百ます計算 、 学力向上だけが隂山英男先生ではありません 。すでに成人している3人のお子さんの父親でもあります。子育てが一段落した今だから見えてくること、 言えることを、隂山先生の名言とともにたっぷり語っていただきます。
小2は、「算数の壁」にぶち当たる子が多い
2 年生になったら算数が急に難しくなった、と感じる子が増えました。それもそのはず、ママの時代 に比べて今の 2 年生は習うことが増えて内容も難しくなっています。編集部にも2 年生の子のママから算数に関する悩みのメールが届いています。早速、隂山先生にお答えいただきました。
Q:計算問題に抜けが多い
活発で明るい女の子ですが、注意散漫というか中途半端に終わることがよくあります。計算問題で答えが抜けていたり、名前を書き忘れたりすることもよくあります。忘れ物もやはり多く、 どうしたらいいのか悩んでいます。 (愛知県 小 2 女子の母)
編集部(以下 編 ):本日もよろしくお 願いします。
隂山:はい、よろしくお願いします。
編:2学期が始まりましたね。
隂山:うん、 2学期は大事な時期ですからね。
編:隂山先生に相談のメールが届いて いますが、今回偶然にも小学 年生の子 のお母さん2人から算数の悩みです。
隂山:やっぱりね。
編:なぜ、やっぱりなんですか?
隂山:じつはね、2 年生は「算数の壁 」なんですよ。昔は 4年生が 壁といわれていましたが。
編:算数の壁というのは?
隂山:算数が急にわからなくなってしまって壁のように立ちはだかることな んです。今は昔に比べて 2年生で習う単元が増えたから、ついていけない子が増えています。
編:今回、まさにその 2年生のお母さんから相談のメール(上)です。そのうちのひとりのメールがこれです。
隂山:(メールを読みながら )うん、うん。なるほど。この子は逃げたいんですよ。
編:注意力散漫とお母さんは思っていらっしゃいますが。なぜ逃げたいとわかるのですか?
隂山:この子は自分のつまずきを自覚しています。でもそれを認めたくない。だから、中途半端にやって、あ、不注意だったということにしたいんです。
編:意外と根が深いですね。
隂山:根深いですよ。
くり上がり、くり下がりでつまずいていたら、10ます計算をやらせてください
編:どうしたらいいでしょうか?
隂山:くり上がり、くり下がりでつまずいている可能性が高いですね。十ます計算をやらせてみてください。 おそらく15秒以上かかると思いますよ。
編:十ます計算というの は、ますが 10個。百ます計算の十ます版ですね。
隂山:十ますなら10秒でできてほしい ですね。
編: 1ます1秒ですか。
隂山:特にね、「-7」の引き算をパッと答えられるかどうかがつまずきをみる目安になります。
編:なぜ、「-7 」なんでしょうか?
隂山:十ますのなかでも繰り下がる数 字が多いでしょ。子どもがめんどうと感じる数字なんですよ。
編: え〜と、たとえば11-7、12-7、13-7、14-7、15-7、16-7、確かにめんどうです。「+7」 でもくり上がりが多いですね。「-9」は一の位の数字を1多くする(18-9なら、8より1大きい数字)と覚えるから、意外と簡単ですね。
隂山:くり上がりやくり下がりに困難 をかかえると、いろんな計算問題に引っ かかるから逃げたいわけです。でもや らなければならないとなると、適当に やって逃げるという手を使ってしまう んです。名前の書き忘れも、逃げたいと いう気持ちのあらわれです。
編:なるほど〜。で、どうしたらいいで しょうか、このお子さんは。
隂山:虫食いを直す。
編:虫食い?ですか。
隂山:うん、虫食いというのは、できたり、できなかったりする問題があるということ。
編:そこに気づかないだけなんですね。
「できたり、できなかったり」する“虫食い状態”は、「まるでできない」より問題
隂山:というより、軽く見ていますね。 なまじ、できる問題もあるから。これは由々しきことですよ。できたり、できなかったりすると算数に対するコンプレックスをもつようになりますからね。
編:まったくできないよりも、ですか?
隂山:そうなんです。まるでできないと危機感をもちます。できたりできな かったりだと危機感がそれほどない。 でも、絶対に100点はとれない。
編:どこかしらで間違えるからですね。
隂山:そうです。しかもどこで間違えるかが自分でもわからない。 できたり、できなかったりの虫食いは不安がつきまとうんです。自信がなくなって、自分は頭が悪いと思い込んでしまう。これが怖いんです。だから虫 食いは絶対になくしておかないといけません。
3年生の成績が、6年生に響く。だから、2年生でつまずかないことがとても大事です
編:2年生のつまずきって、のちのち影 響するんですか?
隂山: のちのち影響するのは3年生の成績です。1年生のとき の成績の順位と6年生のときの成績に 相関関係はほとんどありません。ところが、 3年生の成績は6年生の成績に、ものすごく影響してくる。
編:小学3年生でつまずいちゃった子は小学6年生で厳しくなるということですか?
隂山:そうなんです。で、3年生の学力の土台というのは1〜2年生のときにつくられますから、2年生はじつはとても大事な時期です。だから、この時期につまずいていて、それが是正されて小3を迎えることができればいいんですが、それができないと厳しくなりますね。
編 :2年生の子の学習そのものはシンプルですよね、十ます計算を徹底的にや ればいいわけですから。
隂山: そう。十ますだけでいい。それ 以外はやらなくていい。そうすれば10日くらいで変わります。やったりやらなかったりというのがいちばんダメ。ダイエットでもハードなのをやると続かないでしょ。
編:はい、これも耳の痛い話です。
隂山:本気で続けることが大事です、何 事も。簡単な問題だからとなめてかか るのはダメ。十ますでスピードが落ちることなくできるようになればOKで す。
親は楽天的に応援を。必ずできるようになりますから
編:親は何か注意することはあります か?
隂山: 必ずできるようなると楽天的に応援することです。だって、本当にできるようになるんですから。それを信じることです。もうひとつ、申し上げておきたいの は、こんな簡単な計算はできてあたりま えと思わないことです。あたりまえの ことをあたりまえとしてできることが うれしい。そういう感覚をもって応援 してほしいです。
編:はい。できたことを喜べる親にな りたいと思います。ありがとうござい ました。
記事監修
1958年兵庫県生まれ。1980年、岡山大学法学部卒業後、教職の道へ。百ます計算をはじめ、「読み書き計算」の徹底した反復学習と生活習慣の改善に取り組み、子ども達の学力を驚異的に向上させた。その指導法である「陰山メソッド」は、教育者、保護者から注目を集め、「陰山メソッド」を教材かした『徹底反復シリーズ』は、総計770万部の大ベストセラーとなっている。現在、YouTube『陰山英男公式チャンネル』で授業や講演を公開して注目を集めている。
出典/『edu』2014年11月号/木彫り人形制作 BUNi PUNi(菅野 旋 高橋将貴) /取材・構成 平野佳代子