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不登校なのに「小幡先生の子ども」というのがつらい
――不登校になったとき、パパママが心配するのは、本人の心理や体調はもちろん「勉強、どうなるんだろう」も大きいのではないでしょうか。
そうですね。一般的にもそうですし、うちも同じでした。そして、親御さんだけでなく、本人も「自分は勉強が遅れるのではないか」と密かに心配しています。
でも、自分ではどうにもならない部分もあるんですよね。僕は得意なことと不得意なことが極端で、運動が苦手で体育の時間がすごくいやだった。勉強のほうも、この科目は好きだけれど、これはキライで頭に入ってこない、と教科によって差が出てしまって。好きな科目だけ一生懸命にやってもいい、というのならいいんだけれど、学校というのはそうじゃなくて、苦手を伸ばす、という考え方でしょ。それが僕にはどうにも合わない。それで学校全体が苦手になり、学校での勉強の機会を失うわけです。
小学校でポジションを取れる子っていうのは、勉強ができるか、スポーツができるか、でしょ。自分はぜんぜんイケてないんです。勉強しなきゃ、っていう思いはあるけれど、うまくいかない。
親が教師だったので、「小幡先生の子ども」っていうふうに認識されるのもつらかった。先生の子なんだから、ましてうちの父は剣道の全国大会で優勝もしているんで、勉強もスポーツもできてあたりまえ、というプレッシャーがすごくあって。僕的にはけっこうがんばったと思っても、周囲の期待値がすごく高い。直接言われたわけではないけれど、そういう無言のプレッシャーはいつも感じていました。
不登校中なのに「囲碁大会出場」と学校に貼り出された経験
――さまざまな葛藤を経て、小幡さんはフリースクールに行くのですよね。フリースクールは文部科学省の学習指導要領をこなす、という感じではないから、自由度は高かったのでは?
好きなことを中心にできるところだし、不登校の子が集まるところで、ようやく「居場所を見つけた」と思え、元気になりました。
不登校になってから、僕はゲームにはまっていたので、ゲームはすごくうまくなった。中学になると大会に出るようになるんですが、ひとりで電車に乗って地元の和歌山から大阪に出て行ったり、行動範囲も広がりましたね。
あるゲームの大会に行ったら、たまたま同級生がいたんですが、そのときは自分のゲームの力に自信があったから、「学校に行っていない、勉強していない」といううしろめたさは何もなかったですね。「あ、あいついるわ」くらいの感じでした。自信と行動力がついて、いろんなことに前向きに取り組めるようになりました。
僕、中学もほとんど行っていないのですが、部活だけは行っていたんです。フリースクールで囲碁にハマって、囲碁部に入りたくて。学校側もそれでいいっていうことだったので、囲碁部にはほぼ毎日行っていました。全国大会にも出たんですよ。すると、学校に「小幡和輝くん、全国大会出場おめでとう」とか貼り出されるんです。それはもう、すごい優越感ありましたね。学校の授業は3年間で2,3回しか出なかったですが、貼り出されてるわ、みたいな(笑)。
まったく勉強せず受けた5教科テストが約300点。自分は頭が悪くないかも!?
――その中学2,3回の出席は入学当初だけ、ということですか?
入学当初から行っていなかったのですが、学校から、「テストを1回受けないと成績がつかないから」と、中間テストを受けるように言われたんです。成績がつかないと卒業もしにくいのかな、と思って、しかたなく受けることにして。そのためには多少授業に出たほうがいいかなと思って行った、という感じですね。
で、その中間試験の結果はトータル300点くらいでした。5教科ですからね、まあ高くはないですけれど、赤点はなかった。僕の感覚としては、「ガッカリ」ではなくて「意外とできるわ!」でした。小学校2年からほぼ学校に行っていなくても、平均60点ほどか、と。
思えば、マンガが好きだったから字も読めたし、漢字も読めた。『信長の野望』っていうゲームをきっかけに日本文化とか歴史とかもめちゃくちゃ詳しくなったし、小さい頃からNHKの朝の教育番組は全部見ていました。みんなが学校に行っている時間にやっているやつですね。『クイズヘキサゴン』みたいなクイズ番組も大好きで、毎週見ていたから。勉強がキライだったわけでもないんですよね。
で、中学の勉強って、こんなふつうの日常生活を送っていれば、これぐらいの点数は取れるのかって。学校にほとんど行っていない僕よりも低い点数の子がいる。中学の勉強ってこんなものなのかと、ちょっとびっくりもしましたね。「僕、これでいいや」と思ったりしていました。
定時制高校に通ったらなんと評定は「オール5」。推薦に超有利!
