小学生になると、宿題が出たり、市販の学習ドリルをやったりと、自宅で勉強をする時間が生まれます。さっそく学習机を据えて子ども部屋に勉強の環境を作った、というパパママは多いでしょう。
けれどそれ、実はムダ!?
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なんと9割以上が「勉強はリビングダイニングで!」
HugKumで行った入園・入学を迎えるお子さんを持つパパママへのアンケートがこちらです。
767人の回答者のうち、実に712人が「リビングダイニングなど親の目の届くところ」という回答でした。
またリビングダイニングのどのスペースで勉強しているか聞いてみたところ、半数以上がダイニングテーブルという回答でした。
上の二つのアンケート結果から、子どもが家庭学習を行う場は、9割以上がリビングダイニングで、使う場所は主に食卓。すでに「リビング学習」が家庭学習のスタンダードになっていることがわかります。
教えて!高濱先生「リビング学習」はなぜいいの?
リビング学習のメリットは?どんなところに気をつけたらうまくいくの?今回は、子どもの学習習慣にも詳しい花まる学習会代表の高濱正伸先生に、リビング学習について気になることを全部お聞きしました!
せっかく子ども部屋を整えたのに、リビングで学習したほうがいいのでしょうか……?
高濱先生 そのとおりですよ。実は「リビング学習がいい」という提案は私たち・花まる学習会が言い出したんですよ。うちに通っている子たちも、ほとんどが食卓で勉強しています!
ママがそばにいたほうが勉強が、うまくいくのはなぜですか?
高濱先生 生徒のお母さんたちは当初「自分の部屋で勉強しなさい」と言っていたそうです。でも、いっこうに部屋に入ろうとしない。イライラして「早く勉強しなさい!」と怒鳴る、それでも腰を上げないから、さらにイライラ……。
そのうち、そんな悪循環に苦しむより、目の届くリビングルームのママのすぐそばで勉強をさせたほうがうまくいく、と賢いママは気づくわけです。
小学校中学年くらいまでは、子どもはまだ母親から分離しきっていないのです。勉強をするときだって、ママのそばにいるのを感じていたい。母親だって子どもが勉強する様子をすぐ横で見ているほうが安心できるでしょう? その関係性を生かして、目の届くところで勉強をさせるのです。
秘訣① ママは勉強を教えなくていい!
そばにいるだけでいいと言っても、母親はどう教えたらいいか、考え込んでしまいそうです……
高濱先生 いやいや、基本的に、親は勉強を教えないほうがいい。特に、算数の文章題のような説明がややこしいものは、教え始めると長くなるし、うまく答えられない子どもに『そんなこともわからないの!?』なんて怒鳴ってしまって、いいことがありません。お母さんは子どもが勉強をしている間、家事をしていればいいんです。子どもに聞かれたら、ちょっとした計算問題の解き方をさらっと教えるくらいにとどめておきましょう。
だいたい、1年生や2年生の勉強では、少しぐらいわからないことがあっても、そんなに困ることはありません。学校で先生に聞けばいいんですから。
高濱先生 よく「リビング学習のデメリットは、ママの目が届きすぎて、『あ~、それ違うわよ』『まったくできないんだから』など、否定的な言葉をポンポン子どもに投げて、子どものやる気をそぐこと」だと言います。子どもの勉強を見すぎてしまうと、いろいろ言いたくなってしまうので、ママ自身はほかに何かしているほうがいいのです。
秘訣② 決まった時間に学習を始める習慣づけをする
親はリビング学習をするとき、何をすればいいでしょうか?
高濱先生 一番大事なのは、子どもと約束をして、決まった時間に勉強を始めること。これは、できる子の親のキーワードみたいなものです。
学校から帰ってきて、ちょっと休んだら15時半から始めるとか。ママが働いているなら、仕事から帰ってきて、顔を合わせて少し話をしたら始めるなど。だいたい同じような時間に始めるように習慣づけます。
1年生だと、学校から宿題が出ない日もあります
高濱先生 そんな日でも、とにかく同じ時間に座る。「今日は学校でどんなことを教わったの?」と聞くのも、すごくいいんですよ。子どもはその日に学校で勉強したことを思い出して、親にわかりやすく説明するわけですから、それ自体、復習をしているようなものなのです。
そして、国語で新しい漢字を習った、というのなら、その漢字を何回か書いてみるのもいい。教科書に載っている計算問題を少しやってもいい。宿題がないなら、低学年は10分間座って復習するだけでいいと思います。
10分でいいんですね!それなら忙しいママでも対応できます。
高濱先生 習慣化は強い。生き抜くときの重要な場面で効力を発揮します。本当はやりたくないような単純な計算もコツコツできるようになれば、本当に強いんです。歯磨きと同じように、10分間勉強する。それが大事なんですね。
リビングで勉強するとなると、ほかの家族との関係も気になります。下に弟や妹がいると、ちょっかいを出してきて勉強にならないことも…
高濱先生 あるあるですね。上の子も弟や妹がかわいいから、ついかまってしまう。……まあ、それはやらせてあげましょう。安らぎの時間でもありますからね。でも、約束した時間になったら、「さあ、勉強を始めるよ!」と、ママが号令をかけましょう。勉強のスタート時間だけは、必ず守るようにするんです。
秘訣③ パパとママの考えをしっかり合わせておくことも必要
ママとパパの役割で気をつけることはありますか。
高濱先生 パパともしっかり足並みをそろえましょう。我が家では子どもをこう勉強させよう、という教育理念を、ママパパでしっかりすりあわせて、パパにも守ってもらう。
ちょうど勉強時間になったのに、パパが帰ってきてテレビをつけ、子どもが好きな番組を見始めて笑い声など上げてしまったら、当然そちらに気を取られる。せっかくの習慣づけが台なしです。家族で決めた子どもとの約束事を、親が破ってしまってはいけないのです。
家族全員が、子どもの勉強のスタート時間を守ること。これが1年生の勉強をうまくいかせるコツですね。
秘訣④ ママも子どもの横で勉強しよう!
