図書館での児童図書貸し出し数が倍になる!? 本好きを育てるサービス 図書館通帳を知っていますか?

 

読書の秋ですね。なのに、うちの子ったら、なかなか本を読んでくれなくて…と思う親御さんも少なくないかもしれません。そんななか、図書館での小学生の貸し出し数が飛躍的に伸びる、すごい取り組みがあるんです。

読書通帳ってなあに?

いわゆる「読書通帳」*「図書館通帳」と呼ばれるサービスが近年、普及しつつあります。銀行の預金通帳と大きさも形もそっくりの通帳を、専用機械にセット。すると自分が借りた本の記録が、自動で印字されるんです。

(*「読書通帳」は株式会社内田洋行の登録商標です。この記事では総称として「図書館通帳」と表記します。)

銀行のATMそっくりな、内田洋行「読書通帳」の機械。

2010年に山口県下関市の図書館で始まった、このとりくみ。まるで銀行のATMのような「ごっこ遊び」要素も、子どもたちに好評な理由のひとつでしょう。

導入している図書館のひとつ、岐阜県の海津図書館に、筆者も小学2年生の娘を連れて、実際に行ってきました。機械を操作して通帳に自分が借りた本が印字される様子に、娘も「うちの近くの図書館にもあればいいのに!」とテンション上がりまくりです。

導入した図書館ではどこでも、子どもたちには大好評。これまで本に興味を持たなかった子も図書館に行くようになって、導入前に比べて児童書の貸出数が2倍以上に増えている図書館もあるほどです。

本の記録が本好きを育てる

通帳に印字されるのが楽しい!  と図書館に行くきっかけになることに加えて、図書館通帳にはもうひとつの効果もあります。

本が好きな人にはわかる話ですが、自分の本棚を見ていると、それぞれの本を読んだときに感じたことや気がついたことなどを思い出すことってありますよね。それも本の楽しさのひとつ。読書は自分の心の中そのものなんです。

でも、興味を持ったすべての本を買って、ずっと本棚に並べておくなんて、現実には不可能です。その点、読んだ本の記録が通帳という形で残れば、いつでもタイトルを見返すことができますね。いわば図書館通帳は、自分の頭の中に仮想の“本棚”を持っているようなものとも言えるでしょう。

海津図書館では、本の題名に加え定価も印字。借りれば借りるほど「知恵の貯金」が増えていく。

本に触れることで本屋さんにも足が向く

そうやって本に触れる機会を得て、本に親しむなかで本好きになっていく。するとやがて、借りて読むだけでなく、手元に置いておきたいお気に入りの本にも出会います。

そうすると、書店にも足が向くようになります。本が好きな人で、「私は図書館しか利用しない」「私は書店しか利用しない」という人はまずいないですよね。本好きはみんな、図書館と書店の双方を利用しているはずです。

図書館で本に親しんで本好きが育つことは、書店にとっても良いことなのです。

うちの町にもほしい! 図書館通帳

良いことづくめの「図書館通帳」。全国の図書館に広まればいいのに、と思いますよね。しかし、実際には、導入はまだまだごく一部に留まっています。

ネックはズバリ、コストです。文部科学省の指導もあって、学校図書館司書の配置は増えつつありますが、まだまだ、図書館につけられる予算は少ない自治体が多いのです。

協賛企業のスポンサーでクリア!

そんななか、図書館によっては、地域の企業にスポンサーについてもらうことで、コストの問題をクリアしているところもあります。いちばん多いのは銀行です。やっぱり「通帳」なので親和性が高いのでしょうね。また、地元の企業が業績が良かった年に「地域の子どもたちの教育のために使ってほしい」と寄付された事例もあるそう。

なかには複数の企業の協賛を募ることで1社あたりの負担を抑える工夫をし、費用を賄っている図書館もあります。

銀行や信用組合、地元の企業などがスポンサーになっている図書館通帳も多数。

図書館通帳で地域を活性化!

もちろん、独自に予算を組み、導入する自治体もあります。

東京都荒川区もそのひとつ。荒川区では、2017年に図書館を中心とした複合施設「ゆいの森あらかわ」を開館する際に、区内7つの図書館すべてに、図書館通帳を導入しました。
荒川区は日経の「子育てしやすい街ランキング」で1位になったこともある自治体。区長さんが絵本好きということも加わってか、子どもたちの読書促進にはとても力を入れているそうです。
その甲斐あって、導入前と比べると児童図書の貸し出し数は1.2倍、児童の図書館利用登録は1.5倍まで増えたそうです。

荒川区のシステムは、ライトキッズ株式会社製。専用のプリンターを図書館のパソコンにつないでいます。

 

書名と著者名に加え、5つ星を塗って評価を付ける欄も。

 

地域振興予算を使って町おこしのために図書館通帳を導入する自治体もあるとか。

通帳が一冊埋まった子には、オリジナルの賞状やメダルを贈呈するとりくみをしている図書館もあり、子どもたちに本に親しんでほしいという思いが、図書館通帳からあふれてくるようです。

保護者からは、「子どもが大きくなったときに、あなたはこんな本を読んでいたんだよ、と通帳を見せてあげたい」という声もあります。まさに、読書は成長記録のひとつでもありますね。

図書館通帳、たくさん広まるといいですね。

※誰がどんな本を読んだかという情報は「個人情報」です。図書館では、憲法に保障される「思想信条の自由」にのっとり、貸出業務に必要な場合を除き、返却と同時に貸し出しデータも消去されるほど徹底されています。図書館通帳は、利用者個人の管理による読書記録であり、図書館がデータを保有するものではありません。

 

構成・文/渡辺  朗典(児童書編集者)

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