『雨月物語』ってそんなに怖いの? 幽霊がどっさり登場する世にも不思議な物語を大解剖

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高校の古典の教科書にも登場する『雨月物語』。この物語を読むと、怖さと不思議を体験することができます。この記事では、作品情報や作者、あらすじをご紹介します。また、現在まで読みつがれる理由についても解説します。

雨月物語とは?

まずは『雨月物語』の作品情報や、作者について知りましょう。

日本の読本作者・上田秋成の作品

『雨月物語』は、日本の読本(よみほん)作者である上田秋成によって1776年に発表された怪異小説です。読本とは江戸時代の小説の一種で、この作品は初期読本の代表格となっています。

第四版の表紙※第四版は、幕末、大坂心斎橋、河内屋源七郎の出版。四つの版のなかで、一番残存冊数が多い。三冊組に構成されている
第四版の表紙※第四版は、幕末、大坂心斎橋、河内屋源七郎の出版。四つの版のなかで、一番残存冊数が多い。三冊組に構成されている Ueda Akinari,   Wikimedia Commons(PD)

『雨月物語』は日本や中国の古典文学から着想を得て書かれています。また、「白峰(しらみね)」「菊花の約(きっかのちぎり)」「浅茅が宿(あさじがやど)」「夢応の鯉魚(むおうのりぎょ)」「仏法僧(ぶっぽうそう)」「吉備津の釜(きびつのかま)」「蛇性の婬(じゃせいのいん)」「青頭巾(あおずきん)」「貧福論(ひんぷくろん)」の9つの話が収録されています。

作者:上田秋成
国: 日本
発表年:1776年
おすすめの年齢:中学生以上

上田秋成ってどんな人?

甲賀文麗による上田秋成の肖像    Wikimedia Commons(PD)

上田秋成(うえだあきなり、1734-1809)は、日本の読本作者です。幼いころに母と別れ、大阪の紙油問屋に養子に入り、商いのかたわら、俳諧(俳句)や小説を書くようになります。38歳のときに大阪の大火にあい破産しますが、そこから医者の修行を始め、1776年に医者として開業。この年に『雨月物語』が刊行されました。秋成は、医者でもあり、小説家でもあったのです。

いつの時代の話?

『雨月物語』に収録されている9つの話の時代設定はまちまちです。平安時代の話もあれば、江戸時代の話もあります。

雨月物語の代表的な物語とあらすじ

第四版の見返、序 見返「上田秋成大人編輯/雨月物語/全部/三冊/浪花書肆 文榮堂蔵版」
「上田秋成大人編輯/雨月物語/浪花書肆 文榮堂蔵版」第四版の見返し w:en:User:Reichert,  Wikimedia Commons(PD)

『雨月物語』には9つの話があります。ここでは、代表的な物語のあらすじを、「詳しく」&お子さんへの説明に便利な「簡単に」の2種類ご紹介します。

菊花の約(きくかのちぎり)

「菊花の約」は、中国の小説をもとに書かれたといわれています。丈部左門(はせべ左門が)と赤穴宗右衛門(あかなそうえもん)が交わした約束とは。

九月九日の菊の節句に、左門と赤穴の約束は果たされるのか

詳しいあらすじ(ネタバレあり)

時は戦国時代。軍学者の赤穴宗右衛門は城が敵の尼子経久(あまごつねひさ)に乗っ取られたため、故郷である出雲に帰る途中であった。そんな旅の途中、病に倒れてしまう。気の毒に思った学者の丈部左門は看病した。赤穴は左門の看病の甲斐もあり回復。左門のもとで暮らすうちに、赤穴は左門と意気投合し、義兄弟の約を結ぶ。

ある日、赤穴は国元のようすを知るため出雲に一度帰ることにした。赤穴は九月九日の菊の節句には戻ると左門と約束を交わす。

約束の日である九月九日の菊の節句。赤穴は左門の元へ帰ってきたが、死者の魂となっていた。というのも、赤穴は故郷で尼子に寝返った従兄弟・丹治に説得させられるも、尼子に従うことを拒否したため、城中に監禁された。そのまま約束の日を迎えたため、赤穴は自害して、魂となって帰ってきたのだった。

翌日、左門は赤穴を弔うため出雲に向かう。十日後、出雲に到着した左門は、丹治を斬り殺し、行方をくらました。

簡単なあらすじ(ネタバレなし)

赤穴宗右衛門は旅の途中、病に倒れる。気の毒に思った丈部左門は、赤穴を看病した。看病の甲斐もあり、回復した赤穴は、左門と意気投合し義兄弟の約を結ぶ。ある日、赤穴は国元のようすを知るため出雲に一度帰ることにした。赤穴は九月九日の菊の節句には戻ると左門と約束を交わす。約束の日、左門は赤穴の帰りを待つが…。

