子どもを取り巻く環境はデジタル化している
子どもにとって「読書」はとても重要で、発達に有効であることも実証されています。
しかし、現代は紙の本だけではなく電子書籍やアプリなど、子どもを取り巻く読書の環境は、急速にデジタル化しています。
そうした中、去る2023年3月14日(火)、子どもの読書における紙とデジタル、読書とICT(情報通信技術)のベストミックスを考えるシンポジウムが、東京大学CEDEP※×ポプラ社の共同研究プロジェクト発表の場として開かれました。
※CEDEP(東京大学大学院教育学研究科付属 発達保育実践政策学センター)
読書とICTのベストミックスを考えるシンポジウムの登壇者
・野澤祥子(CEDEP 准教授)
・佐藤賢輔(CEDEP 特任助教)
・青木いず美(群馬県甘楽町立福島小学校司書教諭)
・秋田喜代美(学習院大学教授/東京大学名誉教授)
・千葉均(株式会社ポプラ社代表取締役社長)
子どもの読書に対する親の期待と実際の現状、そして紙の絵本とデジタル絵本を実際に読み聞かせた研究結果について、CEDEP特任助教・佐藤賢輔先生より報告がありました。
子どもの読書量は、成長すると減少傾向に
読書は子どもの発達において大切な活動であることは実証されていますが、子どもの読書量は、年齢が大きくなると減少してしまうそう。その反面、デジタルデバイスに触れる度合いは大きくなっていきます。
しかし、親はデジタルデバイスを用いた遊びや読書に抵抗感を持っているため、デジタル読書は子どもに普及していないのが現状です。
「紙」と「デジタル」で、読書の効果に違いはあるの?
佐藤先生は、日本において紙とデジタルの直接比較研究を行い、「内容理解」についても「言葉の学習」においても両者に差がなかったことが明らかになりました。
研究結果では紙・デジタルどちらの良さも生かして、子どもたちの読書を進めるべき
今後も、多種多様な読書のスタイル・その特徴をつかむ研究が必要であることを提言しました。
子どもたちが電子書籍サービス使ったら? 効果も発表
次に、群馬県甘楽町立福島小学校司書教諭・青木いず美先生より、実際に小学校の授業で電子書籍サービスを使った際の効果について報告がありました。
福島小学校では、GIGA スクール構想により子どもたちが全員1台端末を持ち、電子書籍読み放題サービス「Yomokka!」と調べ学習応援サービス「Sagasokka!」を導入しました。
“いつでも、どこでも、好きなだけ!”をコンセプトに、こどもたちの読書環境を支え、新たな読書体験を提供することを目指した、電子書籍読み放題のサブスクリプションサービス。
“知りたいことを、いつでも、どこでも、思いのままに”をコンセプトに、こどもたちの情報収集活動や学習の環境を支え、ひとりひとりが主体的に調べる力を育むことを目指した、「総合百科事典ポプラディア」発の調べ学習応援サービス。
電子書籍サービスで、全体の読書量が増えた
そして、電子書籍サービス「Yomokka!」により図書館自体の貸し出し冊数に変化はありませんでしたが、Yomokka!利用の分、全体の読書量が増えた結果となりました。電子書籍サービスの特徴、
・読みたい本を、いつでも好きな時に好きなだけ読める。
・学校にない本も読める。
・借りにいくより楽。
が、ポジティブな結果につながった印象です。
デジタル社会では、子どもの読書環境を柔軟に選択できるように
佐藤先生、青木先生の発表をうけて、学習院大学教授・秋田喜代美先生は「デジタル社会は子どもの読書環境をどう豊かにできるのか?」を話しました。
初めに、子どもの読書環境を“豊かにする”とは、全ての子どもたちが主体的に“読書”にアクセスでき、「安心して読む場所」があり、「読める時間の保証」があり、「読みたい本を選べる」ことができることから、本を読む経験が積めて、読書を通して得がたい知的経験をすることができること。
では、「デジタル社会は子どもの読書環境をどう豊かにできるのか?」の各先生方からそれぞれ意見は?
デジタルを活用して本離れを防げたら
佐藤先生:多くの子どもが、大きくなるとだんだん本から離れていってしまう現状があります。デジタルを活用することで、子どもたちが本から離れないようにすることが可能になればと思います。
青木先生:豊かな読書とは、「質」が大切だと思います。本を間にして、子どもが大人と会話をできるようになるなど、本を介する豊かな時間があることが、読書の豊かさだと思います。
“豊かな読書”に対して大人は何ができる?
