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きっと忘れがち!防災袋に入れておきたい生理用品
- 全国各地で様々な自然災害が多発している昨今、“もしもの備え”の大切さは、誰もが痛感しているところだと思います。とはいえ、実際には、なかなか想像が及ばないこともたくさん。
そこで今回は、性教育の啓蒙活動を行っている医師ユニット「アクロストン」のみさとさん、たかおさんに、災害と性教育という観点からの“備え”について話を伺いました。
みさとさん:突然ですが、防災袋の中に生理用品は入っていますか?これ、意外と忘れがちではないでしょうか。生理は毎月のことですから、非常時と重なる可能性は決して低くはありません。また、避難生活が長引く可能性を想定しても、用意しておく方が安心です。
被災は大人だけでなく子どもにとっても大きなストレスを与えます。なかでも生理は、きちんと準備をしていないと非常時に余計なストレスを感じる要因に。非常時だからこそ、それ以上の苦痛を感じることがないような備えが必要になります。
みさとさん:生理は、早い子なら10歳で始まります。そのくらいの年頃の女の子がいるお宅は、たとえまだ生理が始まっていなくても、念のためその子の分の生理用品も用意しておくといいと思います。加えて、下着や鎮痛薬、デリケートゾーン用のウェットティッシュ(=赤ちゃんのおしりふきでもOK)などもあると便利です。
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男子にも、生理用品を適切に配れるくらいの知識を
また、みさとさんからは、過去に被災地の避難所で実際に起こった、生理用品にまつわるトラブルの話も伺いました。
みさとさん:東日本大震災や熊本地震の際、支援物資の生理用品が適切に配られなかったり、廃棄されてしまった避難所があったそうなのです。『生理用品なんて1人1つ(ナプキンの個包装)配っておけば十分だろう』『生理なんて我慢すればいいんだ』なんていう男性の声もあったとか。驚きですよね。
この話が頭から離れなかったというみさとさんは、『男子のための生理(月経)の教室 “謎解き:避難所での生理用品の配り方”』というワークショップを企画。その背景にある思いをこう語ります。
みさとさん:生理は、自分の身に起こらない男性にとっては、自分事として捉えにくいのは当然です。でも、知らないなら当事者の女性に質問すればいいし、説明書を読むという手だってある。何もできない、しないのは、恥ずかしいという思いもあるのかもしれませんが、一方でそれは、女性を対等に見ていないからとも言えるのではないでしょうか。このような事態を繰り返し起こしたくない。そのためにも、男子に、せめて生理用品を適切に配れるくらいの知識はつけてもらいたい。もっと真剣に、生理について考えてみてほしい。そんな願いから生まれたのがこのワークショップです。
とある小学校の5、6年生の男子70名ほどを対象に行った授業では、震度7の地震が起こり、多くの人が小学校の体育館に避難しているという設定で、「ナプキン、タンポン、月経カップを必要な人に適切に配る」というミッションに取り組んでもらったのだそう。すると、子どもたちは、見たこともない生理用品のパッケージを開け、説明書を読み、使い方を学んで、最終的にはすべての生理用品の適切な配布方法を導き出したそうです。立派!そして、授業の終わりに、過去の震災時に実際にあった生理用品をめぐるトラブルについて話した時にも、みんな真剣に耳を傾けてくれたそうです。
みさとさん:体の仕組みとしての生理については、男女共に小4の保健の授業で学びます。でも、生理用品についての具体的な話は、女子だけを集めてやるか、やらない学校も。男子が生理用品について教わる機会はほとんどないのが実状です。
一方で最近は、子どもの性教育の必要性が叫ばれるようになってきているので、親が子どもに伝えているというケースも増えてはきています。でも、できればそんな方が、学校にも働きかけてくれると一番いい。そうすれば、自分の子だけでなくみんなの知識水準が上がりますからね。
加えて、日頃から父親も子育てに主体的に関わり、様々な話を子どもとしていく中で、
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性暴力の被害に遭わないために、非常時は必ず複数人で行動を
さらにもう一つ、性教育活動を行っているアクロストンさんならではの視点で、たかおさんから非常時のアドバイスをいただきました。それは、防犯についてです。
たかおさん:実は、災害時には、往々にして性暴力が発生しています。被害者は、男女、年齢を問いません。そして、加害者は顔見知りの場合も。
性暴力の被害って、平時であっても訴えづらいのに、災害時は、今はみんなが苦しんでいるのだからと、ますます言い出しづらくなってしまう。被害に遭う可能性がすごく高まる上に、相談できない状況も高まってしまうのです。まずは、こうした現実をあらかじめ認識しておくことが大切です
では、自分や家族の身を守るためには、どうしたらいいのでしょうか。たかおさんに聞きました。
たかおさん:家族みんなで情報をきちんと共有し、避難所でトイレに行く時や、たとえ在宅避難であっても、家のトイレが使えず外の仮設トイレを使うような場合には、必ず複数人で行動するようにすることが、防犯対策につながると思います。
災害と性教育という観点からのアクロストンさんのお話。ハッと気づかされる点も多かったのではないでしょうか。
みさとさん:性教育って、独立したものではないんです。生活のあらゆることに関連があります。家族で防災について話したり考えたりするときも、性教育のいいチャンス。また、そこで得た知識は、非常時に必ず活きてきます。ぜひ、こうしたきっかけを積極的に使っていただきたいですね。
妻のみさとは産業医、夫のたかおは病理医をしながら、2018年に「アクロストン」としての活動をスタート。公立の小学校の授業や企業主催のイベントなど、日本各地で性にまつわるワークショップを行う。『3~9歳ではじめるアクロストン式「赤ちゃんってどうやってできるの?」いま、子どもに伝えたい性のQ&A』(主婦の友社)、『思春期の性と恋愛 子どもたちの頭の中がこんなことになっているなんて!』(主婦の友社)、『10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック(ほるぷ出版)』が発売中。教えてくれたのは
取材・文/鈴木友紀