『耳なし芳一』という物語を知っていますか? 題からなんだか怖そうな雰囲気が伝わってきますね…。『耳なし芳一』の作者やモデル、映画など、物語にまつわる疑問を一つずつ見ていきましょう!
『耳なし芳一』ってどんなお話? 怖い?
『耳なし芳一』は日本の昔ばなしであり怪談。「怪談」というだけあり、怖い内容となっています。どんな場面が怖いのか、詳しくは後述の「あらすじ」で!
作者は誰?
古くから語り継がれている昔ばなし、怪談であるため、作者は不明です。しかし、1904年に小泉八雲という小説家が書いた『怪談』の中に『耳なし芳一』の物語があり、有名になりました。
小泉八雲は日本に帰化したギリシャ人で、帰化前の名前はラフカディオ・ハーンといいます。小説家の他に、英文学者として、東京大学や早稲田大学で教鞭をとったことも。心臓発作のため、54歳の若さで亡くなっています。
芳一は実在する?
『耳なし芳一』の主人公、琵琶法師の芳一が実在するかどうかは分かっていません。しかし、1300年頃、琵琶の演奏で平家物語を語る平曲家だった明石覚一(あかしかくいち)は、盲目であり芳一のモデルだという説があります。
映画で観れる?
前述した小泉八雲の『怪談』は、1964年に映画化されています。『耳なし芳一』の他に『黒髪』『雪女』『茶碗の中』の4つの物語で構成されたオムニバス形式。カンヌ国際映画祭では、審査員特別賞を受賞しました。
物語のあらすじ
『耳なし芳一』にまつわる疑問が分かったところで、さっそく物語のあらすじを紹介していきましょう。
あらすじ
阿弥陀寺(あみだじ)というところに、芳一という盲目の男がいました。彼は琵琶法師で、琵琶を弾きながら語るのがとても上手でした。特に、源氏と平氏の最後の戦いである「壇ノ浦の戦い」を弾き語る場面では、誰もが涙を流すほど。
ある夏の夜、和尚が出かけ、寺には芳一がひとり。琵琶を弾いていると、何やら物音が近づいてきて、「芳一」と呼びました。その声は言うには、「私の主がおぬしの琵琶の弾き語りを聞いてみたいと言っている。屋敷まできて欲しい」とのこと。
芳一は驚きながらも、屋敷まで行くと、そこにはたくさんの人が。さっそく壇ノ浦の戦いの弾き語りを始めると、皆聞き入り、どこからかすすり泣く声も。芳一の弾き語りは大変気に入られ、これから七日七晩弾き語りをして欲しいと頼まれるほどでした。
その日から、夜になると出かけて行く芳一。それを怪しんだ和尚は、寺の者に芳一の後をつけるように言います。芳一の後をつけて行くと、そこには異様な光景が。芳一がお墓の前で、必死に弾き語りをしているのです。
寺の者は慌てて芳一を連れ戻し、和尚に話しました。和尚は「芳一の命が危ない」と言い、芳一を守るために体のいたるところにお経を書き始めます。
その夜、同じようにまた「芳一」と呼ぶ声がしましたが、芳一は返事をすることもなく、ついて行くこともなく、じっと黙っていました。声は「芳一がいない。しかし、ここに耳だけがある。ここへ来た証拠として、この耳を持って帰ろう。」と言い、突然芳一の耳を引きちぎったのです! あまりの痛さに思わず声をあげそうになるのを、芳一はぐっと抑えました。
和尚が急いで帰って来ると、そこには耳から血を流した芳一の姿が…。和尚は驚き、「私が耳にお経を書き忘れたせいだ」と謝りました。このことをきっかけに、芳一は「耳なし芳一」と呼ばれるようになり、琵琶の弾き語りもより一層有名に。各地から人が集まるようになったのだそう。
あらすじを簡単にまとめると…
盲目の琵琶法師、芳一は、平家の怨霊に気に入られ、琵琶の弾き語りをすることに。しかし、このままでは命が危ないと知った和尚が、芳一を守るために身体中にお経を書きます。ところがこの時、耳にだけお経を書き忘れてしまったせいで、芳一は耳を怨霊に引きちぎられてしまいました。
この出来事をきっかけに、芳一は「耳なし芳一」と呼ばれるように。芳一の琵琶の弾き語りは一層有名になり、各地から琵琶を聞きに人が集まって来たのでした。
主な登場人物
怨霊、墓地、耳を引きちぎられるシーンなど、怖い場面がいくつかある物語でしたね。短いお話ですが、登場人物を順番に確認していきましょう。
芳一
盲目の琵琶法師。琵琶の弾き語りの腕前が素晴らしく、特に「壇ノ浦の戦い」のシーンでは多くの人が涙する。平家の怨霊に取り憑かれてしまい、毎晩墓の前で琵琶を弾いていたところ、寺の和尚が身体中にお経を書いて守ってくれた。
しかし、耳にだけ書き忘れたせいで、怨霊に耳を引きちぎられてしまう。それをきっかけに「耳なし芳一」という呼び名がついた。
和尚
阿弥陀寺の和尚。芳一を怨霊から守るために、芳一の体中にお経を書くが、耳だけ書き忘れてしまう。
声
高い身分の主に仕える者。芳一に声をかけ、屋敷まで案内する。芳一が琵琶を弾いていた墓とは、平家の安徳天皇のものだったとか。そのため声の主も平家の人物だと思われる。
『耳なし芳一』読むなら
ちょっと怖い『耳なし芳一』の物語。しかし、子どもでも読みやすいよう、絵本や文庫本でも出版されています。今回は、『耳なし芳一』の物語が読める本を3冊紹介!
『耳なし芳一』(小学館)
小泉八雲の名作を初めて「真っ向勝負の絵本」にした、と出版社が表現するほど壮大な絵本。さいとうよしみによる、細部までこだわり、迫力のあるイラストが絵本の中心です。
『おばけばなし ぶるぶるドキドキ30話』(大泉書店)
『のっぺらぼう』『三枚のおふだ』など、『耳なし芳一』を含む有名な怪談が30話収録された絵本。1話が3ページほどと短いため「子どもが飽きずに楽しめる」とのレビューも。
『耳なし芳一・雪女 新装版-八雲 怪談傑作集-』(講談社青い鳥文庫)
小学上級、中学からも読みやすく、すべての漢字にふりがなが付いている青い鳥文庫。『雪女』『ろくろ首』など、『耳なし芳一』を含む20話を収録しています。
お経の書き忘れはわざと?『耳なし芳一』の教訓とは
芳一の身体中にお経を書くシーンは、和尚一人で書いたような表現になっているものと、別の寺の者と手分けして書いたような表現になっているものがあります。和尚一人で書いた場合は、琵琶が上手な芳一への妬みから、わざと耳にお経を書かなかったのでは… と言われることも。
一方で、お経を手分けして書いていた場合は、芳一が耳を失ってしまったのは、和尚がきちんと最終確認しなかったせい、と言われることも。誰かと一緒に仕事をする場合は、「確認が肝心」という、教訓が込められているのかもしれませんね。
「壇ノ浦の戦い」についてもチェック!
構成・文/伊藤舞(京都メディアライン)