今回は「教育界のノーベル賞」と言われるGlobal Teacher Prize 2019 で「世界の優秀な教員10人」に選ばれ、現役の英語教師でもある正頭英和先生に、これからの時代の英語教育についてお話を伺ってみました!
目次
これからはプロセス重視!子どもが“楽しめているか”をポイントに
Q:小学生の英語教育では何を一番大事にすべきでしょう?また、英語を始めるのに適切な時期とは?
A:英語の何に重きを置いて考えるかにもよって違ってきます。
ネイティブのような発音を目的とするなら、もちろん0歳から英語を聴かせておくことが大事です。発音を重視するなら、なるべく早くに耳を作ることからスタートすると良いと思います。
しかし、A Iの進化に伴い、会話を目的に英語を学ぶことは費用対効果が悪いのではないか、という考えも出てきています。2028年までには、ChatGPTでの同時通訳が可能となり、言葉の機微までも伝えることができるようになると言われています。そういう時代の中で、幼少期に大量の時間とお金をかけて英語を学ぶことが、果たして正解なのかどうか…ということですよね。
今までの英語学習は「英語の習得」だけに的を絞って行ってきましたが、今は「異文化を理解するため」「世界にたくさんの友達を作るため」など、英語学習のプロセスに価値が置かれるようになってきています。プロセス重視を基にするならば、何も0歳から英語を学習する必要はないわけです。そして、「何歳から英語学習を始めるのが正解か」という考え方もなくなってきます。
一般的に、幼児期に英語が適していると言われがちなのは、好奇心旺盛なタイミングと合致しているから。親御さんがお子さんに、英語に興味を持たせやすいんですね。
英語を学ぶ上で一番大切なのは、生涯に置いて、言語学習を“面白い”と思い続けられることです。何歳から始めても、そういう気持ちを持ち続けることを大切にしてください。
好きにさせるよりも嫌いにさせない!歌って踊ってフィジカルに反応
Q:英語を好きになってくれる学習の進め方はあるのでしょうか?
A:教育の現場に身を置く私が言えることは、英語を“好きにさせる”万人に合う方法はありません。ただし、“嫌いにさせる”方法は確実にわかっています。
英語学習は、例えると短距離走ではなく、長く続けるマラソンのようなものです。じっくり長く進めていくものなのに、短距離走で走らせようとすると英語嫌いになってしまいます。
「今頑張らなくてどうするの?」「あと10分頑張って」など言ってしまっている親御さん、いませんか?徹底的に管理したり、成績をつけたり、学習に関わり過ぎてしまうことは危険信号です。
マラソンは歩いていても前に進んでいます。リタイヤさえしなければゴールはできますので、長い目でお子さんの様子を遠くから見守り、嫌いにさせないように気をつけてください。
親が子どもの学習に手を出さないということは、経済格差もデジタル環境・家庭環境も関係ありません。すべての親御さんが今すぐできることです。子どもが嫌がったら一度英語から離れてみる、どれくらいの時間何をするのかは子どもに任せる、などを心がけてほしいです。
また、英語に限らず言語学習には正しいプロセスというものがあります。何よりも大切なのはリスニングです。どんな目的で英語を学ぶとしても、まずはリスニングで耳を鍛えましょう。始める年齢にもよりますが、歌を聞くことからスタートして、次に踊って、その後に一緒に歌いながら踊ることがおすすめです。特に英語の童謡は体を動かすものも多いので、歌詞を歌いながらフィジカルに反応することを大切にしてください。
基本は、「聞く」→「踊る」→「歌う」です。多くの大人は、「聞く」の次は「読む」、「書く」、「喋る(会話)」と誤解していますが、それは違います。意味は理解していなくても良いので、たくさん歌を聞き、歌を歌うことが大切だと知っていただけたら。
英検にチャレンジするなら他の子と比較しない!フォニックスは理論よりも歌で
Q:英語教室・英語塾、英語教材を選ぶポイントはありますか?
A:子どもたちに損得を言い聞かせて英語を学ばせることは時代遅れ。楽しいかどうかが重要です。
「英語ができるといいことがあるよ」「大学入試で有利になるよ」などという理由は、A Iが現れたことで子どもに論破されてしまいます。非認知能力を育む上では、言語学習にたくさんメリットはあるのですが、目に見えないからこそ、子どもたちには理解しにくい。そのため、大人は英検に頼りがちになります。
英検に合格することをモチベーションにするご家庭は多いとは思うのですが、そこよりも楽しいか楽しくないかが重要です。英語学習を楽しいと思える環境であるかどうかを見極めてください。
Q:まさに英検を取得させていきたいのですが、「英語嫌いになりがち…」という話も聞いたことがあり。進め方のコツなどありますか?
A:英語学習全般に言えることと同じで、やってはいけないことは親が過熱することです。
英検を目標にすると英語が嫌いになるのではなく、親が一生懸命になりすぎることが英語嫌いにさせてしまう原因です。子どもが「やーめた」と言った時に「なんでここまで頑張ってきたのにやめるの?」とか「他の子も頑張っているのに。受からないのはあなただけよ」とか言わないことです。自分の教育は間違っていない、うちの子はちゃんと成長しているという証拠として英検を使うのは、100%失敗します。
また、英検は他のお子さんと自分の子どもを明確に比較する材料にもなってしまいます。「お友達は合格したのに、うちの子は合格できなかった」などと比較をしないこと、親が過熱しないことができるのであれば、チャレンジさせてあげてもいいかなと思います。
英検を親が安心するための材料にしてはいけません。
ただし、英語は短距離走ではなく、マラソンです。長く走り続けなければならないので、自分は成長している、前に進んでいるということが可視化されることも大切です。チャレンジするなら、目的を履き違えずに取り入れていきましょう。
Q:フォニックスを習得すると単語が読めるようになりやすいと聞きますが、親はどのように関われば良いでしょうか?
