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ドラゴンボールのキャラばかり描いて、人気者だった小学生時代
クラスでいちばん絵がうまかった
――絵本の出版、おめでとうございます。すごく素敵なタッチの絵ですが、リリーさんは小さなころから絵本作家になりたかったのでしょうか。
リリー もともと絵本や映画が好きだったので、物語を作ることに興味はありました。なので、絵本を描き、発売できたことはすごく嬉しいですね。小さなころはヒマさえあればずっと絵を描いていたんですよ。気づいたら、クラスで一番絵がうまくなっていたんです。
――どんな絵を描いていたんですか?
リリー 当時は『ドラゴンボール』の絵ばかり描いていました。あの頃、孫悟空の絵を描ける人って、めちゃくちゃ人気だったんですよ(笑)。休み時間になると、みんなからリクエストされて描くことがすごく嬉しかったんですよね。それに、絵を描いている時間は1人の時間に没頭できるので、どこか瞑想に似ているというか。何かイヤなことがあっても、1人で落書きをしているだけで忘れさせてくれたんです。
――その時のイラストは残っていますか?
リリー 岡山の実家にはあるかもしれないですね。ただ、僕は描いた絵を取っておくタイプではなく、描いたらすぐ捨てていました(笑)。ただひたすら、描くことが楽しかったんですよね。
決められるのは好きじゃない
――図工や美術の授業も好きでしたか?
リリー それがあまり好きではなくて。先生に“これを描いて”と決められることが好きではなかったんです。それよりも「自由に描かせてくれよ」と思ってました(笑)。指示されると、一気にやる気がなくなっていたんです。なので、チラシの裏に描くくらいが楽しかったですね。
――それくらい、純粋に好きだったんですね。
リリー そうですね。なので、自然と勉強よりも楽しくなっていったんです。そういえば、美術の授業中に、鉛筆で1枚の絵を描いたときに、僕の中では完成していた絵があったんです。でも、先生に“絵の具で色を塗れ”と言われて、ものすごくイヤで泣いてしまった思い出があります。僕からしたら、「これが完成形なのに、なんで違うものにしなくちゃいけないんだ」って思って。今思うと変なこだわりですよね(笑)。
サッカー選手の夢は諦め、美術短大のデザイン科へ
――絵がうまい小学生でしたが、そのころの夢は何でしたか?
リリー サッカー選手でした。
――絵に関する職業じゃないんですね!
リリー あはは。そうですね。当時、中学生の僕は岡山の田舎に住んでいたんですが、地域の中ではサッカーも一番うまかったんです。「これはプロになれるぞ」と思い込んでいたのに、いざ県の選抜に選ばれるような人たちとプレーをしたら、自分の下手さ具合を目の当たりにして…諦めたんです。田舎って、そういう自信をもたせてくれるのはいいところですけど、残酷ですよね(笑)。
――漫画家を目指したことはありましたか?
リリー 一度、中学生くらいのときに漫画家になりたいなと思い、Gペンなどの用具を一式揃えて描いてみたこともあったんです。そのころは『ろくでなしBLUES』やヤンキーマンガが大好きだったので、模倣したようなマンガを描いていたんです。ただ、1年ほど書いて、“違うな”と思って辞めました(笑)。その後、美術短大に進んだんですが、そこで絵でご飯を食べていくのは大変だという現実を突きつけられたんです。そこで、“絵は趣味でいいな”って思ったんです。
――まさか、その十数年後に絵本を出すとは…。
リリー 思ってもいませんでした(笑)。でも、こうやって点と点が線になることを実感したからこそ、あらためて好きなことは何でもやってみた方がいいなと思いましたね。
芸人になることを、母親には内緒にしていた
――その後、芸人さんになるのもおもしろいですね。
リリー 実は、僕は母親に芸人になるって言っていなかったんですよ。なので、卒業後は舞台美術の仕事をしているって言っていたんです。でも、テレビに出たことをきっかけにバレてしまって(笑)。母から電話が来て、「テレビ出てない⁉」って言われて、その時に内緒でNSCに通っていたこと、事務所に入ったことなどを正直に話しました(笑)。
――そのお母さまから、この親子愛をテーマにした絵本の感想はもらいましたか?
リリー どうなんでしょうね? 読んでいないんじゃないですか?
――いや、絶対に読まれていると思います!(笑)
リリー あはは。そうだったら、嬉しいですね。
母が女手一つで育ててくれたからこそ、「おにたろう」のストーリーは生まれた
人から見えない幸せのかたちを描きたかった
――この絵本を読んだ人たちに、どんなメッセージが伝わったら嬉しいですか?
リリー 僕が小学5年生の時に、父が事故で他界し、それから母は女手一つで育ててくれたんです。それって、外から見たら“かわいそう”って思われるかもしれないですが、僕は、その後の母との生活もすごく楽しかったんですよね。実の親ではなく鬼に育てられるこの『おにたろう』も一緒で、どんな家庭であっても、人からはどう見えようとも、それぞれ幸せに感じる人もいるということが伝わったら嬉しいです。
それに、読んでくれた子供たちには、境遇に負けることなく、おにたろうのように立派に育ってくれたら嬉しいです。この本は、子どもが読んだらおにたろうの目線で、親が読んだら鬼目線で読めると思うんです。親子で、別の目線で楽しんでもらえたら本望です。
迷ったら「やる」そうすれば道が開ける
――様々な夢を持ち、最終的に芸人という夢をかなえたリリーさんが、いま夢を持つ子供たちや、その親御さんにメッセージをお願いします!
リリー この年になり、半生を振り返った時に、すべてにおいて何か変化を起こすのは行動しかないと思うんです。思っているだけで、何もしなかったら、本当に何にもならないんですよね。僕も芸人を目指し、NSCに入るときはものすごく悩みました。お金もかかるし、芸人として成功するかなんてわからないですからね。気持ち的には、やりたい気持ちが51%、辞めようと思う気持ちが49%くらいだったんです。そのたった少しの%の違いで願書を出したから今があるんですよね。
もちろん、動いて失敗するときもあると思います。僕にとっては、美術や、サッカー、漫画家などがそうでした。でも、試したから、向いていないことも分かったんです。だから、迷った時は、厳しいと思う方に行った方が、なにかを得られるんじゃないかなと思っています。
――今の、次の夢も教えてください。
リリー いつか、個展を開きたいです。そのために今は油絵や、瓶などに絵を描いています。これがすごく楽しいんですよね。時間がないことを理由にせず、これからも好きな絵を描いていきたいと思っています。
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取材・文/吉田可奈 撮影/熊谷直子