10キロ減量し、患者になりきった川口春奈

『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』というタイトルがすでに“感涙映画”だということを物語っている本作。確かにハンカチをスタンバイして臨みたい作品ではありますが、ただ闘病の悲劇や純愛だけを掘り下げた映画ではありません。物語は一組のカップルのラブストーリーからスタートしますが、その後「もしも、自分や自分の大切な人ががんにかかったとしたら、どうするか」という問いを、自分事として考えさせられる映画になっています。
原作は、バラエティー番組「1億人の大質問!? 笑ってコラえて!」内の「結婚式の旅」コーナーで、日本中の視聴者から涙を搾り取った遠藤和(のどか)による同名手記。それは、21歳でステージIVの大腸がんを宣告され、24歳の若さでこの世を去った和さんが、夫と娘に遺した尊い愛の記録です。彼女が選んだのは、愛する人と結婚し、抗がん剤治療を中断してまで子どもを産み、母となる道でした。
本作は、物語の時間軸に沿って撮影していく順撮りが敢行されましたが、主演の川口さんは、約2か月の撮影期間で10キロ減量し、和さんになりきりました。そんな和さんを支えていく恋人で、後に夫となる遠藤将一役に高杉真宙、和さんの家族である櫛引家の次女、遥役に松本穂香、三女の結花役にオーディションで選ばれた新星・中島瑠菜、父親の慎吾役にデビット伊東、母親の美智子役に小林聡美。メガホンをとったのは『溺れるナイフ』の山戸結希監督で、脚本制作段階から、和さんの夫・将一さんとも会話を重ね、真摯に作品を作り上げていったそうです。
産んでくれてありがとう。本作が伝えてくるメッセージ

青森で、時にケンカをしながらも仲良く過ごしていた遠藤和(川口春奈)と将一(高杉真宙)の若きカップル。ある日、和がステージIVの大腸がんに侵されていることが発覚します。自身の余命を悟り、将一との将来に二の足を踏む和でしたが、将一と過ごす日々の中で、2人はより深い愛を育んでいくことに。
やがて2人は結婚し、家族になります。その後、「母になりたい」と和が願うのも、自然の流れかと。和は、将一や家族とも話し合った上で、抗がん剤治療を中断し、命がけともいえる出産に挑みました。そして無事に出会えた、かけがえのない命。余命わずかの和でしたが、産まれてきたわが子を抱きながら、幸せをかみしめていきます。
本作のお披露目会で、川口さんは「原作も、(テレビ放送)映像も改めて観させていただき、監督の想いや映画を作る意義みたいなものにもすごく共鳴したので、私の体で和さんの生き様を表現できたらいいなという想いでやらせていただきました」とコメントされていましたが、まさに川口さんが全身全霊で役を生きたであろうことは、映像からも伝わってきます。また、現在、お腹に新しい命を宿した川口さんが、そのとき、どんな想いでステージに立っていたのかも考えると、さらに熱いものがこみ上げてきます。

和自身の「子どもを産みたい」という願いは揺るぎのないものでしたが、将一や家族の意見は、和の命をいちばん大事に思うからこそ、賛同できないという声も出ました。そこは確かにそうで、簡単に出せる答えではないかと。最初に相談した将一が、真っ向から反対したのは当然のこと。和への愛情が深ければ深いほど、「少しでも長く一緒にいたい」と望み、葛藤するはずです。
また、和だけではなく、娘を支えていく両親や妹たちの心情にも想いを馳せずにはいられないかと。気丈な和の母・美智子(小林聡美)ですが、ある時、和に「こんな体に産んでごめんね」と謝ったとか。もちろん和は「そんなことないよ。産んでくれてありがとう」と答えました。そんな美智子が、「母になりたい」という娘の願いを、どんな気持ちで受け止めたのでしょうか。
父・慎吾(デビット伊東)も将一と同じく、出産には反対でした。劇中で美智子と将一が2人で、「(がんにかかったのが)なんで和なんだろう」と、運命を嘆くシーンが何とも切なかったです。
結果的には、無事、娘を出産した和。もちろん、彼女が選んだ道のりについては、いろんな声が上がるかもしれませんが、私は小さな赤ちゃんを抱いて、「今がいちばん幸せ」だという和の表情を見て、ある1つの答えをもらった気がしました。
和が美智子に言った「産んでくれてありがとう」というフレーズは、本作において、いちばん大事なメッセージでもあるのではないかと。きっと和の娘が大きくなって、母親の手記を読んだとき、同じことを思うはず。そういう意味でいうとこの映画は、母親バンザイ! の映画だと、私は思います。
残された余生をどう生きていくか? のヒントをもらえる1本

本作では、医療における現実的でシビアなやりとりも挿入されています。例えば、抗がん剤の効き目を実感してか、和が担当である内藤先生(星野真里)に「消せるかな? がん」と何気なく聞いたとき、先生は「私たちはがんを消すことを目指しているわけじゃない。目指しているのは、和さんががんと長くうまく付き合うことです」と冷静に答えます。そこは一瞬、ひるんでしまいましたが、確かにそれは、がん治療の初期段階で、先生が説明していたのと同じ内容でした。
また、がん患者といっても多種多様です。和だけではなく、彼女が病院で出会うがん患者・飯島ひかり(森田望智)の奔放な余生の過ごし方もかなりのインパクトを放ちます。がんにかかった際に自分はどう向き合い、残された時間をどんなふうに使っていけばいいのか? そのヒントみたいなものも、本作から受け取れた気がします。
1つだけ最後にお伝えしたいのは、愛する人と共に生き、自分の人生を精一杯、全うした遠藤和という人の生き方を、心からリスペクトしたいということ。そして、この映画を通して、いろいろな世代の方々に、その生き様を知ってほしい! そういう意味では、ぜひHugKum世代の親子にも観てほしいと、心から願っています。

