「シュタイナー教育」とは、知性・感情・意志を調和させ、自由な精神を育てることを目的とした教育方法です。シュタイナー教育における発達段階の捉え方や、具体的な授業内容などを詳しく紹介します。
目次
シュタイナー教育とは
シュタイナー教育とは、日本でも取り入れられているオルタナティブ教育(従来の学校教育の枠にとらわれない教育)の一つです。まずはシュタイナー教育がどのように始まったのか、その目的について学んでいきましょう。
哲学者ルドルフ・シュタイナーが提唱
シュタイナー教育とは、ドイツやオーストリアで活躍した哲学者「ルドルフ・シュタイナー」が提唱した教育思想です。
思想家でもあったシュタイナーは「健康な社会を作るためには自由精神を持った人間が必要だ」と考え、1919年「自由ヴァルドルフ学校」の創立アドバイザーとなりました。
ドイツから始まったシュタイナー教育は、徐々に世界中に広まっていき、昨年、最初のシュタイナー学校が創立されてから100年目を迎えました。現在では60カ国以上の国、合わせて1100校以上の学校と1800以上の幼稚園で実践されています。
現在、日本でシュタイナー教育を学べる学校は、アジアで初めて創設されたシュタイナー学校である、神奈川県の「シュタイナー学園」をはじめ7校があります。
自由な人間を育てることが目的
シュタイナーは、教育を「知性に感情と意志を調和させる総合芸術である」と考えました。とらわれない自由な精神を持った人間を育成することで、健康な社会ができるという思想によるものです。
この方針のもとで教育を行うため、設立当初は校長を置かずに教員にも教育の自由が徹底されました。
時代が移り変わるにつれ、各国の文化に沿う教育スタイルを確立しつつありますが、「自由な人間を育てる」という大きな目的に変わりはありません。
子どもの成長と気質に合わせることが大事
シュタイナー教育では、子どもは共通する成長プロセスをたどる中で「個々に合った教育を施されることが理想である」としています。では、シュタイナー教育における成長プロセスと、子どもの気質について見ていきましょう。
四つの構成体
シュタイナー教育では、人間は「四つの構成体」からなると考えられています。
- 物質体
- 生命体
- 感情体
- 自我
「物質体」とは、地球の引力に従う物体としての体そのもののことで、0歳ですでに形成されています。
「生命体」は、7歳前後に形成されるもので、成長や繁殖をつかさどる、引力に逆らって下から上へ伸びていく力のことです。
「感情体」とは喜怒哀楽や快・不快といった心の動きのことで、14歳ごろに形成されます。
「自我」とは、21歳前後に形成される、自分で考えて言葉にする「私」という意識のことです。
四つの気質
さらに、気質についても「生まれつきの個性と遺伝が混ざり合ったもの」であるとして、次の四つのタイプに分類しています。
- 胆汁質(たんじゅうしつ)…意志が強く、決断力・行動力に優れています。かんしゃくを起こしやすく、周囲の人と衝突しやすい傾向にあるのも特徴です。認められることで能力が伸びる
- 憂鬱質(ゆううつしつ)…悲観的かつ非社交的な性質を持っています。繊細で自意識が強く、やや物事を懐疑的に見がちですが、その分探究心や想像力が豊かです。
- 粘液質…おっとりしているが根気があり、指示されたことは時間がかかっても確実にこなすでしょう。
- 多血質…楽天的かつポジティブな性格で、人当たりがよいのが特徴です。自分の感情に素直なので好奇心旺盛で目移りしやすく、集中力に欠けるという性質を持っています。
発達段階を7年ごと、三つに分けて考える
