【中学受験】保護者からの質問に、おおたとしまささんと『二月の勝者』作者・高瀬志帆さんが答えます!「中学受験を笑顔で終えるコツ」も!【オンライン対談レポート|後編】

2024年7月21日に開催されたオンラインイベント「中学受験を笑顔で終える方法」。書籍『「二月の笑者」になるために 名場面が教えてくれる中学受験必笑法』を出版された教育ジャーナリスト・おおたとしまささんと、ついに完結した漫画『二月の勝者』の作者・高瀬志帆さんが対談しました。
【後編】では視聴者からのQ&Aと「中学受験を笑顔で終えるコツ」をお届けします。

【前編】では第1部「お互いに聞きたいこと」、第2部「中学受験必笑法キーワード」についてレポートしました。【後編】では、イベント参加者からの質問におふたりが答えていきます。

ご参加のみなさんからのQ&A

参加者からの質問のほんの一部ですが、おふたりにご回答いただきました。

子どもへの声かけについて

-A:全く勉強しない子どもに対してどのような声かけをしますか?
-B:子どもが落ち込んでいるとき、前向きになれる声かけがあれば教えてください。

高瀬さん Aの質問に対する答えとして10集を持ってきたんですけど、武田くん親子というのが出てきまして。「(家で)全然勉強してないじゃんあいつ」ってお父さんがお母さんに言うんですよ。でもお母さんが「平日で4時間半、休日に8時間、ずっと塾で勉強しているんだけど、それでもしてないって言う?」って返すんです。目の前の子どもが勉強していないとイライラする。親としては当然だと思うんですが、見ていないところで勉強している時間のこともちょっと考えてあげると、気が紛れるかなと。帰ってきて「疲れた~」ってだらけているところしか見ていないから、「なんだこいつ」って思ってしまうんですよね。

おおたさん Aね、勉強させることが前提で質問されているんですが、させるための声かけって難しいんですよ。もし本人が、勉強しなきゃいけないってわかっているのに向き合えていないようなら、むしろ「大丈夫?」と話を聞いてあげてほしい。「君のことちゃんと見ているよ」というメッセージを伝えることが重要かなと。

似たことがBの方にも言えるんですが、どんな言葉をというよりは、コンビニで好きなケーキを買ってあげるといいんですよ。お父さんお母さん、ちゃんとわかっているからね、と。励ますより、今回頑張ったのに結果が出なくて悔しいんだね、と共感をしてあげたら嬉しいんじゃないかな。あまりコントロールしようとしない方がいいと思います。

高瀬さん 子どもの話を聞いて「辛かった」という言葉が出たら「辛かったんだね」、「テストなんかどうでもいい」って言ったら「どうでもいいんだね」と、子どもの言葉をいったん受け止めてあげるのがいいかなと思います。実行できるかどうかは…それこそ「狂気」が必要かなとは思いますが。

おおたさん こちらから声をかけるというより、話を聞く、ということが大事なんですよね。

もしも落ちたら

-A:全落ちという辛い経験をしたけど明るく楽しく過ごされているご家庭はありますか?
-B:受験がうまくいかなったとき、子どもの自尊心が低下しないか心配。どうケアすべき?

おおたさん 全落ちは辛いですよね。でも人生は続いていくし、子どもはたくましく生きていくんです。悔しく悲しい思いを糧にしてね。ただできるなら、これだけ受験校の選択肢の多い世の中なので、うまく全落ちを防ぐ戦略を練ってあげてほしい。これは子どもにはできないことなので、親御さんの頑張るところかなと。

高瀬さん そうですね。子どもが自主的に「中学受験したい」と言うケースは少ないと思うので、親が土俵に乗せた以上は、子どもが傷つかない安全網を考えてほしい。世間体とか、絶対にここより上がいい…という気持ちは置いておいて、偏差値表も見せなくていいので「なんだ受かったじゃない」という学校は必要かなと。私個人の考えですが、受かっても行かずに公立中を選択してもいいので、「合格したね。やったね」で終わらせる責任があるなと。