――高校は定時制だったのですね。そして、その後、国立大学に入学。本当にすごいですね。
高校は、フリースクールの先輩たちが行っていたのが定時制だったので、行った、という感じです。大学受験に関しては、定時制だったというのが、たまたま裏技になりました(笑)。
定時制高校の勉強は楽なんですよ。高校の最後のほうの授業でもだいたい中学2、3年生の教科書に出ていることをやっている感じです。それで、僕の場合、評定上でオール5になったんです。有名進学校に僕が行っていたら、絶対にありえない評定です。それに、僕の行っていた定時制高校は、授業に全部出席すれば、それだけで評点が3.5を超えます。評定が3.5を超えれば推薦で出願できる大学は多いので、期待が持てますよ。
そして、多くの場合、推薦入学は、書類審査が通れば、あとは面接だけ。受験勉強はしなくていい。僕の場合は、「なぜこの大学で学びたいのか」という小論文を書くのが推薦の試験だったのですが、それと面接を含め、主席で入学しました。
ね、不登校で8年間学校に行っていなくても、定時制高校でも、ちゃんと大学には入れるんです。しかも、入学してからも、そんなに困らなかった。僕は観光学部に進学したのですが、一般的な経済とか歴史とかの知識があれば、ぜんぜん困らなかった。大学では高校で勉強するような地理とか歴史の細かい部分は、授業ではまったく使わなかったです。
大学の勉強も難しくない。ただ英語はやっておけばよかった…
――では、大学の勉強についてはまったく困らなかったですか?
英語だけは大変でした。観光学部は、当然ですが、英語を使う機会が多く、「できてあたりまえ」の雰囲気があったので、焦りました。英語だけはやっておいたほうがよかったな、と後悔しました。社会人になっても、英語があまりできないのはちょっと残念です。
ただ、今も仕事で海外の人とメールで連絡を取ることがあるのですが、そんなときはパソコンの翻訳機能を使えばなんとかなるし、そうやって少しずつ勉強することで、英語が身についてくる部分もあって。しゃべることはできないけれど、英語の簡単な文章をやりとりするくらいであれば、なんとかできるようになりました。
「必要性」を自覚して勉強を始めれば身につく
――不登校で勉強が遅れてしまう、と心配しているパパママや本人にメッセージを送ってください。
なんとかなるぞ、学校は思っているよりちっちゃいぞ、と(笑)。
子どもにとって、学校はほぼ人生のすべてみたいな感じですが、大人になってみると、もっといろんな人間関係や社会勉強もたくさんある。具体的に学校で学んだことが将来すごく役に立ってっているかというと、そうでもないし。
ただ、これから人口が減るのは確実で、そうなると日本語を話せる人も少なくなるわけです。海外では英語を話す人も増え、日本人も確実に英語でコミュニケーションすることは増えそうだから、英語は学んだほうがいい。たとえばSNSで人気を取りたいなら、日本語で書くより英語で書いたほうが「いいね!」の数はグッと増えます。ビジネスだって、世界を相手にしたほうが、売上が上がります。プロゲーマーになりたいなら、日本では食っていけないから海外に出ることになるけれど、それなら英語が絶対必要だよ、とか。その子のやりたいことを実現するために必要な勉強を、必然性を持ってやっていくのがいいと思いますね。
僕も英語をがんばるので、みんなも目指しているものの実現のために、がんばりましょう(笑)。
「勉強が遅れるから」と学校に行くことを強制しないほうがいい
パパママの懸念事項である進学を、8年間の不登校の末にこんなに軽々と飛び越えてしまった小幡さんの発言と行動に驚きます。学校の勉強は1年ごとの積み重ねが大事で、だからこそ学校に行き続けてそこで勉強し続けないといけないのだ、という通念が、打ち崩されたような気さえします。「勉強が遅れるから」と無理矢理学校に行かせようとするのは、本当にやめたほうがよさそうだ、と考えさせられます。
とはいえ、「学ぶ」ことの大切さを、小幡さんは教えてくれます。やりたいことを実現するために必要な学力がある、とその子が痛感することこそが、勉強のモチベーションを上げる秘訣なのでしょう。「勉強しなさい!」と叫び続けるより、本人のやりたいことを認め、応援することで、本人が自然に学びに向かって行けるようになればうれしいですね。
小幡和輝(おばた かずき)さん
1994年、和歌山県生まれ。約10年間の不登校を経験。不登校中のゲームトータルのプレイ時間は30000時間を超える。定時制高校3年で起業。SNSのプロモーション企画やイベント事業などを行う。ダボス会議を運営する世界経済フォーラムより、世界の若手リーダー『GlobalShapers』に選出。2019年10月より、日本初、ゲームのオンライン家庭教師『ゲムトレ』を立ち上げ代表に。また、不登校の保護者・当人のコミュニティ、#不登校は不幸じゃない 発起人。著書に 『学校は行かなくてもいい 親子で読みたい「正しい不登校のやり方」』『ゲームは人生の役に立つ 生かすも殺すもあなた次第』(以上エッセンシャル出版社)『学校では教えてくれない 稼ぐ力の身につけ方』(小学館)など
取材・文/三輪 泉 撮影/黒石あみ