シュタイナー教育では、「体・心・頭」をそれぞれ7年かけてバランスよく育成することを目標としています。0~21歳までの三つの発達段階における教育内容について詳しく見ていきましょう。
第1 ・7年期 0~7歳 体を育てる
0~7歳は「第1・7年期」とされており、体を育てる段階です。子どもらしい遊びを十分に取り入れ、健康的な体作りに取り組みます。
正しい生活リズムを身に付けるとともに、大人の言動を模倣して自然とよい行いを学ばせるため、周囲の大人は手本となるような存在でなくてはなりません。また、子どもの身の回りに置くものについても気を配る必要があります。
第1・7年期に無意識下で覚えたことが、その後の人生の意志決定力や行動力の基礎となるのです。
第2・7年期 7~14歳 心を育てる
7~14歳は「第2・7年期」とされており、心の成長を促す段階です。数多くの芸術作品や自然、音楽に触れる機会を増やし、豊かな感情を育てることを目的としています。
また、この時期は心も体も大きく成長する時期です。これまで同一のものとして捉えていた自分と他人を、別のものとして意識し始めます。
これが9歳前後に訪れる「自我の目覚め」です。「9歳の危機」と呼ばれるこの年代を迎え、子どもの変化に気付く親は少なくありません。
第3・ 7年期 14~21歳 頭を育てる
14~21歳は「第3・7年期」とされており、思考力や判断力を養う段階です。世界や自分の属する社会について興味を持ち、意識的に関わりを持とうとし始めます。
一般的に思春期と呼ばれるこの時期に入ると、子どもたちは自分の頭で考えるようになってくるでしょう。大人は子どもの判断を見守る姿勢を心掛けることが大切です。
ただし、初めのうちはまだ正しい判断ができません。そのため、物事の因果関係について教育を通じて伝えていく必要があります。
シュタイナー教育の具体的な授業内容
シュタイナー教育では、日本で一般的に行われている授業とは異なる教育課程で学習していきます。では、具体的な授業内容とそれぞれの目的について見ていきましょう。
基本は一貫教育
シュタイナー教育では、小学校と中学校を区別しません。一般的な小学校入学時期から8年間は、担任やクラスを変えない「一貫教育」が基本です。
幼稚園からの12年間、もしくは18歳までの15年間を同じように一貫教育している学校もあります。シュタイナー教育といっても、学校ごとに様々な特色があります。
オイリュトミーとフォルメン
芸術面での代表的なカリキュラムに「オイリュトミー」と「フォルメン」があります。どちらもシュタイナーが考え出した芸術教育です。
オイリュトミー
オイリュトミーには「美しいリズム」という意味があり、授業では音楽に合わせて体を動かしたり、輪になってゲームをしたりします。心の動きを表現し、他人との調和を学ぶことが目的です。
フォルメン
フォルメンでは、直線・曲線・渦巻きなどさまざまな線をさまざまな色使いで描きます。幾何学模様を描くことで集中力やバランス感覚を身に付けることが目的です。
エポック授業
「エポック授業とは、国語・算数・理科・社会のいずれか1教科を2~4週間かけて集中的に学ぶことです。一つの教科に絞り、効率的に学習する狙いがあり、全学年を通して1時間目に約100分の授業が行われます。
大きな特徴は「教科書を使用しない」という点です。生徒たちは「エポックノート」と呼ばれるノートを作り、授業で学んだことをまとめて自分で教科書を作り上げていきます。
シュタイナー教育の魅力
150年以上もの歴史を持つシュタイナー教育は、今なお世界中に広がり続けています。その理由はいったい何でしょうか?
