悪習癖は口もとに様々な影響を与える
口腔悪習癖とは不正咬合や口の機能に悪影響を及ぼす口周囲に関する癖であり、指しゃぶりなどのほか、口呼吸・歯ぎしり等を含むこともあります。では、主なものを挙げてみましょう。
1.指しゃぶり(吸指癖)
主に親指を吸い、悪習癖の中でも高頻度で認められます。指しゃぶりが長期間に及ぶと、上顎前突(出っ歯)や開咬(前歯が噛み合わない)になる可能性が高まります。
2.唇を噛む(咬唇癖)
下唇を噛む場合は、下唇が上下の前歯の間に入ると、上の前歯は外側に出て下の前歯は内側に倒れます。その結果、出っ歯になるリスクが上がります。
3.爪を噛む(咬爪癖)
前歯の先端が欠けるなど、見た目や噛み合わせに悪影響が出るほか、様々な不正咬合の原因になります。
2009年に大野秀夫氏らが報告した研究によると、不正咬合の治療を希望して受診された子ども30人(平均年齢8.5歳)のうち、認められた悪習癖の中で咬爪癖が23人(76.7%)で最も多くなりました(図1)。
4.舌を突き出す(舌突出癖)
つば(唾液)を飲み込む時、上下の歯の間に舌を挟んで飲み込む癖です。
舌の位置や使い方に問題があり、正しい飲み込み(嚥下)ができない状態です。
5.頬杖
時々するくらいなら特に問題ないですが、習慣化している場合は要注意です。特に成長期にある子どもは大人よりも骨に影響を受けやすいため、片側に持続的な力が加わると骨格に歪みを生じ、それに伴い周囲の筋肉や靱帯にアンバランスな状態が及びます。
その結果、顔が左右で非対称になるなど、顔貌や噛み合わせなどに悪影響して、顎変形症と呼ばれる病態になることがあります。場合によっては、外科的な矯正治療の適応になりますので、気を付けましょう。
以上の悪習癖による噛み合わせなどの異常によって、咀嚼障害や発声・構音障害などの問題が生じやすくなります。
指しゃぶりなどで上下の歯の間に隙間が空くと、その隙間に舌を押し込む癖になることがあり、舌先を使うサ行・タ行・ナ行・ラ行などが聞き取りにくくなります。また、前歯が突出して出っ歯になると、口唇を閉じにくくなるため口の中が乾燥し、虫歯リスクも上がってしまいます。
▼関連記事はこちら
成長過程における悪習癖の頻度は?
指しゃぶりなどの悪習癖の年齢と頻度について調べた研究結果を見てみましょう。
2004年に昭和大学歯学部の井上美津子氏らが報告した研究によると、東京都で行った調査結果で1歳2カ月の子どもの指しゃぶりの頻度は28.5%、1歳6カ月では28.9%、2歳0カ月では21.6%、3歳0カ月では20.9%になりました。つまり、1~3歳ではおよそ20~30%の割合で指しゃぶりがあることが明らかになりました。
また、1998年に東京歯科大学小児歯科学講座の西条崇子氏らは、東京都国立市で歯科健診(1歳6カ月~5歳)を受けた子ども512人について保護者アンケートなどを行い、子どもの口腔習癖の有無や種類などを調査しました。
その結果、指しゃぶり(吸指癖)は年齢とともに減少傾向を示したのに対し、爪を噛む咬爪癖が割合としては低いものの年齢とともに増加傾向を示しました(図2)。
しかし、何らかの口腔習癖がある子どもの全体としての割合は減少しました(図3)。
指しゃぶりはいつまで大丈夫?
0~3歳頃までの指しゃぶりは反射や発達過程での生理的な行為で、遊びの一つであるとも言えます。また、眠たい時や不安を感じる時に心を落ち着けるための行動でもあります。日本小児歯科学会によると、3歳頃までの指しゃぶりは無理にやめさせる必要はないと明言しています。
子どもの社会性が発達する3歳頃になると、保育園や幼稚園で友だち同士で遊んだりして集団生活に関心を抱くようになり、指しゃぶりは自然と落ち着くと言われています。しかし、環境の変化などで今まで以上に指しゃぶりをしてしまう子どももいます。その場合は、子どもの不安やストレスを取り除くように環境を整えることが大切です。
指しゃぶりをやめさせたほうがいい年齢の目安は、4~5歳だと言われます。この時期以降は歯や顎の発育・成長が著しく、歯並びや噛み合わせに悪影響が出る可能性が高まるからです。
この時期には、指しゃぶりはほとんど消失するのが一般的です。しかし、4歳以降、さらに小学生になっても癖が残る場合は小児科医や小児歯科医、臨床心理士などの連携による積極的な対応が必要になることもありますが、まずは家庭でのアプローチが重要です。
家庭でできる指しゃぶり対策
指しゃぶりをやめるために家庭でできる方法をいくつか挙げてみましょう。
・手先を使う遊びを取り入れる
保護者は子どもの生活リズムを整え、手や口を使う機会を増やすことが大切です。積み木やブロック、パズルなどの手を使う遊びを取り入れましょう。集中する時間をつくると、指を吸うのを忘れやすくなります。
・外で遊ばせる
屋外の環境は室内以上に様々な刺激に満ち溢れています。外遊びや運動をさせてエネルギーを十分に発散させると、ストレスからも解放されます。多彩な刺激は、子どもに指を吸う暇を与えません。
・指に好きなキャラクターの絆創膏やテーピングを貼る
吸ってしまう指の存在を子どもに意識させるために、指を目立たせることも大切です。好きなデザインや色だと、指を吸うのに気が引けて吸わなくなる可能性が高まります。
悪習癖の克服は、叱らずにスキンシップを大切に
指しゃぶりに限らず、悪習癖をやめさせる際に一番大事なことは「注意をする時は、絶対に叱らない」という心掛けです。
悪習癖がやめられない原因の多くは、精神的なストレスを抱えていたり、何かに不安を感じたりしているケースです。強く注意したり叱ったりすると子どもの心はより一層不安定になり、逆効果です。優しい声掛けを心掛けましょう。
悪習癖は、子ども自身が「やめたい」という自発的な気持ちを抱くことが大切です。少しの時間でも癖を我慢できたら、褒めてあげてください。小さな達成感の積み重ねが自信となり、克服へと導きます。
また、子どもが悪習癖をどんな時にするのかを観察するのも大切です。眠たい時やお腹が空いた時、甘えたい時、遊びに飽きた時などにする場合は、気をそらす工夫をしてみてください。
眠い時や不安を感じている時、スキンシップをとることで子どもは安心感を得ることができます。スキンシップをはかるために、寝つくまでの間は子どもの手を握ったり、絵本を読んであげたりして、子どもを安心させるように努めるのもいいですね。
たっぷりと愛情を注いで、子どもの悪習癖を克服させてあげてくださいね。
こちらの記事もおすすめ
記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・大野秀夫ほか:口と体の癖からみた咬合異常への対応.九州歯会誌63(4):211-235,2009.
・井上美津子:子どもの口に関わる各種の習癖について.チャイルドヘルス 7(6).416-419,2004.
・西条崇子ほか:1歳6カ月から5歳にいたる小児の口腔習癖の推移と咬合状態の関連性について.歯科学報 98(2):137-149,1998.
・小児科と小児歯科の保健検討委員会:指しゃぶりについての考え方.小児保健研究 65(3),513-515,2006.
・日本小児歯科学会ホームページ:【こどもたちの口と歯の質問箱】歯ならび・癖.