大きく影響する恐れがあるのです。

もしものとき命を守る「浮いて待て」――救助されるための技術

——万が一、水に落ちてしまったとき、子どもが自分の身を守る方法はあるのでしょうか。

斎藤先生:重要になるのが、「浮いて待て」(=水に落ちてしまったときは、水面に浮いて救助を待つ)という考え方です。実際に救助された人たちの多くは、浮いた状態で待つことができていました。水面に浮いていれば発見されやすくなり、助かる可能性も大きく高まるのです。

——まずは「浮く」ことが大切なのですね。

斎藤先生:そうなんです。岸まで泳ぐという選択肢もありますが、服が水を含むと体が重くなり、普段のようには泳げなくなります。そのため、「無理に泳がず、まずは浮いて待つ」という選択ができることが大切なのです。
背浮きは練習すれば子どもでも身に付けることができますし、いざというときに自分の命を守る大切な技術になるので、ぜひこの夏、親子で一度チャレンジしてみてほしいと思います。

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では、もしものときに子どもの命を守るためには、なにを身に付けておけばよいのでしょうか。プールや海で練習できる「背浮き」の具体的な方法や、「ライフジャケットの正しい使い方」について、後編で詳しくご紹介します!

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お話を伺ったのは

斎藤 秀俊さん 長岡技術科学大学教授・一般社団法人水難学会理事

工学博士。長岡技術科学大学教授、一般社団法人水難学会理事。「水難は神の領域」と考えられてきた水域での事故や事件について、工学、医学、教育学、気象学など多角的な視点から検証・研究を行う。風呂やプール、河川、海、雪氷環境などを対象に、実験や現場調査を重視した研究活動を展開。全国各地で発生する水難事故の調査や、水難偽装・業務上過失事件に関する科学捜査にも数多く携わっている。テレビ、新聞、雑誌、Webメディアなどでも水難事故防止に関する情報発信を続けている。主な著書・監修書に『最新版 ういてまて(水難学会指定指導法準拠テキスト)』(新潟日報事業社)などがある。
◆一般社団法人水難学会 公式ホームページはこちら

この記事を書いたのは

牧野未衣菜 ライター

子育てや教育分野を中心に取材・執筆。また、認定NPO法人で、不登校やさまざまな困難を抱える子どもたちと関わっています。2児の母としての子育ての実感も重ねながら、日々の悩みや、子育てのリアルな声を丁寧にすくい上げ、やさしく伝える記事づくりを心がけています。

取材・文/牧野 未衣菜

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