禅寺修行からの…塾&家庭教師 ダブル投資!? 入試まであと半年、母が下した最後の決断は…【シングルマザーの中学受験 奮闘記|全寮制中高一貫校までの道のり】

偏差値30台の小6息子が志望校に選んだのは、なんと偏差値65の中学校! しかし、やる気は続かず、ダラダラ生活に逆戻り。そんな息子を変えるため、母が頼ったのは“禅寺”!? 厳しい約束と試練を経て、息子は成長できるのか?
シングルマザーの葛藤と決断を描く感動の実話、第8話をお届けします!

【前回までの流れ】
●偏差値65の志望校が決まり、息子も一時はやる気を見せるものの、すぐに元のダラダラ生活に戻ってしまう
●そんな息子を変えるべく、母親は同僚の河田さんに生活指導を依頼することにするが…!?

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偏差値30台の小6男子が決めた志望校は、偏差値65… 無謀な挑戦を支えたのは昭和の教育法だった!?【シングルマザーの中学受験 奮闘記|全寮制中高一貫校までの道のり】

鉄拳家庭教師との熾烈な攻防〜運命の別れ道

河田さんと息子の間で取り交わされた約束は、以下の3つでした。

1. 朝6時には起きること。
2. 学校へ行く前に漢字の読み・書きをそれぞれ5問ずつ解くこと。
3. 前日の塾の小テストの間違った箇所を、なぜ間違ったか理解した上で復習すること。

さらに、朝6時に起きたことを証明するために、河田さんに電話をかけることも追加されました。

息子は「いつも起きるのは7時だから、6時は難しい」とゴネましたが、河田さんは「そんなんじゃ勉強ができないでしょ。君は志望校に入りたくないのか?」と言い放ちました。

息子は、仕方がないと思ったのか観念して「…じゃあ、頑張って起きるようにします。ママ、目覚まし時計をもう一つ買ってください」というのでした。

そして、翌日から約束はスタートすることに。一方で、私は(これで少しは生活習慣が改善して、学力もついてくるかも…?)と期待を寄せました。

約束破りの連続

初日は順調にスタート。息子は6時に起き、河田さんに電話をし、漢字の問題にも取り組みました。しかし、順調な日々は長くは続きませんでした。

10日ほど経った朝、河田さんから私の元に電話がかかってきました。

「清宮さん、息子さんから今朝は電話がありませんでした。何かあったんでしょうか?」

驚いて息子の部屋に行くと、彼はまだ布団の中でぐっすり寝ていました。

「ちょっと! 起きなさい! 河田さんに電話は?」と叩き起こすと、息子は寝ぼけ眼で「目覚まし時計が鳴らなかったんだ…」とつぶやきました。

「早く河田さんに電話をして謝りなさい」
息子は慌てて電話をかけ、「ごめんなさい、約束を破りました。二度とこんなことがないようにするので、許してください」と謝罪しました。
河田さんは厳しく「学校に遅れてでも、約束したことはやってください」と言い、その日は終わりました。

しかし、6時に起きるのは息子にとって辛かったようで、同じようなことが何度も何度も繰り返され、なかなか河田さんとの約束を守ることはできませんでした。

ある日のことです。息子は約束通り6時に河田さんに電話をしました。しかし、その後すぐにまた布団に潜り込み、二度寝をしてしまったのです。

6時15分ごろ、河田さんから私に電話がかかってきました。
「息子さん、今どんな様子ですか?」
「え? 電話してから勉強しているはずですが…」
河田さんは静かに言いました。「私との約束通り、勉強しているかどうか確認してもらえますか?」

不安になって息子の部屋へ行くと、布団をかぶって完全に寝ているではありませんか。
「ちょっと起きなさい! 何よ、勉強していると思ったら!」
私はすぐに河田さんに電話をし、「申し訳ございません。息子は寝ていました」と報告しました。

河田さんは「早朝ですが、今からお邪魔させていただきます」と言い、電話が切れました。

しっかりと自分を見つめる時間

「今からお母さんと君を連れて行きたいところがあるので、出かける準備をしてください」と、河田さんは静かな声で言いました。

息子はどこへ連れて行かれるのかわからずビクビクしながら、私と一緒に河田さんの車の後部座席に乗り込みました。約30分ほど走ると、車は大きなお寺の駐車場へ着きました。そこは、私も仕事でお世話になったことのある禅寺でした。

