ジェンダーは「善意」から生まれる
去る2022年7月21日(木)に東京都杉並区「男女平等推進センター」主催で「ジェンダーを子育てから考えよう:第1回『あなたの中のジェンダー問題』」という講座が開かれました。(企画運営団体:NPO法人親子コミュニケーションラボ)
講師は、東大名誉教授の汐見稔幸先生。
難しい話ばかりかと思いきや、途中途中、オヤジギャグも入れながら、ご自身が学生時代にふられた女性の話やお子さんのお話も交えてくださり、笑いあり、感動ありの汐見先生らしい講座でした。
講座の講師
「善意」が「差別」につながる、という構造
講演が始まると、静まり返った会場を温めるかのごとく、汐見先生が高3のときに好きな人にふられたときのエピソードから始まりました。
「僕は、中世のナイトのように好きな人に『~してあげる』、『~してやる』という語尾で話していたようなのです。それが、彼女にとっては、差別と感じたとふられたんです」
講演会の冒頭にまさかのカミングアウト。
しかし、この話は、汐見先生が「善意」のつもりだった行動でも、彼女にとっては「差別」、つまり女性軽視と感じると言うことに気づいたきっかけだったと語ります。
女子大卒の子を大企業は採用したがる
また、分かりやすいもう一つの事例もありました。
共学の大学出身の女性は、どうしても男性に頼りがちの発想になることがあるとのこと。
ところが、女子大出身の子たちは、力仕事もすべて自分たちでやらなければならないので、一切男性を頼ろうとしないスタンスに育っているとか。
その姿勢を高く評価した大企業は、女子大卒の子を積極的に採用したがる傾向にあるそうです。
男らしさは不要?
汐見先生はご自身の経験談や社会的事例を挙げ、男らしさ=男性は女性を守ってあげなければならないという発想は実は、男性の(社会の)勝手な思い込みなのだと話します。
汐見先生が考える、男らしさには、男性にとって3つの動機があることから生まれるそう。
① 善意だからいいはず、という「自己中心性」
② 相手にいい人とみられたい、という「無意識の欲求」
③ 相手を自分の土俵に入れたい、という「自己中心性」、「権力性」
つまり、相手の自己決定を尊重せず、男が女を守ってあげる的な発想は、男の思い上がりだと斬りました。
3つの土俵をつくろう
そこで、汐見先生は、自己の土俵に相手を入れるのではなく、相手の土俵を尊重し、共通の土俵をまん中につくるという姿勢、関係性が必要だと話します。
また「~してあげる」と言う善意の発想は、実は、子育てでもやりがちでNGだと話し続けます。
ジェンダーを子育てから考える
例え、我が子であっても、黙っておむつ替えをしたり、鼻を拭いたりする善意の行為はしてはいけないと言うのです。
汐見先生は「この当たり前のように「善意」でやっている行動も、黙って行うことで、子を人間として見ていないことになるのです。子どもをガキ扱いしてはいけません!」と警鐘を鳴らします。
赤ちゃんは話せないから仕方がないにしても、鼻を拭く行為は本来なら子どもの意志を聞いてから拭くべきとのこと。
「子どもだって、意思決定はしたいのです。子も人間なのだから大事にしないと、自分を大事にされたと思わない子が育ってしまいます。それに、子を人間としてみれば、たくさん素晴らしいものを持っていることに気づくはず」と話す汐見先生のロジックは、子育て中の筆者の胸にストンと落ちました。
男の子だから、女の子だからは関係ない
汐見先生には長男、次男、長女と3人のお子さんがいらっしゃるそうです。ご自身の子育て経験も通して、汐見先生は、子育てで大事な課題について、こう語ります。
「その子の伸び方、性格、適性、向いていることなどを、子どもの言動から察して見つけることがもっとも大事なことです。その際、男の子だから、女の子だからを、持ち込まなければそれでうまくいくはず。また、その子の人生はその子が選ぶもの。子どもへの期待を大きくし過ぎないように、親は、応援し続けること」と締め、講演は終了しました。
子どもを人間としてリスペクトすべし
ジェンダー教育と言われると、難しいと考えてしまいがちですが、汐見先生の講演会を聞いて、子どもを一人の人間としてリスペクトすることが、すなわちジェンダー問題を解決することにつながるということが知れて良い機会となりました。
途中、「人間は、早く熟しても早く腐る」と比喩する言葉も忘れられない一言。社会でつまづいたときも自分で考えられるような子どもに育ってほしいものですね。
文・構成/HugKum編集部