夢応の鯉魚(むおうのりぎょ)

『雨月物語』には、鯉に変身する不思議な話も

絵を描くのがうまい僧の、不思議な夢の話です。

詳しいあらすじ(ネタバレあり)

近江国の三井寺に興義(こうぎ)という絵の上手な僧がいた。とくに評判となったのは、夢の世界でたくさんの魚たちと遊んだときの光景を描いた「夢応の鯉魚」という絵だった。

ある年、興義は病気にかかり、死んでしまう。ただ、胸のあたりに温かさが残っており、みなでしばらく見守っていた。すると興義は息を吹き返した。興義は、「檀家の平の助の殿が宴をやっているだろうから、それを中断して寺にくるように伝えてください」という。

寺に平の助の殿の館の人々が訪れると、興義は話をはじめる。

興義は病気で苦しんでいる最中に、湖を泳いでいた夢を見ていた。すると、海の神から金色の鯉の服を授かり、鯉に変身した。急にお腹が減った興義は、釣り糸の餌に食いつき、捕らえられ、助の屋敷まで連れて行かれてしまう。膾にするために料理人が包丁を振り下ろそうとする瞬間に目が覚めたというのである。

助はその不思議な話を聞き、残っていた膾を海に捨てさせた。後に興義が寿命で亡くなった際に、興義が描いた鯉の絵を湖に散らした。すると、魚が紙から抜け出して泳ぎまわった。

簡単なあらすじ(ネタバレなし)

近江国の三井寺に興義という絵の上手な僧がいた。ある年、興義は病気のために死んでしまう。ただ、胸のあたりに温かさが残っており、みなでしばらく見守っていた。すると興義は息を吹き返し、不思議な夢の話を語りはじめる。

吉備津の釜(きびつのかま)

「吉備津の釜」は、夫に裏切られた妻が復讐する話です。

吉備津神社(岡山県岡山市)の総延長398メートルの回廊

詳しいあらすじ(ネタバレあり)

吉備国に、酒と女遊びが好きな正太郎という男がいた。家族は正太郎の品行を正すため、吉備津神社の神主・香央造酒(かさだみき)の娘である磯良と結婚させる。

香央家は「御釜祓い(みかまばらい)」という儀式を行い、結婚の吉凶を占った。すると、凶という結果となるが、二人はそのまま結婚する。

結婚後、正太郎は遊女・袖と駆け落ちしてしまう。正太郎を信じ、尽くしてきた磯良は、すっかり気落ちして寝込んでしまう。

一方、正太郎と袖はいっしょに暮らし始めるも、袖は亡くなってしまう。正太郎は毎日夕方に墓参りをして過ごす。そんな折、正太郎は墓参りで若い女と出会う。女は、仕えている家の主人が亡くなり、奥様が悲しんで病に臥せっているので、自分が代わりに墓参りをしているのだという。興味を持った正太郎は、女の家を訪れる。家へ着くと、屏風の向うから亡霊となった磯良が現れる。正太郎は恐ろしさのあまり気絶する。目覚めると、正太郎は荒野の三昧堂(僧侶が修行する場所)にいた。

陰陽師に助けを求めた正太郎は、陰陽師から四十二日間の物忌みを命じる。四十二日目の夜に正太郎は磯良に誘い出され、どこかに連れ去られてしまう。

簡単なあらすじ(ネタバレなし)

正太郎と磯良は結婚することになった。「御釜祓い(みかまばらい)」という儀式を行い、結婚の吉凶を占った。すると、凶という結果となるが、二人はそのまま結婚する。結婚後、もともと遊び人だった正太郎は遊女・袖と駆け落ちしてしまう。正太郎を信じ、尽くしてきた磯良は、すっかり気落ちして寝込んでしまう。そのころ正太郎は、袖が急死し、毎日お墓参りをしていた。すると若い女と出会い…。

白峯(しらみね)

崇徳上皇の亡霊と、西行法師が議論を繰り広げます。

日本三大怨霊・崇徳上皇を祀る白峰宮(香川県坂出市)

詳しいあらすじ(ネタバレあり)

西行法師は白峰を訪れ、旧主・崇徳上皇の墓に参詣する。その夜、西行の前に世を恨む怨霊となって崇徳上皇があらわれる。成仏を勧める西行だったが、崇徳上皇との議論に発展。西行は「王道」を論じ、崇徳上皇は「革命」を語る。