おおたさん Bの方は万が一とありますが、正直、万々歳で終わることの方が圧倒的に少ないので、どこかで必ず傷つくと思います。ただ先ほども言ったとおり、その傷って悪いことじゃない。「ミサンガ」のくだりで高瀬さんからレジリエンスという言葉も出ましたが、どのように乗り越えていくかを一緒に考えるのも親の役割かなと。12歳は、親が一緒にいてあげられるギリギリの年齢なので。

高瀬さん この「うまくいかなかった」というのが、何を指しているのかが大事な気がします。親が「うまくいかなかったな」と思ってしまうのはしょうがないんですが、そこはもう「狂気」で、親御さんが「うまくいった」と自分に思い込ませていくことが子どもの自尊心を守ることにつながる。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、親が「うまくいった!」って思えば、結果うまくいったことになる。それがまた12歳の受験なんだと思います。

おおたさん 親がまず笑顔でいてほしいですね。人生全般において、なかなかうまくやってるじゃないか、これでいいじゃないかって自分で思える、そういう姿勢を見せてあげられるかどうか。これもまた親の「狂気」が必要になるかもしれませんが。中学受験をそういう機会としても活用してもらえればなと。

参加者からの質問に互いの意見を交えつつ回答していくおおたさんと高瀬さん

学校選びについて

-子どもにとってのいい学校の見分け方がわかりません。説明会を聞いただけではわからないポイントはどのように知っていけばいいのでしょう。

おおたさん この自由と規律、スキル重視か価値観重視かというのは、もしかしたら僕の『中学受験「必笑法」』という本を読んでくださったのかな。どの学校も「うちは自由な学校です」って大体言うんですよ(笑)。でもやっぱりそこにはグラデーションがある。スキル重視というのは、例えばグローバル社会の中でどう勝ち残っていくかを教える…などで、価値観重視はどのように生きていくかを教えてくれる、でもそこにもグラデーションがあるよね、ということを本の中で言っているんです。

高瀬さん これって親子の価値観をどこに置くかで、見え方が全然違ってきますよね。例えばですけど、スティーブ・ジョブズのようなプレゼンスタイルの学校って結構ありますが、それを見て「現代的でいいよね!」と思うか、「もう少し情緒的に話してくれた方がいいよね」と思うか。

おおたさん まさに。その学校がどんなところかというのは、説明会に如実に表れると思います。

高瀬さん ただ、親の価値観だけで「いい」と決めて、子どもが嫌がっているのに「これからの時代は絶対にここだ!」と舵取りするのは避けてほしいですね。子どもの感覚も大事にしてほしい。なので、まずは親が見てここならお金を払ってOKという学校をいくつか絞った上で、子どもに全部見せて、どこが好きだったかを聞くのはいいかなと。

おおたさん たくさんの学校を見る中で、「あ、自分はこんな学校に惹かれるんだ」というのを発見しているんですよね。学校を査定してやろうというスタンスではなく、自分を知るために学校を見に行く、と思った方がうまくいくと思います。

中学受験する?しない?

-A:中学受験するかしないかの判断軸をどのように考えたらいいでしょうか。
-B:受験を諦めるとしたら、その基準とタイミングはどこになるでしょうか。

高瀬さん 言っていいですか? Aの方、これは『二月の勝者』全21集を読んで「うちはできる」と思うか「できない」と思うか! 手前味噌ですけど、結構いい判断基準かなと。「これを読んだから頑張れました」という感想をいただくこともあれば、「これを読んだ結果うちはやめました」という声もあるんです。かなり頑張って中学受験のシミュレーションになるようにも描いたので、ぜひ判断材料に使ってください。

おおたさん 「中学受験のメリットってなんでしょう」のような話って、結婚した方がいいでしょうかという話と似ているというか。Bの方も、離婚した方がいいでしょうかという話と同じで、あえて冷たい言い方をすれば、人に聞くな、というところに落ち着くんですよね。

高瀬さん Bについては、つぎ込んだ投資額を回収しないと気が済まないという心理に似ているというか。コンコルド効果ですよね。今までつぎ込んだお金や労力、本人の努力や苦労を考えると引くに引けない構造になっているので。連載中、多くの親御さんによく言われたのは「中学受験は乗ったら降りられないジェットコースター」だと。ただ、最初にそれを知っているかどうかで、降りられるとも思うんです。

