中国武侠小説の最大傑作『水滸伝』ってどんな話?「四大奇書」のひとつといわれるその内容に迫る!

中国で書かれた長編小説『水滸伝』。タイトルは聞いたことがあるものの、どんな物語か知らないという人も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、物語のあらすじや主な登場人物などを解説。また、読み継がれている理由についてもご紹介していきます。

水滸伝とは?

まずは、『水滸伝』の著者や物語の背景をおさえておきましょう。

中国の施耐庵の作品

『水滸伝』は、明代(1368〜1644)の中国で書かれたと言われている長編小説です。作者は施耐庵(し たいあん)といわれており、彼が講談を集めて創作したといわれています。発表されたのは、1610年ごろです。

『水滸伝』は「水のほとりの物語」という意味

ちなみに『水滸伝』の「滸」の文字には「ほとり」という意味があり、『水滸伝』は「水のほとりの物語」という意味があります。

原題:水滸傳
国: 中国
発表年:1610年ごろ

施耐庵(し たいあん)ってどんな人?

施耐庵の像 Photo by pangwa, Wikimedia Commons

『水滸伝』の作者は、施耐庵といわれています。施耐庵は、元末(げんまつ)から明初(みんしょ)にかけて活躍した役人、文人といわれていますが、経歴も、実在したのかも明確にはなっていないそうです。

施耐庵が書いたといわれている小説には、『水滸伝』の元となった『江湖豪客伝』や、『三国志演義』『平妖伝』などがあります。

いつの時代の話?

『水滸伝』は、北宋末期(960〜1127年)の話です。小規模な反乱をモチーフにしています。ちなみに日本には江戸時代に紹介されました。

物語のあらすじ|「詳しく」&「簡単に」2バージョンでご紹介

水滸伝の内容は、前半と後半で大きく二つに分かれるのが特徴です。

詳しいあらすじ(ネタバレあり)

●前半のあらすじ

前半では108人の好漢たちが梁山泊に集まるまでが描かれます。

時代は北宋末期。皇帝の使者が伏魔殿の108つの魔王の封印を解きます。
時は流れ、108つの魔王は、108人の好漢に生まれ変わります。好漢たちには、大男から青年、書道の先生、医者、百姓、貴人までおり、生まれも育ちも性格もばらばら。
全土に散らばる彼らが、痛快な勧善懲悪や殺人事件などを経て、運命に導かれるように「梁山泊」という要塞に集結します。

前半には、以下のようなそれぞれの好漢が梁山泊にたどり着くまでの逸話が散りばめられています。
・不倫した妻を殺してしまい、逃亡して梁山泊の無法者たちに助けを求める話(宋江のエピソード)
・人喰い虎を退治する話(武松のエピソード)
・兄の仇を討つ話(武松のエピソード)
・悪党を殺してしまい、追ってから逃れるために和尚になった話(魯智深のエピソード)
・死刑にされかかった仲間を助け出す話
・財宝を強奪する話

●後半のあらすじ

後半は、梁山泊軍が朝廷や外国、反乱軍と戦う話が続きます。

梁山泊軍は、朝廷が派遣してきた梁山泊討伐軍を何度も打ち破ります。
しかし、梁山泊の首領である宋江は、かねてから朝廷に帰順して天子のために働くことを望んでいました。その意向から梁山泊は朝廷に帰順することに。
これを快く思わなかったのが高俅や蔡京は、反乱のどさくさに紛れて、梁山泊軍を討伐軍に出して弱らせようと画策。しかし、いくつもの戦に負けることなく勝利します。高俅は、最終手段として、梁山泊軍を江南の方臘(ほうろう)の乱の鎮圧に向かわせます。
戦いには勝利するも、史進、阮小二、阮小五、劉唐といった梁山泊の幹部は戦死。ついには朝廷に使えるものがほとんどいなくなり、梁山泊は解散。宋江と李逵は、高俅から送られてきた毒酒を飲まされ、死んでしまいます。

簡単なあらすじ(ネタバレなし)

時代は北宋末期。さまざまな事情で世間からはじき出された宋江ら好漢108人が、梁山泊と呼ばれる砦に集まります。彼らは汚職官吏や不正がはびこる世の中に立ち向かいますが…。

水滸伝の主な登場人物

『水滸伝』に登場するおもなキャラクターを紹介します。

宋江(そうこう)

<a href="https://commons.wikimedia.org/wiki/File:SongJiang.jpg">Unknown sourceUnknown source</a>, Public domain, via Wikimedia Commons
宋江(明 陈老莲 木刻版画)《水浒叶子》 Wikimedia Commons(PD)

