高等学校制度の「定時制」「通信制」とは?
日本の高等学校制度には、全日制のほかに「定時制」と「通信制」があり、どちらを選んでも高等学校卒業資格(高卒資格)を取得できます。それぞれが設けられた理由や、全日制との違いを確認しましょう。
全日制以外の教育課程
定時制・通信制とは、全日制以外の教育課程を指します。日本の高等学校には、以下の課程が置かれており、進路は生徒が自由に決められます。
●全日制:平日の昼間に授業を行う
●定時制:夜間や特別な時間・時期に授業を行う
●通信制:通信で教育を行う
2023年度の学校基本調査によると、全国の高等学校のうち、全日制は4,170校、定時制は173校、併置は448校です。修業年限別通信制を置く学校数は、修業年限3年が256校、4年以上が67校でした。
定時制と通信制が設けられた背景
定時制・通信制がスタートしたのは、今から70年以上前の1948年です。戦後の復興期は、就労で全日制高校に通えない青少年が多く、勤労青少年に後期中等教育の機会を提供する目的で教育制度が整備されました。
勤労青少年が減少した現代、定時制・通信制には、中途退学経験者・不登校経験者・過去に高等学校教育を受ける機会がなかった人・外国にルーツを持つ人などが多く在籍しています。制度が発足した当初と違い、多様なニーズを持つ生徒を受け入れる場として機能しているのが現状です。
全日制との違い
全日制とは、平日の昼間に授業を行う課程を指します。学校にもよりますが、週当たりの授業時数は30単位時間(1単位時間=50分)が標準です。中学を卒業してすぐに入学する人が多く、自分と同じ世代の仲間に恵まれやすい傾向があります。
定時制・通信制は、生徒の年齢やバックグランドが多様です。自由度の高い学習環境を求めて入学する人もおり、さまざまな学びのニーズに対応できる指導方法が確立されているのが特徴です。どの教育課程を選んでも、「高校卒業」というゴールは同じであることを覚えておきましょう。
定時制高校の基礎知識
日本では、全日制の高校が圧倒的に多いため、定時制のイメージが湧かない人もいるでしょう。定時制の特徴やメリット、デメリットを解説します。
特徴と向いている人
定時制は全日制と同様に、学校に通って授業を受けるスタイルです。全日制は平日の昼間にしか授業を受けられませんが、定時制は学ぶ時間を選べます。
●夜間定時制:夜に授業をする
●昼間二部定時制:朝と昼に授業をする
●三部制:朝・昼・夜に授業をする
定時制に適しているのは、働きながら学びたい人です。就職のサポートが手厚いため、卒業後にすぐに就職したい人にも向いています。
単位制を採用している学校もありますが、全日制と同じ「学年制」で運営するところがほとんどです。学年制では、1年ごとに単位数が決められており、単位数が満たなければ、留年となります。
卒業までの年数と要件
定時制の主な卒業要件は、以下の通りです。
●在籍期間が3年以上であること
●必要な単位を取得していること
定時制に限らず、高等学校教育では、74単位以上を修得しなければ卒業ができません。定時制の1日の授業時間は4時間程度が多く、必要な単位を取得するまでにかかる期間は4年です。
ただし単位制を取り入れている学校の場合、本人が計画的に単位を取得できれば、3年間で卒業が可能です。
定時制高校のメリットとデメリット
定時制は1日当たりの授業時間が短く、仕事や趣味との両立が可能です。通学する時間帯を選べる点や、一緒に学ぶ仲間がいる点も大きなメリットでしょう。幅広い年齢層の友人ができ、視野が大きく広がる人もいます。
デメリットは、自由度が高い分、生徒の「不登校率」や「中退率」が高いことです。必ず卒業するという強い意思を持って勉強に励む必要があります。
また、就職を希望する人が多い分、進学のサポートが手薄な学校もあるようです。全日制に比べると授業の内容が易しいため、大学に進学したい人は、塾や予備校で受験対策をするのが望ましいでしょう。
通信制高校の基礎知識
近年は、学校生活にストレスを抱える子どもが増加傾向にあります。通信制は、不登校経験者の受け皿になっている面もあり、年々需要が高まっているのが実情です。通信制には、どのような特徴があるのでしょうか?