おおたさん ジェットコースターは乗ったら乗りっぱなしですけど、中学受験はもう少し、シフトダウンできるんですよ。続けるにしても辞めるにしても、自分たちにとって大切なものは何か、犠牲にしちゃいけないものは何か、常に考えておいてほしい。これを犠牲にするくらいなら受験しなくていいや、と思える一線を用意しておくことが重要かなと。

親のメンタル面について

-A:穏やかに見守る姿勢でいられるコツを教えてください。
-B:モチベーションをあげる方法と家族のメンタル面について知りたいです。

おおたさん Aの方はキーワードのところでお話した「島津パパ」状態に近いですかね。

高瀬さん その不安は自分の中のどこにあるものなのかを考えてみてほしいなと思います。例えば「道筋がわからない不安」だったら、それこそ『二月の勝者』やいろんな中学受験本を利用して、この先どういうタイムラインで物事が進んでいくのか知るだけでも少し落ち着きますし。それでも違う不安が出てきた場合は、あらゆる周りの人…塾の先生たちも結構話を聞いてくれるので、協力してもらって、できれば子どもにぶつける前に和らげて。でもまあ、ぶつけちゃう気持ちもわかります。ぶつけちゃった自分はダメな親だ…と悪循環にハマりがちなので、自分は今不安なんだと自覚して自分に優しくしてあげてほしいです。

おおたさん だいたい不安になっている時というのは、自分の中の古傷が痛んでいる時なんですよね。なので、自分もそこそこやってるじゃん、頑張ってるじゃん、と自分を認めてあげるといいんじゃないかな。中学受験生の親の不安が膨らむことを「内なる魔物が暴れる」と書くことがあるんですが、その魔物を癒やしてあげて。それで、Bの方はどうでしょう。

高瀬さん まだ4年生ですからね。今から張り切りすぎても3年間もたないこともあるので…。個人的にキモは5年生だと思っていて。なので4年生のうちは「塾行っててえらいじゃん」くらいのテンションでやった方がいいかなと。

おおたさん モチベーションを上げるというよりは、まだ焦らなくて大丈夫だよ、と親御さんがもう少しおおらかに構えられるといいかなと思いますね。できることを褒めてあげる方がいい

高瀬さん そうですね。テスト受けに行ってすごいね、学校以外で45分も座って勉強してすごいね、とか4年生ならそれくらいでいいかなと。

おおたさん 4年生だからこそ、最初のうちはなかなかその境地になれないんですよね。中学受験が終わって振り返れば、高瀬さんのおっしゃっていることがよくわかるんですよ(笑)。やっぱりそうなるために、親も成長しないといけない。

高瀬さん 案外、周りの子もガツガツやっていないと思うので、わが子以外の子はちゃんと勉強している…というのは幻想だと思ってもらえると、ちょっといいかな。

第3部 中学受験を笑顔で終えるコツ

画像『「二月の笑者」になるために 名場面が教えてくれる中学受験必笑法』より

おおたさん このイベントのテーマが「中学受験を笑顔で終える方法」ということで、最後にまとめをしたいなと。

高瀬さん 中学受験生の親って、『二月の勝者』にも描いたんですが、だんだん誰にも相談できなくなっていくんですよ。視野がどんどん狭くなっていく。精神的に「受験がうまくいかなかったらもう終わりだ」のような追い込まれ方をしていく構造になってしまっているなと。だからみなさん、受験が終わると憑きものが取れたようになるんですよね。

おおたさん 僕も「終わってからの親のメンタル」が今いちばんの関心事で。中学受験って合否が出ておしまいじゃないな、と。結果がすべて出そろって、そこから自分たちのこの大冒険ってどういう意味があったんだろうというエピローグを書き始めることが、親の最後の仕事なんですよ。そこで「こういう視点から見ればハッピーエンドだよね」というエピローグを書き終わった時に、それがそのまま子どもの人生のプロローグとして繋がっていく。結果が出ておしまいではなく、ハッピーエンドのストーリーを書ききるまでが親の責任なんじゃないかなと思います。

