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令和3年の小1のいじめの認知件数9万6142件。しかし、専門家たちは、現実的ではない件数と評価。そのワケは?
(出典:文部科学省「いじめの状況及び文部科学省の取組について」より)
令和4年11月、文部科学省が発表した「いじめの状況及び文部科学省の取組について」では、上記のグラフの通り令和3年度の小1のいじめの認知件数は9万6142件でした。これは小2の10万976人に次いで多い件数です。
しかしいじめ問題の専門家の間では「正しいデータではなく、現状を反映していない」と言われているそうです。
理由は、平成25年にできた「いじめ防止対策推進法」の第二条と関係しています。第二条には以下のような記述があり、いじめの質や継続性などには触れられていません。
この法律において“いじめ”とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう
そのため、学校の先生が、たとえば友だちに叩かれている子を見たら“心身の苦痛を感じている”として、いじめの認知件数にカウントしないといけません。叩いたり、押して転ばせるなどのトラブルは低学年に多いので、小1で9万6142件もの認知件数になっているのです。
小1で多いのは、いじめよりも友だちトラブル
小1で多いのは、いじめではなく友だちトラブルです。なかには「いじめ」という言葉の意味すら知らない子もいます。
1年生では、何かトラブルが起きたとき、子ども同士で対話をして解決できないからこそ、つい手が出たり、足が出たり、乱暴な言葉を投げかけたりしてしまうのです。しかし、しつこく攻撃したり、長く続くなどの感じは少ないです。明確な調査結果はありませんが、深刻ないじめが起きやすいのは、小4ぐらいから中学生がピークと考えられます。
子どもの様子がおかしいときは「どうしたの?」とだけ聞いて
しかし、なかには友だちトラブルでも、叩いたり、蹴られたり、乱暴な言葉を吐かれて傷つく子もいます。
もし泣いて帰ってきたり、家で元気がなかったりするなど、様子がおかしいときは「どうしたの?」と優しく聞いて、子どもから話し始めるまで待ってあげてください。「何かあった?」「いじめられたの?」「誰がいじめたの?」など矢継ぎ早に質問するのはやめましょう。子どもが答えないときは、それ以上、追及しないでください。
「学校に行きたがらない」「家庭でイライラする」のはSOSサイン
友だちトラブルで、なかには登校を渋る子もいます。登校前になると「お腹が痛い」「頭が痛い」「気持ち悪い」と言い出したり、わざとのんびり学校に行く準備をする子もいます。またイライラして、親に当たる子もいます。
それは子どもからのSOSサインです。具合が悪いと言うときは「今日は休む?」と聞いて、子どもが「休む」と言うならば休ませましょう。
着替えなどの準備が遅いときは「〇分までに家を出ないと、間に合わないよ」とだけ伝えて様子をみてください。学校に行くか休むかは、ママ・パパではなく、子どもに決めさせてください。子ども自身の気持ちを尊重しましょう。
小1だと「いじめ」「無視」の意味がわからない子も
そして子どもの様子が落ち着いたら理由を聞いてみましょう。前述の通り、小1だと「いじめ」という言葉の意味すら知らない子もいるので、「嫌なことがあった?」「友だちに叩かれたりした?」「友だちに痛いことされた?」と聞いてあげてください。「無視」の意味を知らない子もいるので、「友だちに知らんぷりされた?」と聞くといいでしょう。
相談する相手は、何人かいると心強い!
子どもに気になる様子があるときは、まずは担任の先生に学校での様子を聞くのが第一です。もし担任の先生が不在だったり、「担任の先生が苦手」と思うときは、学年主任の先生に相談してもいいです。スクールカウンセラーに相談するのも一案です。また同じ学年・同じクラスに、幼稚園から一緒など気心が知れた保護者がいるならば、その人に子どもの様子を聞いてもいいでしょう。相談する相手が何人かいると心強いです。
ママやパパが過度に心配すると、子どもも不安が増長
深刻ないじめが社会問題になって、「うちの子はおとなしいから、いじめられてしまうのではないか?」「うちの子は、みんなよりも小さいからいじめられてしまうのではないか?」と心配しているママやパパもいるかも知れません。
しかしママやパパが過度に心配すると、雰囲気を察して子どもも学校に行くのが不安になってしまいます。小1のときは「集団生活だから小さな友だちトラブルはつきもの! 困ったときは先生に相談する」ということを心に留めて、笑顔で子どもを送り出してほしいです。
家庭内を居心地よくして、わが子がいじめる側にならないように
これまで数々のいじめ問題に取り組んできましたが、いじめる側の子の多くは過度なストレスを抱えています。親に叱られてばかりで、家庭内で孤立して寂しさを抱えている子もいます。
「いじめからわが子を守る!」ということだけを考えるのではなく、家庭内を居心地よくして、わが子がいじめる側にならないようにしてほしいと思います。
記事監修
取材・構成/麻生珠恵