思春期女子にママ友…脳科学者・中野信子先生に学ぶ「キレる人」との上手な付き合い方

”キレる”という感情は、人間にはそもそも備わっているもの。しかし、キレている人に振り回されるのも大変ですし、自分の辛い気持ちを相手に言うことができずにいるのもストレスが溜まります。どうすれば相手の怒りや感情に振り回されることなく、上手に自分の怒りの気持ちを発散させるような切り返し方ができるのでしょうか。脳科学者・中野信子さんの著書『キレる!』からキレる人との向き合い方を学びます。

身近にいるいる!【キレる人】との付き合い方

「思春期の息子が反抗的になってきた」「娘がいつも不機嫌で腫れものに触るよう…」家族やママ友といったごく身近にいるキレる人とうまく関わるにはどうしたらよいのでしょうか。近い存在だからこそ遠慮なく気持ちをぶつけてくるのかもしれませんが、キレられる側としては、毎日気を遣いすぎて疲弊してしまいますよね。上手く乗り切るヒントを著書の中から探ります。

case1:言葉も行動も荒っぽくなってきた「反抗期の男子」

思春期の男子は、闘いたくて仕方がない!

小さいころは優しくてママに甘えてばかりだった息子が反抗期に入り、突然攻撃的な態度をとり、びっくりするようなキツイ言葉で反論してくるようになると、お母さんもちょっと不安になりますよね。男子は特に戦闘ゲームが好きで、「死ねー!」などと言いながら友達とチームになって闘っていると、親御さんによっては、ゲームがそうした行動を誘発しているのではないかと考える方もいるでしょう。しかし考え方次第では、ゲームで闘争気分を発散し、現実の喧嘩になっていないのであれば、まだマシだと考えることもできるのではないでしょうか。

攻撃性の強い男性ホルモン”テストステロン”の影響

思春期の男子がイライラする、人や物に当たろうとする、これは攻撃性の強いテストステロンが急激に増えている時期だからかもしれません。10代前半の男子の脳と身体は、闘いたくてしょうがない状態になっているのです。

脳内ホルモンの影響で、自立を促されるということと戦闘に適した脳と身体になるという二つは、ヒトの成長、とりわけ男性の成長にとっては自然なことで、とても大事なことです。ただ今の世の中では、多くの家庭で自分の子どもは、静かで穏やかで優しい子に育ってほしいと理想を描きます。そうした価値観が主流になってくると、男子の成長段階で必要とされている性質と理想像がマッチしないことになり、男子にとっては息苦しい世界になってしまうかもしれません。

子どもの自立を信じ、背中で語る

この時期は男の子なら誰でもイライラしやすい時期で、孤独を好むようになるのです。いずれ落ち着いてくる時期がやってきます。今はそっとしておいてあげましょう。叱ったり説教したりするのは逆効果です。なぜなら言葉で伝えようとしても、その言葉を受け入れることをよしとしない気持ちが育っている時期だからです。

イライラする気持ちをどうやってコントロールするのかということを言葉ではなく、背中で見せるというのが最も効果的な方法なのだと思います。あれこれ手を貸そうとしたり、細かいことに口を出したりしないで、男の子の攻撃したい気持ちが間違った方向にいかないよう、目は離さず、しっかり見守ることが重要です。子どもを信じて見守り、自立を促すことが子どもの健全な成長につながるはずです。

case2:イライラして何を言っても反発する「思春期の女子」

「無理」「サイアク」は女性ホルモン”エストロゲン”の影響

思春期の女の子は、女性ホルモンである〝エストロゲン〟の分泌が活発になり、異質なものに対する拒否反応を示すようになり、好き嫌いがはっきりしてくることのある時期です。こちらがよかれと思うことでも少しでも意に沿わないと否定し、「イヤ」「無理」「サイアク」などと言って拒否することも多くなります。その言い方も家族に対してであればなおさらキツくなり、イライラした感情を直接ぶつけてくるため、保護者の方はかなり悩まれると思います。

娘と同じ目標を設定し、共闘する

思春期の女の子の場合は、保護者と一日時間を決めて一緒にゲームをすると、問題行動が軽減されるという報告があります。娘と一緒に親子でゲームをするなどということはあまりやらないご家庭も多いと思いますが、1時間なら1時間と時間を決め、一緒にゲームをしてみるのもよいかもしれません。これは、一緒にゲームをすることで、母を自分と違う存在として排除するのではなく、共に敵を倒す仲間になるという構造をつくるためのツールとしてゲームが機能するからです。

