※ここからは『5歳の壁 語彙力で手に入れる、一生ものの思考力』(和田秀樹・著/小学館)の一部から引用・再構成しています。
なぜ5歳児に「語彙力」が必要なのか
和田秀樹さん(以下、和田さん):長年、子どもの教育現場に身を置いてきて、みなさんに伝えたいのは、子どもの学力はもともとの素質や遺伝よりも、勉強の方法や取り組み方に左右されやすい、ということ。自分から学ぶ意欲を持つ子どもが、最終的にはいい結果を出しているのです。
就学前の5歳前後に親や周りの大人がどう関わるかによって、子どもの人生は大きく変わっていきます。そしてこの時期に、子どもが小さな成功体験「できた!」を積み重ね、それを周りの大人に褒められ、成果を認められることで、「自分はできる」という自信や自尊心を養うことができます。
そして幼児期の子どもが小さな成功体験を積み重ねるのにもっとも適しているのが、基本的な読み書きの能力を身につけることなのです。
語彙力が身につけば、「わかる」「できる」の体験も増える
和田さん:日本語を読む力や書く力を高めることは、子どもの考える力を養うことにつながり、小学校に入ってからの学力を確実に伸ばすばかりか、一生、その子を支えてくれる土台となります。
また、言葉を知っていれば知っているほど、読解力を高める上で有利になります。
人の話を理解できるようになり、自分の思っていることを伝えられるようになると、日常的に「わかる!」「できる!」と感じるようになります。
この「わかる体験」「できる体験」、さらに「人から褒められる体験」を頻繁に重ねることで、自尊心が大きく育っていくのです。
多くの言葉を理解し、読み書きに適切に使いこなす力を「語彙力」と言います。
特に幼児期の子どもには、言葉をたくさん教えてあげることが必要です。語彙力が低いまま小学校に上がると、教科書に書かれていることや、先生の説明している内容が理解できないことがあります。
集団での学習では、言葉の意味を理解できない子や言葉で伝えるのが苦手な子は取り残されます。
藤井聡太式学習で「考える力」を育む
和田さん:子どもは覚えた言葉をすぐに使いたがります。その言葉を繰り返し使っているうちに、頭の中にさまざまな知識や情報が蓄積されていき、それらがどんどんつながっていく。
語彙はつまり思考の材料。材料が増えれば増えるほど、考える力は上がるのです。
将棋棋士の藤井聡太さんが14歳でプロになれたのは、膨大な将棋の指し方(棋譜)のパターンを覚えてきたからだと言われています。
和田さん:彼はそれまで頭の中にインプットされてきた棋譜の中から、その局面に近いパターンを選び出すという作業を脳内で超高速で何千通りも行い、瞬時に最善の手を見つけ出します。
棋士にとって、これが「考える」ということなのです。
小さな子どもに対してもまずすべきことは、思考力のもと=考える材料、つまり語彙を増やしてあげることが大事だと言えるでしょう。
「賢く見られる」ことが自信につながる
和田さん:幼児期の子どもは、その成長過程において驚くべき記憶力を持っています。
子どもは新しい言葉やフレーズを聞くとそれをそのまま記憶し、実際に使うことがあります。家族の会話や絵本の読み聞かせなどから、自然にたくさんの言葉を学んでいるのです。
このような記憶優位の特性を持つ時期に、できるだけ多くの言葉や表現に触れさせることが語学習得にとっては理想的と言えます。
9歳ごろまでに思考の土台をつくることが重要
和田さん:一方、幼児期の子どもには考える力はまだ十分に発達していません。考える力がしっかりと備わるのは、だいたい9歳ごろから。
それまで優位だった記憶力に加え、論理的な思考力が育ってきて、抽象的な概念も徐々に理解できるようになっていきます。
その結果、物事の因果関係を理解したり、推測したりする抽象思考が発達していくと考えられます。国語の読解問題や算数の図形問題、文章題など、より複雑で難しい問題に取り組めるようになるのもこの時期です。
だから記憶力優位の9歳頃までに語彙を増やし、思考力の土台をつくることが重要なのです。
語彙力をつけるメリットは他にもあります。それは「賢いように見える」こと。
賢く見えることで、周りの大人から褒められて自信がつきますし、同年代に比べて語彙の豊富な幼児は大人っぽく見られ、友達からも一目置かれる存在になります。
褒めて褒めて褒めまくると、ストレスに強くなる!?
和田さん:先取り教育で自信をつけるのはいいのですが、子どもができない時には無理に課題を押し付けたり厳しく叱ったりして、追い詰めないことが大事です。
とにかく5歳までは叱責や子どもが苦しいと思うことを徹底的に取り除き、褒めて褒めて褒めまくることです。むしろ子どもが「自分は賢いんだ」とうぬぼれて、調子に乗るくらいでいいのです。
和田さん:心理学者のハインツ・コフートによれば、周りから褒められて育った人のほうが野心的になり、ストレス耐性が強くなると言います。
ストレス耐性が強い人は、さまざまな困難にも柔軟に対応して新しい環境に適応していくことができます。
子育てで一番やってはいけないのは「自分はバカだ」「自分はできない子だ」と思い込ませることです。
子どもの「快体験」をつくる好循環とは
和田さん:子どもは、良い循環に乗るとどんどん成長していきます。良い循環というのは、下記のような繰り返しです。
わかる・できる→自信を持つ→子どもが自ら挑戦するようになる→多少できなくても、もう一度挑戦してみる→さらにできるようになる
子どもは何かを教えれば基本的にはできるようになりますが、わからない、できないとしたら、取り組んでいるもののどこかに理解できない部分があるということです。
もしうまくできない場合は、子どもがわからない部分を入念に見つけて、それを一つずつ解消していけばいい。
そして子どもが理解できたら「よくわかったね」「できるようになったね」と声をかけて、子どもに自信をつけてあげましょう。子どもは楽しい気分になり、もっとできるようになりたいと感じます。これが「快体験」です。
子育ての成功の秘訣は、親子ともに、いかに自信を持ち続けることができるかどうかだということ。そのためにまず親が子どもを信じること。子どもが理想通りにできなくても決してあきらめないことです。
親御さんにはなるべく早い時期に、どうやって子どもに成功体験を持たせるかを考えてあげてほしいと思っています。
※ここまでは『5歳の壁 語彙力で手に入れる、一生ものの思考力』(和田秀樹・著/小学館)の一部から引用・再構成しています。
『5歳の壁 語彙力で手に入れる、一生ものの思考力』(小学館)
子どもの人生を左右する「壁」は5歳にあり。壁突破のキーワードは「語彙力」──受験学習法・幼児教育のプロである和田秀樹さんが、5歳までに語彙力を飛躍的に伸ばす具体的なおうちレッスンを紹介。家庭での幼児教育への向き合い方を伝えます。
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構成/国松薫