特徴と向いている人
通信制は、インターネット教材を中心とした自宅学習が基本です。「スクーリング」や合宿もありますが、毎日通学する必要はありません。
スクーリングとは、指定された場所で教師の面接指導を受けることです。レポートを見てもらったり、分からない箇所を質問したりできるため、自主学習上のさまざまな悩みが解消します。
通信制は近年、子どもの個性や能力、自主性を伸ばす場としても注目されています。特に、自分のペースで学びたい人や、働きながら高校卒業を目指したい人に向いているといえるでしょう。
卒業までの年数と要件
通信制では、決められた単位を修得すれば卒業が認められる「単位制」を採用しています。学年の区分はなく、留年の概念もありません。高校卒業の要件は以下の通りです。
●在籍期間が3年以上であること
●必要な単位を取得していること
●30単位以上の特別活動に参加していること
単位制では、学習の進度を生徒自身で決められるケースが多いものの、「早めに単位を取得して3年未満で卒業する」というやり方は認められていません。
単位を取得するには、決められたレポートの提出や定期的なスクーリングのほか、単位認定試験への合格が必要です。
通信制高校のメリットとデメリット
通信制のメリットは、マイペースに学習を進められる点です。留年がないため、自分のライフスタイルに合わせた学習計画を立てられます。仕事や趣味との両立ができれば、充実した日々を送れるでしょう。
一方で、自宅での学習は、インターネットや漫画・ゲームなどといった誘惑が多く、計画通りに学習が進まないケースが少なくありません。意志が弱い人や計画性がない人は、途中で挫折してしまう可能性があります。
全日制や定時制と比べ、仲間と接する機会が少ないのもデメリットです。一緒に切磋琢磨できる友人が欲しい人は、学校行事や部活動が盛んな学校を選びましょう。
定時制と通信制を比べてみよう!
定時制と通信制は、授業のスタイルが大きく異なります。学費や入学時期、試験の頻度などにも違いがあるため、進路選びの際は両者をよく比較しましょう。
1年間の学費
定時制・通信制には、公立と私立があります。どちらも私立のほうが学費が高く、公立の10倍近くになるケースも珍しくありません。
定時制の場合、公立は約3万円、私立は約35万円が相場でしょう。学費の主な内訳は、入学料・授業料・施設設備費です。このほかに、月5,000円ほどの給食費や、教科書代・交通費などがかかります。
通信制の場合、公立は約4万~6万円、私立は約25万円以上が相場です。私立は、コースや登校日数によって学費の変動が大きく、場合によっては100万円以上になることもあります。
入学時期や入学試験
定時制の入学時期は、4月が一般的です。学校にもよりますが、2月上旬に願書の受け付けがスタートし、2月下旬に入試を行います。
入試の内容は、「学力テスト」「調査書(内申書)」「面接・作文」です。学力テストは、国語・数学・英語の3教科が基本ですが、理科や社会を加える学校もあります。
通信制の入学時期は、4月と10月が多いでしょう。入学試験は、「面接・作文」「調査書(内申書)」が中心で、学力テストだけで合否を決める学校はほとんどありません。知識がどれだけ身に付いているかよりも、やる気が重視されます。
定期考査・試験の頻度
定時制では、1年間の課程を2学期または3学期に分けています。定期考査の頻度は、2学期制では年4回、3学期制では年5回が一般的でしょう。定期試験の結果に、普段の授業態度を評価した「平常点」を加えたものが生徒の成績となります。
単位制である通信制は、2学期制(前期・後期)が多く、年1~2回の「単位認定試験」を実施します。「単位がたった1回のテストで決まってしまう…」と不安に思う人もいますが、スクーリングやレポート課題をしっかりとこなしていれば、それほど難しさを感じないようです。
定時制と通信制に関するQ&A
転入・編入の可否や学費の補助制度など、定時制・通信制に関するQ&Aをまとめました。気になる点や不明点があれば、各学校に直接問い合わせることをおすすめします。
ほかの学校への転入・編入はできる?
転入は転校と同義で、在学中の生徒が高校を辞めずに、他の学校に入学することです。編入は、高校を中退した上で、他の学校に入り直すことを指します。
定時制の転入・編入は、学校で欠員が出ているときのみ可能です。転入の場合は、「保護者の転勤が理由である」「学校のある地域に居住している」などの条件を満たさなければ、認めてもらえない可能性が高いでしょう。
通信制の転入・編入は、定時制よりも容易です。受け入れの時期は、学期の初めである4月や10月が多いですが、年間を通して申し込みができる学校もあります。
学費を補助してくれる制度はある?
学費の工面が難しいときは、国の制度を活用しましょう。日本には、以下のような補助制度があり、条件を満たせば、支援金や給付金を受け取れます。
●高等学校等就学支援金制度:年収目安が910万円未満の世帯で、高校を卒業・修了しておらず、高校在籍期間が36カ月未満の生徒が対象
●高校生等奨学給付金:生活保護受給世帯や非課税世帯の生徒が対象
●高校等で学び直す者に対する修学支援:年収目安が910万円未満の世帯で、高校などを中途退学した者が対象
全国の約8割の生徒が利用しているのが、「高等学校等就学支援金制度」です。授業料の一部または全部を支給するもので、支給額は世帯年収や通う学校に応じて変わります。貸し付けではないため、返済の必要はありません。
定時制と通信制の特徴と違いを押さえよう
日本の高等学校制度には、全日制・定時制・通信制の三つの教育課程があります。全国的に見ると全日制の高校が圧倒的に多い一方で、近年は定時制や通信制を選ぶ人も増えています。生き方や価値観の多様化が進む中、全日制以外の選択肢が珍しいものではなくなる日も近いかもしれません。
それぞれの課程には、メリット・デメリットがあり、かかる費用も異なります。どの学校を選ぶかによって、出会う人や得られる経験も変わってくるため、子どもとよく話し合い、後悔のない進路選択をすることが重要です。
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構成・文/HugKum編集部
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