サントリーに聞く、企業としてのSDGsとの向き合い方。「水育」からペットボトルの技術革新まで

ゴミの分別、していますか?ルールに従うと気持ちがいい一方で、「あぁ、面倒くさい」と思うときもあるかもしれません。しかしその小さな選択が、実は巡り巡って大きな海洋プラスチック問題につながっていることをご存知でしょうか。今日はわたしたちの暮らしの中でも最も身近にあるプラスチックのひとつ、ペットボトルに注目してみたいと思います。

HugKumアンケートでも「SDGsを実行している企業」として一番認知度のあったサントリー。現在の施策は

海洋汚染の懸念から水筒やマイボトルを利用したり、レジ袋をもらわずエコバッグを使うといった生活様式の変化も少しずつ広がりを見せてきました。ゴミの分別も同様で、個人ができる地道で確実な環境アクションの一つといえるでしょう。では、大量の資源を動かす企業は、どのような考え方の元、環境にいい活動をしているのでしょうか?

ペットボトルが環境負荷にならないよう改善点に向き合い、同時に、軽くて便利という有用性を伸ばすことにも努めているのが、飲料メーカーであるサントリーです。サステナビリティ推進本部にて、ペットボトルのサステナブル化に取り組む森原征司さんと国内の水源涵養活動に取り組む市田智之さん、「水育」を担当する森揚子さんにお話をうかがいました。

 

グリーンが茂るサントリー社にて、森原さん(左)と森さん(右)、市田さんはオンラインでお話をうかがいました。

122年続くサステナビリティのこころ

サントリーでは、持続可能な社会の実現に向けたSDGsに関してどのような取り組みをされていますか?

森原さん サントリーは1899年の創業時からずっと、現在の「サステナビリティ」に繋がる企業理念をもっている会社です。創業者の鳥井信治郎は、常に新しい価値の創造を目指した人で、その口癖が「やってみなはれ」だったことで知られていますが、同じように、事業の利益は自社だけでなく、お取引先と社会貢献にも役立てるべきだと「利益三分主義」という考え方を大事にしていた人でした。これは今もわたしたちに引き継がれている価値観であり、水や農産物などから製造を行うメーカーとして、自然環境と社会に対してどうあるべきかと考え抜いた答えが、サントリーの「サステナビリティ」だと言えるでしょう。

2005年からは、自然環境や生態系への思いを込めて「水と生きる」をグループ全体の約束として掲げています。また2019年には「サステナビリティビジョン」を策定、水の他にも、CO2削減や、原料のこと、容器や包装、健康促進、人権や社会のための生活文化といった7つのテーマを設定しています。つまりサントリーでは、創業以来ずっと続けてきたことの延長線上に、昨今のサステナビリティやSDGsと位置付けた取り組みがあるんです。

水を語らずにサントリーは語れず

市田さん 「水と生きる」というように、サントリーは水がないと成立しない企業ともいえるほど、水は当社の最も重要な原材料です。それと同時に、水は貴重な共有資源でもあると認識して、水を守る取り組みを積極的に行なっています。
そのひとつは、水源涵養(すいげんかんよう)と呼ばれるエリアの森林整備活動です。水源涵養とは、雨水を蓄えたり、多様な木々によって土砂崩れを防いだり、また水を浄化する機能を備えた土壌のこと。サントリーではより水源涵養力の高く、生物多様性に富んだ森を目指して森林整備を行っています。「天然水の森」と名付けた森林が現在、全国に21箇所、合計で1万2千ヘクタールになりました。これは山手線で囲まれたエリアの約2倍に相当する広さで、この規模の森で確保できる水量は、サントリーの国内工場が年間で組み上げる水の2倍以上にあたります。自社の分だけでなく、社会全体にも活動を還元できるよう設定された規模です。また、森林整備は長い年月を要する活動でもあるため、いずれの森も、30〜100年間という期間で整備に関する協定を結んでいます。

市田さん  そして、私たち自身も水の根源的な重要性を実感するために、社員教育にも「天然水の森」での体験を取り入れています。自ら森に入り手を動かすことで、水をより自分事に捉えられる機会となり、業務にもいい影響をもたらすため、部署や役職に関係なく、できるだけ多くの社員に森林整備を体験してもらっています。

「水育」を通して、次世代に伝えたいこと

見据えているのは50年、100年先の未来

「水育」の企画運営に長く携わっている森さん

 

森さん 「天然水の森」の活動は、50年後もしくは100年後を見据えて行なっているからこそ、きちんと次世代に受け継がれるよう「水育(みずいく)」という独自のプログラムを行なっています。水育は、サントリーの水源地である「サントリー天然水」のふるさとへ出向いて体験する「森と水の学校」と、小学校の授業として行う「出張授業」の2つがあり、2004年に始まって以来18年間で20万人もの方にご参加いただきました。昨年と今年はオンラインを活用したかたちでも継続し、今後はリアル体験とのハイブリッド型も検討しているところです。