A:フォニックスは英語習得において有益な手段ではありますが、「それだけが正しい」というものでもありません。
一度トライしてみて、お子さんが「楽しめそうか」ということを基準に判断されるのがいいのかと思います。またフォニックスを始めるのに「遅すぎる」ということもありません。今がダメでも、いつか再挑戦してみるのもいいと思います。
オンラインやタブレット学習で親が笑っている時間を増やそう!
Q:幼少期からのオンライン英会話やタブレット学習が増えてきましたが、始める上での注意点はありますか?
A:英会話においては、先生との相性やカリキュラムのクオリティは重要です。
そして、初回からオンライン英会話を“楽しい”と感じる子はとてもレア。1回、2回では向き不向きは判断できないと思いますので、1ヶ月くらいは継続して様子をみてあげてください。
また、英会話はある程度単語を学んだ上で進める方が楽しめると思います。幼児期から英会話をやらせるならは、画面上にゲーム的な仕組みを組み込んでいるような、遊び感覚で進められる英会話か、もしくは日本語を少し理解している先生だと進めやすいかと思います。
オンライン英会話やタブレットの英語学習は、親御さんにもメリットがあります。子どもがPCやタブレットに向かってくれている間、家事や仕事をすることができるからです。自宅にいながら子どもを英語に集中させ、親御さんの時間を確保することに使うと、心に余裕をもつことができます。何よりも、親御さんが笑っていることが子どもにとっての一番良い環境です。
多くのお父様・お母様は子どもにPCやタブレットなどを与えておく事に不安を感じてしまいます。「子どもが孤独を感じてはいないか」「こんな親で良いのか…」などと悩んでしまい、子どもに寄り添って勉強させようとしますが、時間も体力も余裕がなくなり、笑って座っていることが本当に難しい。結局「早くやりなさい」と怒ってしまい、結果的に子どもにとってマイナスになることがほとんどです。
PCやタブレットに向かわせている事に罪悪感を持つことよりも、時間ができた時に「どこまでできた?」「どんなことをしたの?」と笑顔でいてあげられる方がとても大切です。
また、オンライン英会話やタブレット学習を上手に取り入れているご家庭は、それらの学習を生活の区切りとして取り入れています。夕食の前に英会話をやる、お風呂の前にタブレット学習をするなど、1日のどのタイミングでやるかを決めると、ダラダラとテレビや動画を見続けることも減り、継続しやすくなりますよ。
留学やホームステイは語学習得よりも経験を積むことに意識を向けて!
Q:語学留学やホームステイに適した時期(年齢)というのはあるのでしょか?
A:留学に関してですが、適正年齢・適正な時期というのはあまり考えなくて良いと思います。
なぜなら、英語力だけを考えると、おうちでコツコツと勉強する方が効率的だと考えているからです。ですが、短期留学やホームステイは、異文化の人との出会いや、体験が伴うことですよね。体験の価値はとても大きいです。
何事にも積極的で好奇心旺盛なお子さんは、必ずたくさんの経験をしています。何かに「チャレンジしてみたい」「やってみたい」という気持ちは、過去の体験から生み出されていることがほとんどです。幼少期の体験が多ければ多いほど、たくさんのものに興味が湧き、どんな事にも面白がれる子になっていくと考えています。
親子留学、短期留学、ホームステイどれも同じです。英語学習の効果よりも、何かを好きになるきっかけの体験や、興味関心の芽を育てることを目的として捉える方が良いでしょう。
大人側が準備してあげる英語学習のゴールは、英語をマスターすることではなくて、プロセスを楽しめることです。英語学習でしか学べない体験を大人側が再定義しておかないと、翻訳は全てA Iが替わりにやってくれてしまう時代、「英語学習って意味ある?」という疑問に繋がってしまうので注意してください。
英語学習も子どもの“好き”を増やすきっかけの一つ
これからの時代に必要な能力は、正直誰にもわかりません。3年くらいのサイクルで、時代が大きく変わっていき、その変化のたびに必要な能力は変わります。どういう能力を持っていたら将来役に立つかは予想できないのです。ただし、どういう子が、どういう大人になったら幸せかというのはわかっています。
どんな時代がやってきても「幸せだな」と感じて生きていける子の特徴は、“好き”がたくさんある子です。そのために私たち大人ができることは、たくさんの経験をさせてあげることです。そこから“好き”が芽生え、たくさんの“好き”が育ってくるようになります。
英語学習も、子どもの“好き”を増やしていく体験の一つとして捉え、楽しめる環境かどうかという視点で見直してみてはいかがでしょうか。
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お話を伺ったのは
正頭英和(Shoto Hidekazu)
著書に『桃太郎電鉄教育版 日本全国すごろくドリル 小学1年生 かん字・けいさん・プログラミング・日本ちず』(小学館)、監修に『ポケモンずかんドリル 小学生 アルファベット・ローマ字』(小学館)
桃太郎電鉄教育版 日本全国すごろくドリル 小学1年生 かん字・けいさん・プログラミング・日本ちず
文・構成/鬼石有紀