
読み方は「じゅうはちばん」でも間違いではない
「十八番」と書いて、「おはこ」と読みます。「カラオケで十八番の歌を歌う」のように使います。得意の芸とか、得意とする物事という意味です。もちろんそのまま「じゅうはちばん」と読んでも間違いではありません。
「おはこ」という語はいったいどのようにして生まれたのでしょうか?
「はこ」は「箱」のことで、もともとは、大事な品を箱に入れて保存するように大切にする、という意味の「箱入り」と深い関係のある語です。
歌舞伎の市川団十郎が制定したのが由来

「十八番」と書くのは、江戸時代に歌舞伎の市川宗家が得意芸「歌舞伎十八番(じゅうはちばん)」の台本を箱入りで保存したことに由来するといわれています。中でも七代目市川団十郎は、市川家の得意な芸を「歌舞伎十八番」として制定し、公表しています。七代目は文化・文政期(1804~30年)から安政 (あんせい)(1854~60年)にかけて活躍した名優です。ちなみに当代の団十郎は十三代目です。
ただ、「歌舞伎十八番」という語自体は、七代目団十郎の造語ではなく、市川家以外でも江戸歌舞伎の当たり狂言を選んだものをそのように呼んでいたようです。そのため、得意芸のことを「十八番」というのは、市川家に限ったことではなく広く使われていたとする説もあります。
ちなみに市川家の「歌舞伎十八番」とは『鳴神(なるかみ)』『暫(しばらく)』『勧進帳(かんじんちょう)』『助六(すけろく)』『外郎売(ういろううり)』などがそうです。いずれも家の芸である荒事(あらごと)と呼ばれる、扮装と演技が象徴的に誇張された、豪快な演出法を特徴とする演目ばかりです。
さらに余談です。「十八番」と演目を「番」で数えていますが、この「番」はもともと能楽で曲数を数えるのに用いる語でした。これが歌舞伎でも使われるようになり、さらには「テレビ番組」「音楽番組」などのように放送の世界でもいまだに使われているというわけです。
とっておきの得意とする芸を「おはこ」というのは、江戸時代からです。そしてそれが、その人のよくする動作や口調の癖という意味で使われるようになったのは、小説などの使用例を見る限り明治時代になってからのようです。
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監修

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。