米国がウクライナへの支援を再開 打開策になるか?
ウクライナのゼレンスキー大統領が米国からの支援がなくなれば戦争に負けると嘆く中、米国の連邦議会上院は4月下旬、ウクライナやイスラエル、台湾への軍事支援を含む総額953億4000万ドル、日本円で14兆7000億円規模の予算案を可決しました。予算案は数ヶ月に及んでこう着状態が続いていましたが、これによって610億ドル、日本円で9.5兆円あまりがウクライナ支援に充てられることになり、既に米国は軍事支援を再開しています。米国の国防総省は5月10日、同予算成立後以降で3回目となる軍事支援を発表し、防空装備や携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」、ブラッドレー歩兵戦闘車など4億ドル、日本円で620億円相当の追加支援することを発表しました。
ウクライナ軍は 、ロシア軍を国境から追い出せる?
では、これによってウクライナ軍は勢いを取り戻し、ロシア軍をウクライナ国境から追い出すことができるのでしょうか。先に結論となりますが、今後も同じように米国がウクライナ支援を継続しても、今日のウクライナからロシア軍を完全撤退させることは極めて難しいのが現実です。ロシア軍がウクライナから撤退するのは、プーチン大統領がそういう決断を下す以外にシナリオはありませんが、そうすることは絶対にないでしょう。
プーチン大統領が第5期目も率いるロシア
通算5期目の政権運営を2030年まで担うことになったプーチン大統領は、4月に新たに15万人を追加動員する大統領令に署名し、今後夏にかけて一気にウクライナでの攻勢を強めていくことが計画されています。ロシアも追加動員に拍車を掛ける方針で、今後も一進一退の長期戦が続くことが予想されます。
ポイントは米大統領選
しかし、今後のポイントになるのはやはり米大統領選でしょう。プーチン大統領からすると、現時点でバイデンとトランプのどちらが勝利するかは不透明な状況なので、それまでの間にできるだけウクライナでの支配地域を拡大しておきたいはずです。トランプ氏が大統領になれば、その時点で双方に停戦に応じるよう圧力を掛けてくる可能性があります。
一方、今後ロシアが軍事的に劣勢に立たされるようになると、ロシア側が核を使用するリスクが高まることが懸念されます。これまでのプーチン大統領の発言や意思からは、「核は1つの脅しでしかないが、ロシアの存亡に関わる事態に陥ればその使用を躊躇しない」と判断できます。
今後の戦況ですが、米国による軍事支援でウクライナは何とか守り抜くことができるでしょうが、米国による積極的な支援がいつまで続くかは分かりません。ウクライナにとっては難しい状況が長期的に続くことは避けられないでしょう。
この記事のPOINT
- ①この4月に予算が可決し、米国からウクライナへ、日本円で9.5兆円あまりが支援に充てられることになった。
②プーチン大統領は、4月に新たに15万人を追加動員する大統領令に署名し、今後夏にかけて一気にウクライナでの攻勢を強めていく。 - ③この秋のバイデン氏とトランプ氏の米大統領選がウクライナとロシアの戦況に大きく影響する。
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。