シュタイナー教育のの魅力について解説します。
生活リズム・ファンタジーにつながる遊び
生活リズムを整えることの大切さは、シュタイナー教育に限ったことではありませんが、中でもシュタイナー教育は毎日の同じ時間、同じ曜日に同じイベントを繰り返すことを大切にしています。シュタイナー教育では、「規則正しい生活を送ること」で子どもは安心感を覚え、集中力を養いやすくなると考えられています。心身共に健康な生活を送るには欠かせない習慣です。
また、幼い子どもにとって、空想(ファンタジー)は大切な遊び道具です。3、4歳ぐらいのファンタジーに富んでいる時期に、ファンタジーにつながる遊びを提供してあげることは子供の成長にとても有意義な手助けになると考えられています。
とても簡単ですぐ実践できるのが「自然素材のおもちゃ」を与えることです。
子どもは、もともと自由な発想力を持っています。精巧に作られたおもちゃよりも、近くに置いてあるティッシュペーパーやビニール袋など、大人から見ればゴミのようなものに夢中になる子どもは少なくありません。
木の実や布・ひも・木切れなどを渡すと、思いもよらない遊び方をし始めることもあるでしょう。こうした遊びは、子どもの想像力を伸ばすよいきっかけとなります。
感性を伸ばす
シュタイナー教育は、子供の感性を伸ばして、自発的な学習意欲を育てることを重視しています。
幼い頃から感性を伸ばすことによって、自分の意思によって行動できる人間に育てることを目標としているのです。
シュタイナー教育の目的は学力を上げることではありません。しかしながら、自分の考えを持つ人間を育てるという点から、面接や小論文、志望動機や意欲など総合的な人物評価によって選抜を行うAO入試に強い子供を育てるのに向いていると言われています。
シュタイナー教育について学べる本
シュタイナー教育について、より詳しく深く学べる本を3冊紹介します。シュタイナー教育に興味を持たれた方は、是非参考にしてみてください。
マンガでやさしくわかるシュタイナー教育
シュタイナー教育について漫画形式で書かれています。漫画の中では、主人公である小学校教員の目線を通して、シュタイナー教育をはじめて知る人でも理解できるように解説されているので、難解な印象をもたれがちなシュタイナー教育について、教育理念や思想、方法などをわかりやすく学ぶことができます。
シュタイナー学園の卒業生の声も掲載されているので、実際にシュタイナー教育を受けた人達が、シュタイナー教育によってどのような人物になったのかを知ることもできます。シュタイナー教育の入門書として最適な1冊です。
家庭でできるシュタイナーの幼児教育 0歳から7歳児のお母さんに贈ります
3年間に渡って発行された「子どもたちの幸せな未来」シリーズ18冊のうち、シュタイナー教育・幼児教育に関する取材、インタビュー記事のポイントについてまとめられた本です。第一章の「シュタイナー教育ってなんですか?」という見出しからわかるとおり、シュタイナー教育についてはじめて聞く人にもわかりやすくまとめられています。
タイトルにある通り、主に「家庭内で子どもに対して行えるシュタイナー教育」について書かれていて、子どもとの接し方や子育ての具体的な方法、悩みについて書かれているので、子育てをしている方ならシュタイナー教育を抜きにしても共感し、楽しめる内容となっています。
インタビュー記事を抜粋して書かれているので内容も具体的で、いろいろな人のシュタイナー教育に対しての考え方について触れることができる、貴重な1冊です。
新訂版・シュタイナー教育
本書の著者であるクリストファー・クラウダーとマーティン・ローソンはイギリス・オランダ・ドイツなどでシュタイナー教育に関する豊富な教育経験を持ち、現在も教育分野に関して世界中で活躍しています。現場で培われた実戦経験に基づいた説得力のある文書や、シュタイナー教育に関する深い理解の上で書かれているため、シュタイナー教育について深くて正確な知識を得ることができます。
本書の初版は2008年ですが、さまざまな方からの要望によって2015年に新訂版を出すに至りました。シュタイナー教育について本格的に学びたいという方に、ぜひおすすめしたい本です。
感受性豊かな人間性を育む
シュタイナー教育は、幼少期から子供の想像力や感受性を育てることに重点を置いた教育方法で、その目的は自己判断ができる人間を育てることにあります。
子供を成長のペースに合わせて育てることを主旨としているため、子供が自由でのびのびとした人間に育ちやすいのも特徴と言えるでしょう。
シュタイナー教育については、さまざまな著書が出ています。家庭でも実践できる教育方法も紹介されているので、子育て方法の一つとして、参考にしてみてください。
構成/Hugukum編集部