ダークマターとは?
宇宙には、現代科学では証明できない多くの謎が存在します。「ダークマター」もその一つで、普遍的に存在しているものの、目には見えないのが特徴です。現時点において、ダークマターはどのようなものと認識されているのでしょうか?
宇宙に存在する謎の物質
ダークマターは、宇宙に存在する未だ解明されていない物質です。天体は、可視光線やX線、赤外線といった電磁波によって観測できますが、ダークマターは電磁波観測ができません。光を放たず、目にも見えないことから、「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれています。
NASAの資料によると、私たちの目に見える物質は宇宙全体のわずか4.6%に過ぎません。宇宙を構成する要素のうち、71.4%はダークエネルギー、24%はダークマターが占めているといわれています。
ダークエネルギーとは、宇宙の膨張を加速させているとされる仮説上のエネルギーです。ダークマターと同様、正体はまだはっきりと分かっていません。
出典:WMAP 9 Year Mission Results
ブラックホールとの違い
研究者の間では、ダークマターを「原始のブラックホール」とする考え方がありました。しかし現在は、ダークマターがブラックホールである可能性は低いとされています。
ブラックホールとは、高い密度と強力な重力を持つ天体の一種です。重力が大きすぎて、光さえも脱出ができないことから、ブラックホール(真っ黒な穴)という呼び名になりました。
その姿は直接的に観測できませんが、周囲のガスが吸い込まれるときにX線などの強いエネルギーを放出するため、存在を確認できます。
原始ブラックホールは、ダークマターのほんの一部に過ぎないとされています。研究が進めば、両者の関連性が明らかになるでしょう。
出典:ダークマターは原始ブラックホールではなかった!? | 国立天文台(NAOJ)
ダークマターの特徴
ダークマターには、他の天体とは異なる特徴があります。目には見えないものの、ダークマターの重力が及ぼす作用によって、その存在が立証されている点にも注目しましょう。
光を放出・反射・吸収しない
夜空の星の大部分は、自ら光を放って輝きます。それらの天体は「恒星(こうせい)」と呼ばれ、太陽も恒星の一つです。また、地球を含む多くの惑星は自ら光を放出しませんが、太陽の光を反射します。
火星や金星などの惑星を肉眼で観測できるのも、太陽の光を受けて輝いているためです。ダークマターは恒星と違い、自ら光を放出しません。さらに、恒星の放つ光を反射したり、吸収したりしないため、肉眼では捉えられないとされています。
強い重力を持つ
「肉眼では見えないのに、なぜダークマターの存在が分かるの?」と疑問に思う人もいるでしょう。ダークマターは、非常に強い重力を有しているのが特徴です。
遠方の天体を観測する際、宇宙空間にダークマターが存在していると、強い重力の影響で周囲の空間がゆがみ、天体の光もゆがみに沿って曲がります。
天体がだぶって見える現象は「重力レンズ効果」と呼ばれ、ダークマターの位置や存在を証明する手法とされています。特に、銀河団には多くのダークマターが分布しており、重力レンズ効果が顕著です。
ダークマターについての仮説
ダークマターの正体は謎ですが、研究者の間ではいくつかの仮説があります。研究が進めば、宇宙の謎の解明にもつながるかもしれません。代表的な仮説をピックアップして紹介します。
銀河をつなぎ留めている
1930年代、スイスの天文学者フリッツ・ツビッキーは、超高速で移動する星々が銀河の外に飛び出さないことに疑問を持ちました。何らかの大きな重力が作用していなければ、銀河は成り立ちません。
銀河をつなぎ留めているのは、ダークマターの強力な重力であると考えられます。宇宙に漂うちりやガスが引き寄せられ、次第に星や銀河が形成されていったとする仮説もあります。
ダークマターは、「コズミックウェブ」と呼ばれるクモの巣のような形で存在していると考えられてきました。すばる望遠鏡がダークマターの糸(フィラメント)を検出したことで、その実態が徐々に明らかになっています。
出典:すばる望遠鏡、銀河団を結ぶダークマターの「糸」を初検出| 観測成果 | すばる望遠鏡
未知の素粒子の可能性がある
ダークマターは、ブラックホールのような暗い天体ではなく、未知の素粒子である可能性があります。素粒子とは、物質を細かく分解したときの最小単位です。
宇宙が誕生したばかりの頃は、未知の素粒子が数多く存在していたといわれています。現時点において、「ウィンプ(WIMP)」「アクシオン(AXION)」などの素粒子がダークマターの候補とされています。
特に有力とされるのが、ウィンプの一種「ニュートラリーノ」です。ただしこれらは理論上の素粒子であり、まだ発見されていません。
ダークマターの謎に挑む望遠鏡
ダークマターの謎に挑むのは、国立天文台が運用に関わる天体望遠鏡です。「アルマ望遠鏡」と「すばる望遠鏡」は、目には見えないダークマターの正体を捉えています。
アルマ望遠鏡
アルマ望遠鏡は、南米のチリ共和国北部に位置するアタカマ砂漠に設置されています。複数の小型の望遠鏡をつなげて巨大な望遠鏡として機能させる「電波干渉計」という仕組みを採用しており、66台の望遠鏡を最も広範囲に並べると、その口径は実質16kmにも及びます。
望遠鏡は口径が大きければ大きいほど、微弱な光や電波を捉えられます。人間の視力でいうと、アルマ望遠鏡は「視力6,000」に匹敵するそうです。
アルマ望遠鏡では、宇宙空間でのダークマターの空間的なゆらぎを約3万光年のスケールで初検出しています。
すばる望遠鏡
すばる望遠鏡は、ハワイ島マウナケアの山頂域に設置されている望遠鏡です。主鏡の口径は8.2mで、富士山頂に置いたコインを東京都内から見分けられるほどの分解能を有します。
すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ(Hyper Suprime-Cam)では、ダークマターの広域探査が行われています。
2013年には、 2.3平方度の天域で分布調査を行い、銀河団規模のダークマターの存在を発見しました。現在は、天域を1,000平方度以上にまで拡大し、さらなる調査を続けています。
出典:国立天文台ハワイ観測所の概要 | すばる望遠鏡について | すばる望遠鏡
ダークマターから未知なる宇宙を想像しよう
宇宙の約95%は、正体不明のダークマターとダークエネルギーによって構成されています。ダークマターは、人類がまだ知らない素粒子である可能性が高く、正体が解明されれば、宇宙の構造が明らかになるといわれています。
現在、多くの科学者がダークマターの研究を進めているため、正体が分かる日が来るのはそう遠くないかもしれません。親子でダークマターの不思議について話をしたり、未知なる宇宙を想像したりするのもよいでしょう。
こちらの記事もおすすめ
構成・文/HugKum編集部