梁山泊の三代目首領。貧しいものに自らの家財を援助するほどの義に厚い人物。人徳もある。この小説の主人公。

李逵(りき)

Li Kui (李逵) destroying temple gate at Goshu with axe and pick.
物語中の李逵を描いた錦絵(歌川国芳) Wikimedia Commons(PD)

梁山泊の好漢の一人。狂暴で争いを好む反面、弱いものを助ける一面ももつ。

武松(ぶしょう)

Utagawa Kuniyoshi - 水滸傳 - 武松
武松を描いた錦絵(歌川国芳) Wikimedia Commons(PD)

梁山泊の好漢の一人。物静かな性格だが、一度スイッチが入ると激変する。無類の酒好きで、酒が原因で揉め事を起こすことがある。

魯智深(ろちしん)

魯智深。月岡芳年「魯智深爛酔打壊五台山金剛神之図」(1887)
魯智深。月岡芳年「魯智深爛酔打壊五台山金剛神之図」Wikimedia Commons(PD)

梁山泊の好漢の一人。柳の木を根から引き抜いたり、素手で山門の仁王像をバラバラにするほどの怪力。のちに和尚になるものの素行は変わらない。

耶律輝(やりつき)

遼国王。朝廷帰順後の梁山泊軍が最初に戦った強敵で、大軍を率いて宋王朝の制圧を目論む。

水滸伝が読み継がれている理由

 

『水滸伝』がこれまで読み継がれているのには理由があります。その理由を解説していきましょう。

「四大奇書」のひとつ

『水滸伝』は、『西遊記』『三国志演義』『金瓶梅』とともに「四大奇書」とされている小説です。「四大奇書」は、明代ごろに作られた4つの代表的な長編小説を指します。

この「四大奇書」は、清代前期の書店が販売促進のためにつけたキャッチフレーズだといわれています。

中国武侠小説の最大傑作

武侠小説は、中国文学での大衆小説のひとつのジャンルです。『水滸伝』は、武侠小説の最大傑作といわれており、中国をはじめ、日本でも多くの人に読まれ、親しまれています。

スケールの大きい躍動感のある立ち回り

108人の豪傑たちが反体制に立ち向かうというストーリーに加え、スケールの大きな好漢たちの立ち回りシーンに、思わず引き込まれます。

スカッとする話が満載

前半部分では、108人の好漢の英雄らしいエピソードが描かれ、後半部分では、幾度の戦いが描かれます。梁山泊軍はほとんどの戦いに勝利します。

強気をくじき弱気を助ける、勝ち負けが明白なストーリーは、読むものをスカッとさせます。

白話小説だから世界観に没入できる

『水滸伝』は、白話(口語)小説です。長編小説ではありますが、リズム感のある文体で読みやすく、すんなり世界観に没入できます。

映画やマンガ、ゲームの題材に

『水滸伝』は、映画やドラマ、マンガ、ゲームなど多くのエンタテイメントの題材になっているのもポイントです。なかでも有名なのは、横山光輝氏によるマンガ『水滸伝』。このマンガは横山氏が最初に描いた歴史長編マンガといわれています。

名作「水滸伝」を読むなら

ここからは、『水滸伝』のおすすめの本をお伝えします。本作に興味を持ったらぜひ手に取っていただきたい3冊です。

水滸伝 上(岩波少年文庫541)

 小気味いいリズム感で書かれた文体で、子どもの読者の入門にうってつけ! 抄訳ではありながら、十分に『水滸伝』の豪快な世界観を堪能できる一冊です。

水滸伝 上 替天行道

 『水滸伝』の物語に加え、ガイドブックがついている本です。ガイドブックには登場人物事典の他に108人の梁山泊好漢たちの人物評価表と、わかりやすいあらすじが付いています。『水滸伝』をはじめて読む人や、小学生にもおすすめです。

水滸伝 (一) (講談社学術文庫)

 全5巻の第1巻。この本では、冒頭の「引首」から「第二十二回」までを収録しています。躍動感あふれる世界を、よみやすく、勢いのある文体で訳されているのが特徴です。

痛快な『水滸伝』を読んでスカッとしよう!

『水滸伝』は、「四大奇書」のひとつで、昔から多くの人に愛されてきた小説です。108人の好漢たちの強気をくじき弱気を助ける、英雄らしいエピソードは、読む人をスカッと痛快な気分にさせてくれます。読めば、ストレス解消効果が期待できるかもしれない『水滸伝』。ぜひ一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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文・構成/HugKum編集部

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