「笑って終える」ということで言うと、12歳で本当に主体的に中学受験をする子どもってほぼいない。いや言いますよ? 「僕、塾に行きたいんだ。受験したい」って、とりあえず言葉の上では。けれど12歳の子どもってなんだかんだ親の笑顔が見たくて頑張っているんですよ。だから、もし思うような結果が出ない時に、不安やイラ立ちを感じると思うんですが、親を笑顔にできなくていちばんもどかしさを感じているのは子どもなんです。その気持ちをくんでほしい。逆に言えば、どんな結果になっても親が笑顔になれば、それが子どもにとってのサクラサク。最後は「狂気」で笑顔を見せてあげることが大事なんじゃないかなと。それさえできれば12歳の受験を笑顔で終えることができると僕は信じています。

『二月の勝者』と『「二月の笑者」になるために』にも悩みに寄り添うヒントがたくさん

高瀬さん あと、もし、それができなかったとしましょう。もし結果にずっと囚われていたり、子どもに優しくしたいのに許せない、この子のせいで私は…という気持ちになってしまったとしたら、それは恐らく親の心の方に傷があるので、自分のためにカウンセリングなどを検討してほしいなと。そういうところにアクセスするのも大変だとは思うんですが、恐らくそれはお子さんにつけられた傷じゃなくて、その方のどこかに根深く残っていた傷だと思うので。中学受験が失敗だったと何ヶ月も思うようだったら、ケアしないと。

おおたさん 今ちょうどHugKumさんで中学受験を終えたあとの心境について何組かの親御さんにインタビューしていて。そこで深い傷からなかなか回復できていない人の話を聞くと、必ずその方の親との葛藤が出てくるんですよ。自分自身の受験における辛さが消化できてなかったり。そのことを悪く捉えるのではなく、自分自身と向き合うチャンスをもらったと、いう風に思えるといいかなと。

高瀬さん そうですね。あと自分がこんなに傷ついているのに落ちた子ども本人がヘラヘラしていてムカつく…という気持ちも湧くと思うんですが、「こんなことを思う自分はダメだ」ではなくて、その方が癒されることが大事だと思います。

おおたさん あとは『二月の勝者』を読んでいただいて。本当にいろんな中学受験があるんだ、そして広い意味での通過点でしかないんだということが描かれているので…いい大学へ入るための通過点とかそんな狭いものではなく、もっともっと広い意味での通過点でしかないということが、これを読むとよくわかると思います。それが満足度の高い中学受験を終えるために有効なんじゃないかなと。

『「二月の笑者」になるために』も、笑う者とつけたのは、勝つか負けるかではなくみんなが笑える社会を作ろうよ、と。それが高瀬さんの分身としての黒木のメッセージだと思うし、僕も重ね重ね、中学受験を通じて最終的にそういう境地に至ってほしいと願っています。特に親がそこに至れたら、きっとどんな中学受験であってもそこに意味や意義を見いだすことができて、笑顔で終えられるんじゃないかなと思います。

【前編】では必笑法×『二月の勝者』キーワードについてトーク

おおたさんと高瀬さん、お互いに聞きたいこと、についても対談しています。こちらも必読です。

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©︎高瀬志帆/小学館「ビッグコミックスピリッツ」

おおたとしまささん プロフィール

教育ジャーナリスト

教育ジャーナリスト。リクルートでの雑誌編集を経て独立。数々の育児誌・教育誌の企画・編集に係わる。現在は教育に関する現場取材および執筆活動を精力的に行っており、緻密な取材、斬新な考察、明晰な筆致に定評がある。テレビ・ラジオなどへの出演や講演も多数。中高教員免許をもち、小学校教員や心理カウンセラーとしての経験もある。著書は『勇者たちの中学受験』『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『不登校でも学べる』など80冊以上。おおたとしまさオフィシャルサイト

高瀬志帆さん プロフィール

1995年デビュー。代表作に累計380万部突破、「第67回小学館漫画賞一般向け部門」を受賞した「二月の勝者絶対合格の教室」(小学館/週刊ビッグコミックスピリッツ連載)、「おとりよせ王子飯田好実」(コアミックス/コミックゼノン連載)ほか。

文・構成/HugKum編集部

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