そんな最中、突然風が吹き荒れ、鬼火が燃え上がる。すると魔王・崇徳上皇の姿があらわに。西行は崇徳上皇の浅ましい姿を嘆き、歌を献上すると、崇徳上皇は穏やかな顔となり姿を消す。

簡単なあらすじ(ネタバレなし)

西行法師は白峰を訪れ、旧主・崇徳上皇の墓に参詣する。その夜、西行の前に世を恨む怨霊となって崇徳上皇があらわれる。成仏を勧める西行だったが、崇徳上皇との議論に発展し…。

仏法僧(ぶっぽうそう)

ある親子が高野山で怨霊たちの酒盛りに遭遇する話です。

ブッポウソウ。「ゲッゲッ」などと鳴くが、昭和初期まで「ブッポーソー」と鳴くコノハズクの鳴き声がこの鳥の鳴き声と誤認され、「ブッポウソウ(仏法僧)」と呼ばれた。
ブッポウソウ。「ゲッゲッ」などと鳴くが、昭和初期まで「ブッポーソー」と鳴くコノハズクの鳴き声がこの鳥の鳴き声と誤認され、「ブッポウソウ(仏法僧)」と呼ばれた。

詳しいあらすじ(ネタバレあり)

伊勢国の拝志夢然(はやしむぜん)は、息子の作之治と高野山に訪れる。その夜、霊廟の前にある灯籠堂の縁側で野宿をすることとなった二人は、ブッポウソウの鳴き声を耳にする。夢然は「鳥の音も秘密の山の茂みかな」という俳諧を口にする。

そんな折、豊臣秀次家臣団の亡霊たちが出現し、酒盛りを始める。再びブッポウソウの鳴き声が聞こえると、豊臣秀次は連歌師の里村紹巴(さとむらじょうは)に一句を勧める。紹巴は夢然に「先の句を殿下に申し上げよ」と命じる。恐ろしさに震えつつも夢然は句を献上する。

家臣・雀部淡路守(ささべあわじのかみ)が修羅の時刻が近づいていることを告げると、亡霊たちは勇み立つ。秀次は「あの二人も修羅道に連れて参れ」と命じる。あわや修羅に連れていかれそうになる夢然と作之治だったが、秀次が老臣に諌められたことにより難を逃れた。

簡単なあらすじ(ネタバレなし)

高野山へお参りに向かった親子が、豊臣秀次家臣団の亡霊たちの酒盛りに巻き込まれ…。

雨月物語が読み継がれている理由

『雨月物語』がこれまで読み継がれているのには理由があります。その理由を解説します。

さまざまな幽霊が登場する怖くて不思議な話

『雨月物語』には、亡霊や怨霊といった幽霊が登場します。幽霊のほかに、鯉に変身する話や、黄金の精霊があらわれる話、死者が生き返る話などもあり、いずれも不思議な話であることが特徴です。

いつの時代も人間は変わらない

『雨月物語』には、妻が夫に復讐したり、恋愛要素、親友との約束など、現在でも起こり得る人間模様が描かれています。そのため、江戸時代に書かれた小説でありながら、現在読んでも少しも古びた感じがしないのがポイントです。

バラエティ豊かな主人公の人間味

9つの話の主人公には、歴史上の著名な人物から、武士、学者、僧、神主の娘など、バラティ豊かです。そして、どの主人公も情念に憑かれ、執着に身を捧げたという共通点があり、人間味を感じます。

名作「雨月物語」を読むなら

ここからは、そんな『雨月物語』のおすすめの本をお伝えします。本作に興味を持ったらぜひ手に取っていただきたい3冊です。

改訂 雨月物語 現代語訳付き

秋成壮年の傑作『雨月物語』の現代語訳付きの本です。『雨月物語』特有の怖さや不思議を現代語で味わえます。

漫画訳 雨月物語

漫画版の『雨月物語』なら、古典や文字を読むのが苦手な人でも、すんなりストーリーに没入できます。この本では、マンガ『鈴木先生』でおなじみの武富健治氏がマンガを担当。重厚な筆致で幻想怪奇文学の古典に新たな生命が吹き込まれています。

小学館世界J文学館

この1冊で125冊の電子書籍を読める新時代の児童文学全集。『雨月物語』はもちろん、その他の世界名作、現代児童文学、日本やアジアの古典、SF、詩まで、125作品を電子書籍で読むことができるのが特徴です。紙の本は、1作品を見開きで紹介する名作図鑑となっています。

『雨月物語』で怖くて不思議な体験を

『雨月物語』は、幽霊が出てきたり、鯉に変身したり、死者が蘇ったりと、怖くて、不思議な話ばかり。怖い話や不思議な話が好きな人におすすめです。

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文・構成/HugKum編集部

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