目次
英語圏のメディアやトップアーティストたちも認めたBTSの魅力
5月にはデジタルシングル「Butter」を発売。「Dynamite」に続く二度目の英語曲となったこの曲のミュージックビデオは24時間で再生1億820万回を記録、Billboard Hot 100では初登場から7週連続で首位を独走しました。さらに、「Butter」が収録された5月発売の同名2ndシングルアルバムには、エド・シーランらが楽曲制作に参加した「Permission To Dance」も含まれており(エドとは2019年の6thミニアルバム『MAP OF THE SOUL : PERSONA』収録曲「Make It Right」でもコラボを実現)、大きな話題に。
またアメリカの音楽雑誌『ローリング・ストーン』では、創刊以来初のアジアグループとして表紙を飾り、その日本版が6月に発売されると、品薄状態で一時期は入手困難になるほどの「現象」を巻き起こしました。
実際、日本でも「ARMY」(BTSのファンクラブの名称であり、BTSファンのことも指す)は急増しており、最近では小泉今日子さんとYOUさんがARMYであることを『現代ビジネス』の対談記事で公言。彼らのダンスパフォーマンスを動画検索しているうちに、気づけばBTS沼にハマり、彼らに関する学者の書物を読んだり、歌詞の考察をしたりと「推し活」の道を突き進む日々について語り合うその内容に、全国のARMYたちが「分かる!」と膝を打ちました。
それにしても、なぜBTSはこれほどまで世界に愛されているのでしょうか。
「BTS現象」はSNSネイティブZ世代の新しい「推し活」が、さまざまな国や年齢に拡散されたムーブメント
『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』の著者・田中絵里菜さんによれば、マスメディアの報道によって彼らが注目される以前から、すでにアメリカに存在していたバンタン(BTSの別称)のファンダム(熱心なファン、または熱心なファンにより形成されたカルチャーのこと)が、「スミン」と呼ばれる活動(ストリーミングで動画や音源を連続再生すること)を行っていたとのこと(参考『アメリカを夢中にさせたBTS なぜK-POPは海を渡れたのか』)。
BTSの楽曲がアメリカのラジオでたくさんかかるようみんなでリクエストしたり、チャートのランキングを上げるためにスミンしたりといったファンダムの活動は、音楽番組で1位になることが「至上命題」である韓国では当たり前の「通常業務」であり、それをARMYたちが世界規模で行ったことによって、主にインターネットを中心に大きな盛り上がりを見せたのが「BTS現象」の始まりと言われています。
2017年5月、ビルボード・ミュージック・アワードでBTSが、ネット上での人気が大きく影響する「トップ・ソーシャル・アーティスト賞」を受賞したのは、その象徴的な出来事と言えるでしょう。
また、そうした世界中に点在するARMYたちが、インターネットやSNSによって簡単に繋がることができたのも「BTS現象」の背景にはありそうです。ちょっと前の世代では、非英語圏の文化が英語圏で勝負するには「言葉の壁」が常に立ちはだかりましたが、そういったものもネットの普及やデジタルテクノロジーの進化によって軽々と乗り越えられるようになりました。
ファンダムの中にはミュージックビデオに勝手に翻訳リリックを付けたり、楽曲を丸々フル尺で使って解説動画を上げたりしている人も大勢いて、それがSNSでシェアされることにより、あっという間に世界中に広まっていく。先述の小泉今日子さんのように、BTSにちょっと興味を持った人をあっという間に沼らせるコンテンツが、インターネット上には溢れかえっているのです。
彼らの強力なコンテンツと「ダイバーシティ」も追い風に
もちろん、BTSそのものに魅力があることは言うまでもありません。2017年から「世界進出」を視野に入れた活動を本格的にスタートした彼らは、同年7月に5枚目のミニアルバム『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』をリリース。この時のテーマであった「LOVE YOURSELF」(自己愛)や、彼らが一貫して掲げる「多様性」といったワードはZ世代が抱えている問題意識や、ここ数年で大きく変化しているアメリカ人の人権意識とも深くシンクロしました。圧倒的なダンススキルと、4人(ジン、ジミン、V、ジョングク)の美しくもダイナミックなボーカルライン、そして誰もが共感しやすいテーマやメッセージを扱った歌詞の世界。何より、美しい男子たちが“わちゃわちゃ”しているミュージックビデオを眺めているだけで、幸せな気分になるのです。
今年7月21日、文在寅大統領がBTSを「未来世代と文化のための大統領特別使節」に任命したと発表。9月の第75回国連総会など、主要国際会議に参席し「全世界の青年に希望のメッセージを伝える」予定とのこと。Z世代の代弁者として、今後彼らはますます影響力を強めていくことでしょう。
文/黒田隆憲