あなたの周りにもいませんか?イライラする気持ちが抑えられずに衝動的な行動をとってしまって、周囲の人とトラブルを起こす人。逆に、自分の怒りの気持ちを表せないために、仕事や人間関係で悩んでしまう人、もたくさんいるのではないでしょうか?
「一般的に”キレる”ことは”怒り”というとてもネガティブな感情によって引き起こされる問題行動だととらえられています。しかし怒りやイライラはヒトであれば、誰でも感じる自然な感情。自分を守るためにすでに脳に組み込まれたメカニズムでもあります」と語るのは、前著『ヒトは「いじめ」をやめられない』がベストセラーとなった脳科学者の中野信子さん。
脳科学の観点から、”キレる”という感情を分析した中野さんの新刊『キレる!』から、”キレる人”や”キレる自分”に振り回されずに賢く現代社会を生きるヒントを学びます。
都合のいい人にならないで
人は、相手が自分より”上”か”下”かでお互いの人間関係を決定することが多々あります。もし相手がこちらを”下”と見なしたとしたら、悪意がないにせよ、相手に軽んぜられたり見下されたり、さらには都合のいいように利用されることもあります。そんなとき、「怒り」を感じたにもかかわらず、その感情を抑え込んでしまう人もいます。自分が我慢すれば丸く収まると思う人も多いでしょう。しかしこのことが自分で自分を追い詰めてしまうことにもなるのです。
”キレ”なければ搾取される
自分が不利益を被っているとき、搾取されているとき、相手が圧力を加えてきたとき、それに対して怒りを感じるのであれば、どんなにキレることが嫌でも、また、慣れていなくても、自分の怒りをキレるという形で、はっきりと相手に示す必要があります。相手に悪意を持って不利益を与える人は、反撃をしてこない人を探し、その人を狙って攻撃しつづけてくるからです。
「良いキレ方」「悪いキレ方」
正当な怒りを持ち、そこで自分を守れるかどうかはとても重要なことです。「自分に対して不当なことを言ってくるのはおかしい」とキレる気持ちを持てるかどうか。”良いキレ方”と”惡いキレ方”があるとすれば、”良いキレ方”は正当な怒り、相手に強くこちらの気持ちや意思を伝えるためのものであり。”悪いキレ方”は自分本位の身勝手な怒りを相手にぶつけ散らすことです。”良いキレる”は自分を大事にするということの第一歩です。
言い返さない人はいじめの対象になりやすい
例えば、いじめの問題。最初は単なる〝いじり〟や〝からかい〟かもしれません。しかし、いじられたりしたときに、言い返す子と言い返さない子では、その後でどちらがいじめに発展する可能性があるでしょうか。
いじめの対象になりやすい人は、おとなしくて言い返さない人です。
最初はいじり行為でも、やった相手はやられた人の反応を見ています。反撃してこないと思うと、いじりやからかいはエスカレートし、やがてはいじめになっていきます。そして一度いじめが始まったら、それを止めることは非常に難しいのです。残念ながら子どもたちは、自らサバイバルをしなくてはならない社会・環境の中にいます。では、どうやって自分を守ったらよいのでしょうか。
学校生活をサバイブする、武器としての【キレる!】
学校という社会の中でサバイバルしていく武器の一つとして、上手に〝キレる〟ということを使ってほしいのです。ひたすら黙って耐えて、最後に自分の命を絶ってしまうよりも、はるかにキレたほうがよいはずです。
「バカ」や「チビ」と言われたときに、「お前も世界基準で見たらチビだろ」「燃費がよくていいだろ」などと軽妙な感じででも言い返す人はいじめられにくいのです。「確かにその通りだ」と思ったとしても、言い返さなければなりません。「確かにその通りだけど、お前に言われる筋合いねーよ」と言えるかが大事です。いじめられそうになったら、「それって犯罪だよ」と言うだけで、相手のその後の行動は、まったく変わってくるはずなのです。
【キレる!】ことで自分を守る
自分のことを不当に扱われたら、怒るべきです。もちろん問題は、それほど簡単ではないかもしれません。言い返したことでさらにいじめが激しくなるような場合は、絶対に逃げなくてはなりません。学校を休む、転校するといった方法も必要になるかもしれません。
例えば、自信のある人、気の強い人であれば、キレることもなく、相手を圧倒することもできるでしょう。でも、そうでないほとんどの人は、自分の主張や反論をうまく相手に伝えることができません。ですからキレるという、意識のアクセルを一気に踏み込むような行動が自分を守る術として必要なことなのです。
社会を生き抜くために【キレる!】スキルを身に付ける
サバイバルは子どもだけではありません。大人になってからも延々と続いていきます。
職場の上司の暴言やパワハラに耐えられず、精神を病んで会社を辞める。最悪の結末として、辞められずに自殺してしまう人について、「なぜそんな上司の言いなりになっているの?」と思う人もいるでしょう。でも、そういう人ほど真面目で、仕事熱心な人だったりします。そして、上司に反論や意見を言うことを憚ってしまうような気遣いの人でもあります。
気づいたときには、もはや手遅れになっているのです。思いやってくれる周囲の言葉も心に届かず、〝キレる〟が自分に向かってしまいます。最初の、まだ心が元気なうちに、その暴言に対してひと言言い返していれば、そこまで追い込まれることはなかったかもしれません。
日本人は”「キレ下手」が多い
人間関係をつくるのに、出会いの初めはとても肝心で、そのときに言い返せるのか、言い返せないのかがその後の関係に大きく影響します。 日本人の〝キレ〟下手は、教育にも原因があるかもしれません。学校で「すぐにキレたらいけない」と教えられ、その背景として、日本では「いい人は怒らない人」というイメージが強くあります。日本の学校では、話し言葉を学習しません。つまり、言葉を使ってどう自分の〝怒り〟を表現して抵抗するのかということも学ぶチャンスが少なくとも授業の中には皆無なのです。
「キレ上手」で賢く生きる!
テレビ文化人や政治、ビジネスの世界でも、自分のポジションを築き、成功している人は、怒らない人、キレない人ではなく、怒るべきとにきちんとキレることができる人です、上手にキレることで、多くの人の心をつかみ、自分の立場を手に入れています。つまり、キレると言う行為は、上手に使うことで、人間関係において自分の居場所を作り、成功するためには欠かせないコミュニケーションのスキルであると言えます。
〝感情的にキレる〟のではなく、自分の感情をきちんと表現し、〝守るためにキレる〟。子どもでも大人でも、それぞれの社会で生き抜き、サバイバルするためにも、〝キレるスキル〟を身に付けることの必要性に気づいてほしいと思うのです。
著者:中野信子(なかの・のぶこ)
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。著書に『心がホッとするCDブック』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『脳内麻薬』(幻冬舎)『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。
著/中野信子
本体780円+税