令和の「自由進度学習」とは? その利点と課題、GIGAスクール構想との関連も解説【最新教育事情を知る】

学校教育のあり方や授業の進め方は、時代とともに変わります。近年、一部の学校で「自由進度学習」と呼ばれる学習形態が導入されていることを耳にした人もいるでしょう。従来の授業との違いやメリット、GIGAスクール構想との関連性などを解説します。

学校で導入が進む「自由進度学習」とは?

一部の学校では、授業に「自由進度学習」と呼ばれる学習形態が導入されています。従来の授業とは、どのような点が異なるのでしょうか?  導入の目的について解説します。

児童生徒が自分のペースで学ぶ学習形態

自由進度学習とは、教員が計画した学習フレームの中において、児童生徒が自分の進度で学ぶ学習形態です。中央教育審議会による答申「令和の日本型学校教育の構築を目指して」の中では、個別最適な学びを実現する手段として位置付けられています。

個別最適な学び」とは、子どもの資質や能力を高めるために、それぞれの個性や興味・関心に合わせた学習指導を行うことです。一斉授業の場合、理解が早い子と遅い子の間に差が生まれます。平均に合わせれば、誰にも合わない授業になりかねません。

一斉授業にもメリットはありますが、個別最適な学びを実現するには、子どもが学習のペースを自主的に決められる自由進度学習が適していると考えられます。

出典:「令和の日本型学校教育」の構築を目指してPDF21、23|中央教育審議会

「個別最適な学び」が必要とされる理由

近年、個別最適な学びの重要性が強調されているのはなぜでしょうか? 理由の一つに、従来の教育が時代の変化にマッチしなくなっていることが挙げられます。

「みんなと同じことができる」「言われたことができる」に重きを置いた教育のおかげで、戦後の日本は目覚ましい経済発展を遂げました。

しかし、物質的に豊かになった現代は、人々の生き方やニーズが多様化しており、これまでの画一的な教育が合わなくなってきているのが現状です。

多様性に富む子どもたちを誰一人取り残さないように、教育現場でも個別最適な学びを取り入れる必要があります。

自由進度学習の流れとポイント

一つの単元内において、児童生徒が自分のペースで学習を進めていく方法は「単元内自由進度学習」と呼ばれます。ここでは、単元内自由進度学習の流れの一例と進め方のポイントを解説します。

ガイダンス・学習計画の作成

単元内自由進度学習は、自律的な個別学習が単元全体に及びます。まずは、教員が「ガイダンス」を行い、単元の目標・流れ・利用可能な教材などを説明します。明確なガイダンスが示されることで、子どもたちは学習のゴールを理解し、自分に合った学習計画を作成できるのです。

学習計画の作成では、教員が準備した「学習の手引き」を参考にしながら、子ども自身がいつ・誰と・どのような方法で・何をするかを決定します。教員は、全員が着実に学びを得られるように、個別に適切なアドバイスをしなけばなりません。

学びの実現と振り返り

学習計画を作成したら、子どもたちはそれぞれ計画に沿った学習を実践します。学習の中で、「自己チェック」と「教員チェック」をするポイントを設け、必要に応じて教員が指導・サポートをします。

実践の後は、必ず振り返りをし、次の学習につなげることが重要です。学習計画に「どこまでできたか」のチェック項目を設けると同時に、自分の言葉で計画と実践した結果を比較できるようにします。

振り返りを通じ、子どもの自己調整力が養われるでしょう。学習の成果を評価するために、ポートフォリオなどを提出させる学校もあります。

自由進度学習のメリット

教育現場に自由進度学習を取り入れると、子どもたちにさまざまな変化が生じます。実際に、どのようなメリットがもたらされているのでしょうか?

学習意欲が向上する

子どもが「学校に行きたくない」と訴える理由の一つに、授業をストレスに感じていることが挙げられます。従来の一斉授業では、理解が早い子は授業がつまらなく感じ、理解が遅い子はプレッシャーを感じやすいデメリットがありました。

自由進度学習を採用した場合、こうした子どもの学習意欲向上が期待できるでしょう。自分で学習目標や進度を決められるため、より前向きな気持ちで取り組めます。

自ら難しい課題に挑戦する子どもが現れるなど、教育現場からは「成長が手に取るように分かる」という声も上がっているようです。

教え合い・学び合いで成長できる

互いに教え合い・学び合いながら成長できるのも、自由進度学習の大きなメリットです。座席を固定せず、自由に歩き回ることを許せば、子どもは積極的に協働するようになります。