デジタル社会の読書の現状に対しての問題点として「紙かデジタルかの前に、子どもたちは読む行為がもともと経験できていない」ということも挙がりました。
その問題点に対し、電子書籍等を活用することで、その子に対し個別で最適な読書を提供できる可能性があり、発達段階や子どもの状況等に応じて、紙媒体や電子媒体等を柔軟に選択できるようにすることが望ましいことも話しました。
また、秋田喜代美先生が「“豊かな読書”に対して大人は何ができる?」と質問すると……。
佐藤先生:大人もまず、デジタル書籍、絵本を一度読んでみてほしいです。今は多くのデバイスが増え、デジタルならではの面白い使い方があります。それらを知ると、紙ならではの良さも分かります。違いを理解して大人が接していくことが大切だと思います。
青木先生:大人は、そうした時間を仕組んであげる、そして読書の選択肢、読書活動の選択肢を増やしてあげるべきです。
小さいうちは紙の絵本のほうがいいかも
ここから、ポプラ社社長・千葉均さんが討論に参加。
千葉社長:私は、読書の豊かさとは「社会は面白いものにあふれていると感じることができること」だと思います。そして私からも質問で「子どもには、いくつからデジタルデバイスを導入していいと思いますか?」
と佐藤先生へ質問が。すると……。
佐藤先生:子どもの、最初の絵本との出合いは紙である必要があると思います。紙の絵本とデジタル絵本の比較研究でも、紙の絵本の方が、絵本の内容がまだ理解しづらい小さな子にとってはその子に合った形で調整でき、集中力をもって読めるという結果がでました。乳幼児期は、身体的な接触や指差し活動が重要です。デジタルは画面が小さく触って動いてしまうので、まずは紙の本によって「読む」という行為を理解した方がよいと思います。
青木先生:私も、小さければ小さいほど紙の本に五感を通じて接した方が良いと思います。年中さん年長さんくらいからだったら、デジタルで写真絵本などを拡大して楽しむこともできるようになります。
秋田先生:小さいうちはたしかに五感を通じて読むことが大事です。ただし、お出かけの際などには持ち運びも便利なデジタル絵本を使うのは構わないと思います。「〇〇ちゃん絵本」のような、その子専用のパーソナルな絵本を作れるのはデジタルの強みだと思いますね。
千葉社長:紙でもデジタルでも、「体験」を共有することが大事だと思います。デジタル端末を渡して「勝手にやって」とするのはダメだと思いますが、子どもと「体験」を共有する読み方であれば、どちらもよいと思います。
多様な子どもに対して、デジタルはどう活用できる?
佐藤先生:デジタル書籍は多様な子に個別に対応でき、そうした面でデジタル書籍は広げていきやすいと思います。
青木先生:拡大して読むことが出来るなどデジタル書籍は自分なりにやりやすい形で読むことが可能です。英語の絵本なども、デジタルデバイスを活用すると探しやすくなります。そうした面でさまざまな可能性があります。
秋田先生:拡大して読むなどはデジタルのほうが便利ですよね。ハンデのある子などが、デジタルの利便性を活用して制約を超えていくことが可能です。耳の不自由な子が、手話付きのデジタル書籍を読んだり、外国籍の子の読書に活用したりもできると思います。
千葉社長:出版社の社長として、オーディオブックや多言語書籍など、様々な子たちへ対応できる書籍を作ることが将来の夢です。
紙とデジタルの革新的な教育方法が必要
さいごに、東京大学CEDEPセンター長・遠藤利彦先生が、今後の研究について話された「紙とデジタルのベストMIXを模索し、革新的な教育方法が必要だと考え、まだ研究は緒に就いたばかり」という言葉が印象的でした。
これからもCEDEPは、「読む」という営みが子どもにとってどう重要か、社会に対して発信していくそう。筆者は育児中の親として、これまでは、子どもにデジタルデバイスを使わせることに戸惑いがありましたが、これからの子どもたちは、デジタルデバイスの使用が当然の世の中で育っていくのですから、デジタルを取り入れる必要性を感じました。また、今回のシンポジウムで紙とデジタルでは有用性に差がないことを知り、親もまずデジタル絵本を理解し、両方の特徴をいかして、その子に最適な読書を模索していく必要があることも感じました。
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文・構成/徳永真紀