ここまででも1年生の家庭学習は十分なのですが、さらにすすんだ勉強の習慣づけはありますか。
高濱先生 親子が一緒に勉強することです。子どもが勉強する時間に、ママも何か学ぶんです。読みたかった本を読むのでもいいし、資格試験にチャレンジするのでもいい。一緒に肩を並べて本を広げたり、ノートに何か書いたりしていると、子どもはすごく励まされます。ママが積極的に勉強に取り組んでいるのをみると、子どもは「勉強っておもしろいんだな」と思うものです。100回「勉強しなさい」と言うよりも効果がある。
そもそも、新しいことを学ぶのは、だれにとっても楽しくておもしろいもの。勉強って、つい「やらされるもの」と思ってしまうけれど、自分からやってみると、意外にのめり込んでしまうことも。そんな思いを親子で共有できれば、子どもも自然と勉強が好きになります。
逆に、ママ・パパが「早く宿題をやっちゃいなさい!」みたいな言い方をすると、子どもは「勉強ってつまらなくていやなもの」とすり込まれてしまいます。こういう声かけはよくないですよ。
秘訣⑤ 消しゴムのカスはがんばった証、怒らない!
ダイニングテーブルで勉強すると、食卓の上が消しゴムのカスでいっぱいに。「ああ、もう汚さないでよ!」とつい言ってしまいます…
高濱先生 考えては消して、また考えて書いた証なのだとポジティブにとらえましょう。子どもの前で、パパに「こんなにがんばったのよ、見て」って宝物扱いしてほめてあげると、ほめられた喜びで、やる気が出ますよ。
高濱先生によるリビング学習の秘訣、いかがでしたか。成績などの成果を求めるのではなく、何より、勉強する時間を楽しく思えることが大事ということ。子どもにニコッと笑いかけて、「さあ、今日も一緒に勉強しよう!」とママが言えたら、もう完璧ですね。
高濱先生のおすすめ本をご紹介
最後に、高濱先生がぜひママ・パパへおすすめしたいものが、と一冊の本を紹介してくれました。
▼子ども時代探検家 高濱正伸の ステキな大人の秘密 ~なぜか全員「農学部」編
こちらの本には、第一線で活躍する宮澤弦さん(Yahoo!取締役)、岡田光信さん(アストロスケールCEO)、松山大耕さん(退蔵院 副住職)、高橋祥子さん(ジーンクエスト取締役)、辻庸介さん(マネーフォワード社長)、出雲充さん(ユーグレナ社長)の子ども時代のエピソードがたっぷり。
先生から「いいところがまったく見つからない」と言われたり、「モーニング娘。」を知らずにクラスで浮いてしまったり、重要文化財を遊びの道具に使ったり、家じゅうを粉だらけにしたり……などなど、その子ども時代には驚きと抱腹絶倒の連続です。
しかし、その親子関係にはキラリと光る「なるほどポイント」がいくつもあって、まさに子育てのど真ん中にいる保護者にとっては、とても有意義なお話が満載です。
高濱正伸(著)|1540円|エッセンシャル出版社
▼『おやくそくえほん』も好評発売中!
小学校入学前後に身につけたい42の習慣を「おやくそく」 として紹介した本。一生役立つ習慣を、子どもは楽しく納得しながら身につけられ、親は怒らず自信をもって教えられる一冊です。「どんなことを、どう伝えたらいいんだろう?」としつけに悩むお父さん・お母さんにこそ、ぜひおすすめです。
高濱正伸(監修)・林ユミ(イラスト)|1430円|日本図書センター
プロフィール
高濱 正伸
1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習教室「花まる学習会」を設立。『小3までに育てたい算数脳』(エッセンシャル出版社)、『子どもに教えてあげたいノートの取り方』(実務教育出版)、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)など著書多数。
インタビュー・ 文/三輪 泉
取材協力・写真提供/花まる学習会
構成/HugKum編集部