仲間の助けを必要とする子もいれば、他人に教えることで、自分の能力を伸ばす子もいるでしょう。毎回違ったペアやグループで学ばせれば、より多くの学びや気付きを得られるはずです。

また、教え合い・学び合いを通じて、他人をリスペクトする心が育まれるほか、「先生に頼らなくても、自分たちで解決できた」という自信につながります。

自由進度学習のデメリット

自由進度学習は、現代によりマッチした学習形態ではありますが、デメリットが全くないわけではありません。現時点において、どのような懸念点が生じているのかを解説します。

学習の遅れが生じる可能性

自由進度学習を導入した教育現場からは、一部の児童生徒に学習の遅れが生じる可能性が指摘されています。子ども同士で教え合える点はメリットですが、学習の進度を自分で設定するため、学力が高い子とそうでない子の差が開いてしまうのです。

また、自由進度学習では、子どもが「学習方法」「学習形態」「学習順序」などを自分で決めなくてはなりません。アドバイスがあるとはいえ、従来の授業に慣れている子どもは「自由にしていいよ」と言われると、どのように進めてよいか戸惑ってしまうでしょう。

全員が学習目標を達成できるように、教員はしっかりとサポートする必要があります。

教員の負担の増加

自由進度学習を導入すれば、教員の授業が楽になると思われがちです。しかし自由進度学習において、受け持つ児童生徒全員が学習目標を達成できるように導くのは、容易ではありません。

学習進度に合わせてアドバイスの内容もばらばらになるため、一斉授業の方が楽だったと感じる教員も少なくないようです。

近年は、学校における働き方改革が議論されています。小中学校の教員の残業時間の多さが目立つ中、自由進度学習が定着するまでは、教員の負担がさらに増える恐れがあるでしょう。

自由進度学習とGIGAスクール構想

自由進度学習を理解する上で欠かせないのが、「GIGAスクール構想」です。2019年に文部科学省が提唱した取り組みで、「GIGA(ギガ)」は「Global and Innovation Gateway for All(全ての人にグローバルで革新的な入り口を)」を意味します。構想の内容と自由進度学習との関係性を見ていきましょう。

GIGAスクール構想って何?

GIGAスクール構想は、最先端のICTを教育現場に導入し、公正に個別最適化された教育環境を整備するプランです。ICT(Information and Communication Technology)とは、デジタル端末や高速ネットワークなどの「情報通信技術」を指します。

実際の教育現場には、日本語指導が必要な子どもや集団行動が困難な子ども、特異な能力を持った子どもなどがいます。こうした多様な子どもたちを誰一人取り残さないためには、ICTの導入が不可欠と考えられているのです。

日本が培ってきた教育実践と最先端のICTを組み合わせれば、子どもの能力を最大限に引き出せる可能性があるでしょう。

出典:GIGA スクール構想の実現へPDF2、3|文部科学省

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ICTの導入で学びが充実する

一部の学校では、ICTの導入がスタートしています。ICTは自由進度学習との相性が良く、個別最適化された教育環境をスピーディーに構築できるのが特徴です。学びの内容が充実するだけでなく、教員の負担軽減にもつながるでしょう。

1人1台の端末を配布して、クラウド型の「Web授業システム」を活用すれば、教員と児童生徒の「1対1の関係性」が容易につくれます。教員は相手の理解度やつまずきをリアルタイムに把握でき、柔軟な対応が可能です。

さらにシステムの設定によっては、子ども同士の意見交換もできます。一斉授業では、引っ込み思案な子は意見を言えずに終わるケースが多いですが、システムを活用すれば、自分から発信する機会が増えるかもしれません。

自由進度学習の目的とメリットを理解しよう

日本の学校教育で最も一般的な学習形態は、一斉授業です。これまでは、教員が考えた学習内容にクラス全員が従うのが当たり前と考えられてきましたが、近年は自由進度学習による個別最適化が注目されています。

自由進度学習は、子どもが自分で学習の進度を決められるのが特徴です。教員の業務負荷の増大が懸念されるものの、多様な子どもたちを誰一人取り残さないためには、教育を改革していく必要があります。子どもを持つ親として、自由進度学習の目的とメリットを理解しましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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