「森と水の学校」は親子体験を基本としていますので、お子さんと一緒に大人の方にも知っていただけることがあったり、身近な誰かと自然や森について話したり考えたりする機会提供であることも重要だと捉えています。先日は、「出張授業」をご依頼くださった学校の先生が「小さい頃、『森と水の学校』に参加したことがあり、いつか担任をしている子どもたちにも受けてもらいたい」と言ってくださって、嬉しかったですね。

 

サントリーの水源地である「天然水の森」で体験する「森と水の学校」の様子

 

小学校の授業として行う「出張授業」の様子

地球のために、「石油資源を使わない」宣言

海洋汚染とプラスチック問題が世界レベルで問われる中で、サントリーが取り組んでいるプラスチック容器について教えてください。

森原さん  海洋汚染問題についても当社では、鼻にストローが刺さってしまったウミガメの写真が話題になる以前から、プラスチックを取り扱うメーカーの責任として取り組んできました。日本沿岸に漂流したプラスチックゴミのうち、飲料用ボトルは7.3%と1割にも満たない量なのですが(※平成28年度環境省による海洋ごみの実態把握調査より参照)それでも飲料メーカーの責任として多角的な視点で取り組んでいます。

ひとつには、プラスチックという素材の有用性を考慮し、ペットボトルに使用する素材のサステナブル化を進める取り組みです。日本ではペットボトルの回収率が高く、分別の認識も諸外国に比べて高いことから、リサイクル可能なペットボトルの回収が行いやすいと言えます。これは、各自治体やペットボトル飲料をご購入いただくお客さまの努力、そして、無色透明や素材統一などリサイクルを考慮した業界独自のガイドラインに従う我々メーカーの取り組みが機能していることでもあります。 現在サントリーが世界で使用する年間30万トンのプラスチックのうち、約8割がペットボトルですので、この割合から考慮しても、メーカーとしてまず取り組むべきことはペットボトルの対策だと考えているんです。

まずは、身近なペットボトルの施策から

森原さん ペットボトルのリサイクルというと食品トレイや化学繊維などに作り変えることを思い浮かべるかもしれませんが、それらは焼却されることが多く、いずれリサイクルの輪は途切れてしまいます。しかしペットボトルをつくるためにペットボトルを原材料にする「ボトル to ボトル」であれば、半永久的に石油由来の資源を使わずにペットボトルが作れることになります

「水平リサイクル」とも呼ばれるもので、サントリーでは2019年に「プラスチック基本方針」を明文化し、プラスチックの有用性を認識した上で地球環境により負担が少ないものを製造できるよう、リサイクルの技術革新にも努めてきました。

 

今年から発売の『またあえるボトル』(順次商品ラインナップ拡大中)

2030年にはペットボトルを100%全てサステナブルボトルに

2019年には、回収したペットボトルをフレーク状に粉砕後、前型となるプリフォームを直接作れるという画期的なリサイクル技術の確立に成功しました。こうしたリサイクル素材と並行して、植物由来のバイオ素材を使用したペットボトルも製造しており、現在これらの「サステナブルボトル素材」の製品利用を進めています。2020年時点の使用率は26%でしたが、2022年には50%、そして2030年には、日本を含めたサントリー全体で100%サステナブルボトルにすることを目指しています。

 

サントリーだけではできないから、ゴミではなく「資源」という認識を

森原さん しかし、こうした目標達成もサントリーだけではできません。皆さんにはぜひとも、ペットボトルからペットボトルをリサイクルすれば新たな石油資源を使わずに何度もリサイクルが可能だという事実を知っていただき、ペットボトルはゴミではなく、半永久的に続く資源という認識ももってもらえたら嬉しいです。
すでにゴミの分別が定着している日本では、9割の家庭がゴミを分別し、うち6割はペットボトルキャップとラベルも分けて捨てているとはいえ、国によって、水もゴミも事情は大きく異なります。私たちメーカーも技術革新や努力は続けていきますが、環境負荷を減らす取り組みはサントリーだけで成し遂げられることではありませんので、お客様と一緒に循環型社会を作ることが鍵になると捉えています。

環境のために考えるべき視点は多く、それぞれの立場で、いくつもの議論が必要になるでしょう。そこで私たちサントリーは喫緊の問題と向き合い、地球環境とお客様に喜ばれるための両軸で実践できることに向き合っています。

社会貢献はサントリー創業以来、連綿と続いてきた概念であり、今やサステナビリティの実践は事業に直結する価値観になりました。社員の多くが、こうしたこだわりや思いを体現することが、お客様に対する誠実さであり、これからも選んでいただけることだと認識してもいるので、サステナブルボトルのようなチャレンジングな活動にも取り組めているんだと思います。

 

取材・文/やなぎさわまどか

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