※ここからは『1日5分で親子関係が変わる!育児が楽になる!PCITから学ぶ子育て』(著/加茂登志子・小学館)の一部から引用・再構成しています。
1日5分の「特別な時間」で親子の関係性を改善
PCIT(Parent-Child Interaction Therapy:親子相互交流療法)は本来、問題行動が激しい子どもと、その子どもに対処できない親を対象としている治療ですが、その内容は子育て全般にとても役立つものです。
PCITの第1段階のCDI(子ども指向相互交流)では、「子どもが親をリード」する「特別な時間」で、遊びながら親子の関係性を改善します。その「特別な時間」で子どものリードについていくために、封印するべきスキル3 つがあります。これらは、「Don’t スキル」と呼ばれています。きっとみなさんの日常の子育てに役立ちますよ。
Don’tスキル❶ 命令しない
命令とは子どもに何かを指示したり、何かを提案することです。命令には直接的命令と間接的命令の2種類があります。
直接的命令は、「これを使いなさい」「ここに座って」というように親がしてほしいことをストレートに伝える言い方です。
一方、間接的命令とは、たとえばおもちゃを片付けてほしいときに「お片付けしましょう」と誘うような言い方や、「お片付けしたらどうかな?」と問いかけるような言い方や提案です。これも命令なの? と意外に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、言い方はともあれ、親は子どもに片付けることを求めているのでこれも命令になります。
いずれの命令も、「特別な時間」の中では避けていきます。日常生活の中では命令が必要な場面は多々ありますから、全面的に命令はダメ!ということではありません。
Don’tスキル➋ 質問しない
Don’tスキルの2つ目は、質問です。どうして質問がいけないの⁉と驚かれる方も多いのではないかと思います。親子の会話の6割以上が質問であるという研究もあるくらいですが、「特別な時間」の中では避けていきます。
命令に直接的命令と間接的命令があったように、質問にもいくつかの種類があります。「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」を聞くようないわゆる5W1Hの質問は、単に情報を求めるための質問です。
一方で、「そのクマさん緑で塗っちゃうの?」という質問には、暗にクマさんを緑で塗ることに不賛成である、というメッセージが含まれています。また、「机の上をきれいにしたら次の人が気持ちいいと思わない?」という質問は、片付けることを求める、本当は命令である質問です。「え?」「それ車?」というような語尾が上がる言い方も減らしていきましょう。
Don’tスキル❸ 批判しない
批判というと、「それは違うわよ」「そうじゃないよ」「間違ってるよ」「ダメじゃない」などの言葉を思い浮かべますよね。これらはもちろん批判なのですが、そのほか「やめなさい」「止まりなさい」「走らないで」などの言葉も、多くの親は命令のつもりで使っていると思いますが、実は批判に含まれます。
英語で言うと「Don’t」〜あるいは「Stop」〜で始まる形ですが、子どもにしてはいけないことを言うことも批判にあたると覚えておいてください。
このことについて、「子どもにしてはいけないことを教えるのも、親の大切な役目ではないでしょうか?」という質問を受けることがあります。もちろん、してはいけないことや、マナーを守ることを子どもに教えるのは、大切なことです。けれども、批判をしなくとも間違いを正すことはできます。たとえば、「廊下を走ってはダメ」と批判する代わりに、「廊下は歩きましょう」と言うことができます。
そもそもPCITとは
ここまではPCITの第1段階、CDI(子ども指向相互交流)におけるDoスキルとDon’tスキルのうち後者について紹介しました。
PCITはParent-Child Interaction Therapyの略称で、日本では親子相互交流療法と訳されます。遊戯療法(プレイセラピー)と行動療法に基づいた心理療法で、親子の相互交流を深め、その質を高めることによって、子どもの心や行動の問題、育児に悩む親(養育者)に対し、改善するように働きかけます。
「心理療法」というと身構える方もいるかもしれませんね。確かに本来は治療なので、問題行動が激しい子どもと、その子どもに対処できないと苦しむ親が対象です
が、その内容は特定の疾患に対応したものではなく、子育て全般にとても役立つものなのです。
PCITの一番大きな特徴は親子が一緒に治療を受けることです。治療の大半は、プレイルームで行われます。
2つ目の特徴は、プレイルームにいる親は〝イヤホン〟を装着し、子どもと遊びながら観察室にいるセラピストから直接コーチングを受けることです。
3つ目の特徴は、セラピストが親子の変化を具体的に評価し、追跡していくことです。セラピストが感じた印象で評価するのではなく、親子が遊んでいるときに、チェックすべき行動の数をカウントして客観的に評価します。
4つ目の特徴は、親がセラピストのコーチングのもとにしっかりスキルを身につけるのを確認してから先に進むことです。
この4つの特徴はとてもシンプルですが、親子は不思議なくらいどんどん変わっていきます。
日本でもコロナ・パンデミック以降、インターネットPCITの実施数が急に増えてきました。将来的にも有望な取り組みだと思います。治療が進んでいくと、親子とセラピストの間にもよい交流が生まれ、セッション中はまるで一緒に躍ったり、コーラスをしたりしているような感じになります。
※ここまでは『1日5分で親子関係が変わる!育児が楽になる!PCITから学ぶ子育て』(加茂登志子・著/小学館 )の一部を引用・再構成しています。
PCIT子育てでHappyになる
『1日5分で親子関係が変わる!育児が楽になる!PCITから学ぶ子育て』は、上記のようなPCITのコーチングを受ける機会がない方や、実際のセッションを体験する予定はなくともPCITに関心がある方に向けて、家で手軽にPCITのスキルを使えるように刊行されました。
「言うことを聞かない」「乱暴」「落ち着かない」といったお子さんに悩み、育児困難を感じている方は、ぜひこのPCITのスキルを試してみてください。エビデンスに基づいたPCITのスキルが家庭でもできる本です。
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◆著者紹介
加茂登志子(かも・としこ)
東京女子医科大学卒業。元東京女子医科大学精神神経科教授。
東京都女性相談センター嘱託医、東京女子医科大学附属女性生涯健康センター所長を経て、2017 年若松町こころとひふのクリニックPCIT 研修センター長および一般社団法人日本PCIT研修センター所長。PCIT International グローバルトレーナー。
著書に『1日5分で親子関係が変わる!育児が楽になる!PCIT から学ぶ子育て』(小学館)がある。
日本PCIT 研修センター公認サイト https://pcittc-japan.com/
構成/HugKum編集部
イラスト/オグロエリ