ゲームでなくても、共通の目標を設定して一緒に頑張るという方法は、男女問わず、思春期の子どもたちとの関係においては有効だと思います。ゲームでなくても、一緒に料理やファッションなどのコンテストに参加するのもよいかもしれません。

お父さんには辛い時期の場合も

かわいそうだなと思うのが、母娘の共闘の相手がお父さんになっているご家庭です。お父さんが、娘とお母さんの敵であるかのようにいじられたり、文句を言われたりするような場合です。お父さんには少しかわいそうな気もしますが、母娘の仲がこじれるよりよいという忍耐の必要な時期かもしれません。また、娘の反発行為も思春期の一時的なものだと考えて、大目に見ていただくのがよいかと思います。

case3:他人の子どもの才能を妬み、嫌がらせする「ママ友」

”妬み”からくる怒りはとても強い!

ママ友の中に攻撃的な人がいるととてもやっかいです。例えば、そのママ友の娘と同じバレエ教室に通わせている娘が、発表会でよい役をもらったことをきっかけに、何かにつけて陰口を言って困らせるようなケースです。〝妬み〟からくる怒りはとても強いものです。まず、なぜ妬みの感情が生まれるのか、脳科学の視点で考えてみましょう。

自分と同等の人が、自分よりも優れたものを手にするのが許せない

心理学的には、互いの関係において〝類似性〟と〝獲得可能性〟が高くなるときに、妬み感情が強まると言われています。〝類似性〟とは、性別や職種や趣味嗜好などが、どれくらい似通っているかを示す指標です。つまり自分と同じくらいの立場の人が、自分よりも優れたものを手に入れていると、より悔しいという感情が生まれやすいと言えます。

今回のケースは、娘さん同士が同性で、年齢も近い、さらに同じバレエ教室に通っているなど、多くの類似性があるため、妬みの感情が生まれやすいと言えるでしょう。〝獲得可能性〟とは、相手が持っているものに対して、自分もそれらが得られるのではないかという可能性のことです。例えば自分と同等、もしくは僅差だと思われる人が、自分が手に入れられないものを手に入れ、また自分が届かなかったレベルに相手が届いてしまったときに羨ましがり、妬みが生まれやすいのです。つまりママ友は、「うちの娘と実力がそれほど変わらないあの子が、なぜよい役に選ばれたのか納得がいかない」と思っている可能性が高いでしょう。相手の娘さんも手を伸ばせば届くはずのところにいたのに、先に届いた友達が憎いのです。

”妬み”を”憧れ”へと昇華させる!

対処法としては、〝獲得可能性〟と〝類似性〟を遠ざけるということが有効です。しかしながら、性別や年齢などは変えることができませんから〝類似性〟を下げることは難しいと言えます。この相談の場合は、〝獲得可能性〟を下げることが考えられます。

〝獲得可能性〟を下げるための方法は、相手の保護者に「あそこまではできない」「あの娘にはかなわない」と思わせることが最も効果的です。妬んでいたあちらの娘も母も圧倒的に努力していることを理解させ、あのレベルには届かないと思わせるのです。そうすれば、〝妬み〟の感情を〝憧れ〟に変えることもできます。バレエ教室が終わった後も、必死に自宅で練習をしている。両親を含め家族全員で動画サイトを見て研究したり、食事もアスリートによい食材を考えて工夫したりしているなど、やや大げさなくらいに努力していることをやんわり伝えるのです。

その他、中野さんの著書『キレる!』の中では最近よくニュースで耳にする”あおり運転””児童虐待””暴走老人””モンスターペアレント”など、【キレる!】にまつわるキーワードについても脳科学に基づいた分析をしています。”キレる人”に振り回されず賢く生きる術を学びたい方はぜひ読んでみてください。

【キレる!】技術は武器に。いじめ、パワハラ…理不尽な社会を生き抜くために~脳科学者 中野信子『キレる!』に学ぶサバイバル法1〜
あなたの周りにもいませんか?イライラする気持ちが抑えられずに衝動的な行動をとってしまって、周囲の人とトラブルを起こす人。逆に、自分の怒りの気...

著者:中野信子(なかの・のぶこ)

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。著書に『心がホッとするCDブック』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『脳内麻薬』(幻冬舎)『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

キレる!脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」

著/中野信子

本体780円+税

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