アンデルセン童話『もみの木』のあらすじと教訓が深い…。大人こそ読んでおきたい「人生」の物語【教養としての海外名作】

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アンデルセン童話の『もみの木』はもみの木の一生を描いたお話です。他者をうらやましがったり、現状に満足できず感謝を忘れている大人にもぜひ読んでほしい1冊。また、なぜ「もみの木」が主役だったのか、深いメッセージについても考えていきます。

『もみの木』ってどんなお話?

アンデルセンによって書かれた『もみの木』は、クリスマスが近づく12月に読む風物詩的ものがたりです。もみの木が主人公で、その成長と経験を通じて、人間の欲望や幸福についてのメッセージが綴られています。

アンデルセン童話『もみの木』とは

『もみの木』は、デンマークの有名な童話作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンによって書かれた童話のひとつです。この童話は、1845年に最初に発表されました。

原題:”Grantræet”(デンマーク語)、英語表記”The Fire Tree”
国:デンマーク
発表年:1835年

作者のアンデルセンってどんな人?

ハンス・クリスチャン・アンデルセン(Hans Christian Andersen、1805年 – 1875年)は、デンマーク語読みではアンナセンといい、フュン島のオーゼンセで貧しい靴屋の子として生まれました。

ハンス・クリスチャン・アンデルセン By Thora Hallager – museum.odense.dk, Wikimedia Commons(PD)
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Wikimedia Commons(PD)

彼の代表作には、「人魚姫」「みにくいアヒルの子」「裸の王様」「親指姫」「赤い靴」「雪の女王」などがあります。これらは、子どもだけではなく、大人にも愛される心温まる寓話で、アンデルセンの作品として広く知られています。

彼は、19世紀初頭のヨーロッパで活躍し、その才能と作品は世界中に広がり、没後もその作品は多くの映画や舞台として様々な形で再解釈されるなど、今なお人々に愛され続けています。

また、アンデルセンは詩や旅行記も執筆し、デンマーク文学の発展に貢献しました。彼の作品は、当時の社会や世相を描写しており、文学的な価値も高く評価されています。

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『もみの木』のあらすじ

あらすじを簡単にまとめると…

森で成長した小さなもみの木が、ついに夢がかなって美しいクリスマスツリーになり、最後は暖炉に投げ捨てられるまでの物語です。

「もみの木」は、自身が小さかった時は早く大きくなりたいと願い、大きくなったらクリスマスツリーになることを夢見ますが、実際なってみると思ったほど幸せを感じません。最後、暖炉に投げ捨てられるときには、森にいた若かった時を幸せだったと思い出すお話です。

詳しいあらすじ

小さな「もみの木」が森の中で成長していくところから物語は始まります。

小さな「もみの木」は、周りの大きい木が羨ましくて仕方ありません。早く大きくなりたいと願っています。鳥やウサギがやってきて「もみの木」の上を飛び越えるとバカにされていると感じます。

冬になると決まって、きこりが大きな木を何本かもみの木を切り倒してどこかへ持って行きます。

「もみの木」は、きっと見たこともないすごい世界に連れて行ってもらうんだ、僕もいつか伐採されたいと願います。小鳥の話によれば「クリスマスツリーというものになって素晴らしく美しく着飾ってもらえる」らしいのです。

数年たって、ついに「もみの木」が切り倒される番が来ます。車にのせられ、市場で売られ… ある人間の家に運び込まれました。

土の入った桶に植えれらると、人間の子どもたちがまわりに集まり、「もみの木」に飾り付けをしていきます。とうとう夢見ていた通り、美しいクリスマスツリーになるのです。足元にはたくさんのプレゼントが集められ大喜び。

しかし、「もみの木」にとって体中にくっつけられた飾りは重たく、森の仲間もいないその場所は快適ではありませんでした。あんなに夢見ていたクリスマスツリーになったのに、むしろ森にいたころのほうが楽しかったことに気がつきます。

そしてクリスマスが過ぎると、「もみの木」は屋根裏部屋に入れられることに。きっと屋根裏部屋はもっと素晴らしい世界なんだろうと胸を膨らませますが、そこは永遠に真っ暗。時々現れるネズミ以外、誰もやってきません。

ある日、人間たちがこの汚く暗い部屋から「もみの木」を運び出してくれました。

ようやく出られるとホッとしたのもつかの間、「もみの木」は、子どもたちに枝をぽきぽき折られていきます。体は短く切られ、薪木として束ねられていきます。「もみの木」は、そんな自分らしくない姿になった事を悲しみ、ああ、これならまだ屋根裏部屋のほうがまだましだった、と思います。

その後、部屋の中に運ばれると、子どもたちは「もみの木」を暖炉に投げ込みました。「もみの木」は燃えながら、太陽と風と動物と楽しく過ごした森を思い出しながら、一生を終えます。

『もみの木』の教訓

この『もみの木』には、どんなメッセージがあるのでしょうか。

隣の芝は青い

もみの木は常に今の自分に満足できず、まわりの大きな木やクリスマスツリーが羨ましいと思っていました。これは「隣の芝は青く見える」という日本のことわざにも通じる心理を描いていると言えます。

現状の幸せに気づく

他者を羨ましがり現在の状況に不満を募らせるばかりでは、本当の幸せを感じることができないということを伝えています。

嫉妬心を捨て、今ある世界に幸せを感じ、何事にも感謝の気持ちを忘れずに、というメッセージととることもできます。

『もみの木』を読むなら

実際に『もみの木』を読んでみたい方に、いくつかおすすめの書誌をご紹介します。

あるもみの木の物語【ひらがな・カタカナ】 (きいろいとり文庫)

YellowBirdProject (著), かつながみつとし (イラスト), アンデルセン童話 (その他)  形式: Kindle版 

漢字無し、すべて平仮名とカタカナ。文字が読めるようになったら。

バーナデットのモミの木(西村書店)

ハンス・クリスチャン アンデルセン (著), バーナデット (イラスト), Bernadette (イラスト), ささき たづこ (翻訳)

小学校低学年~。大型絵本 1ページ(ページ数不明) 易しい漢字あり、ルビ一部にあり。

もみの木(青空文庫)

アンデルセンハンス・クリスチャン (著), 楠山 正雄 (翻訳)   形式: Kindle版

小学校2、3年生~。漢字あり、ルビほとんどなし。

モミの木 (ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ)(西村書店)

H.C. アンデルセン (著), マルセル イムサンド (写真), リタ マーシャル (写真), 小杉 佐恵子 (翻訳) 

小学校3,4年生~。漢字あり、ルビなし。

『もみの木』を主人公にした意図とは

皆さんは、このお話の主人公がどうして「もみの木」だと思いますか?

樫の木やオリーブの木ではダメだったのでしょうか。さらに言えば、木である必要もなく、鳥や魚でもお話としては成り立つと思いまませんか。そこをあえて「もみの木」を主人公にしたのは、子どもたちにクリスマスにこそ読んで欲しいというアンデルセンの願いがこめられているから。

クリスマスの日、裕福な家の子の高価なプレゼントを羨ましく思う子どももいるでしょう。また、待ちに待ったサンタさんからのプレゼントが、思っていたものと違うと残念がる子どももいることでしょう。

アンデルセンは、クリスマスだからこそ、ないものねだりや他を羨ましがるのではなく、今ある幸せに気づいて欲しいと願ったのではないでしょうか。

本当の幸せとは何か、どこにあるのかを、親子で一緒に考えてみる良いきっかけになるお話です。

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文/加藤敬子 構成/HugKum編集部

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