その禅寺の和尚は全国各地で講演活動を行い、有名企業の経営者も人生相談に訪れるほどの人物。河田さんが寺の玄関で「おはようございます」と挨拶すると、堂々たる体格の和尚が奥から出てきて、お腹まで染み渡るような声で「ああ、いらっしゃい。待ってたよ。奥へ入りなさい」と言い、広い本堂へ案内してくれました。

河田さんが和尚の前で深々と頭を下げ、これまでの経緯を説明すると、和尚は大きく分厚い手を息子の頭を鷲掴みにするかのように置き、ゆっくりと撫でながら、顔を覗き込んで語りかけました。

「そうか。君がやったことは、罪深いことなんだよ。そういうことを繰り返していると、やがては犯罪者になり、後悔することになるよ。仏教の世界では地獄に落ちることになる。君はそんな人間になりたいのか?」
息子は小さく首を振りました。

和尚は続けて、「2、3日寺に泊まって、自分を見つめてみてはどうかな?」と提案してくれました。

息子は慌てて「大丈夫です。心を入れ替えます。お母さんとおじさんをもう裏切ったりしません」と言いましたが、和尚はにっこりと笑ってこう答えました。
「人というのは、そんなに簡単には変われるものじゃない。変われるなら誰も苦労はしないんだよ。みんな変われないから、苦しんでいるんだ」

私のほうに顔を向けて、優しいまなざしで、「お母さんはどう思いますか?」と和尚。
私は間髪を入れず、「ぜひ、お願いいたします。私も一緒にお世話になりたいです」と言いました。

息子は(えっ、僕は嫌だ)と目で訴えてきましたが、息子の不安そうな気持ちに構うことなく、その日からお寺のお世話になることにしました。

坐禅

息子を寺に残し、私は一旦家に戻って、学校へ3日間の欠席を連絡。最低限の荷物を持って寺へ戻り、寺での生活がスタートしました。

早朝5時に起床し、境内を掃除してから座禅を組む生活。食事は精進料理で、派手さは一切ありません。息子は掃除を途中で辞めてしまいお坊さんに注意されたり、坐禅のときにはすぐに集中力が切れてしまい体を揺らすので、お坊さんから警策(座禅中に使われる細長い棒)で背中を叩かれたりしていました。

そんな様子を見るたび、私はまるで自分が叱られたり、警策で叩かれているような気持ちになり、かわいそうにも感じました。しかし、これが彼のためになると信じて見守りました。

息子の変化

2泊3日の寺での体験が終わると、息子の態度は明らかに変わりました。朝の行動が遅かったり、ダラダラした態度が見られたときに「またお寺に連れて行きましょうか?」とか「和尚にお話をしてもらいましょうか?」あるいは「もう一度、お寺で修行しますか?」などと私が言うと、息子はサッと行動するようになりました。

今振り返ると、和尚との出会いは息子にとって大きなターニングポイントだったと思います。もし、この寺での体験がなければ、志望校合格への道はさらに険しいものになっていたでしょう。

後日、と河田さんにお礼を伝えると、和尚は静かに微笑みながらこう言いました。
「困ったことがあったら、いつでも相談にいらっしゃい」

私にとっては、心の拠り所を得たようで、救われたような気持ちになりました。

2年半の学費を無駄にすべきか、それともさらに投資すべきか…

息子の生活態度は次第に改善されたものの、成績のほうは思うように上がりません。偏差値はようやく50に届くかどうか。河田さんとの朝の約束による成果か、国語と社会はなんとか平均点に届くくらいになりました。しかしながら、苦手意識を持っている算数と理科は依然として低迷していました。

受験まであと半年となった模擬試験の結果は、志望校への合格可能性が極めて低いというものでした。私は焦りから、「こんなんじゃ希望校に行けないわよ。本当に行きたいの?」とつい責めてしまいました。

「あなたが行きたい学校なのはわかるけど、このままじゃ難しいわ。どうしたいの?」

息子はしばらく黙っていましたが、意を決したように言いました。

「僕はS校にどうしても行きたい。Y君は家庭教師をつけてもらったんだって。他の友だちも家庭教師を頼んでいる子がいるよ。僕も家庭教師をつけてくれないかなぁ…?

「家庭教師ねぇ…」と半信半疑でしたが、息子が自分から勉強のことを提案するのは初めてのことでした。

高額な投資への迷いから家庭教師の費用を調べてみると、さまざまなコースがありましたが、実績のある先生にお願いするとなると半年で低く見積もっても100万円以上…。正直、家計には大きな負担です。今までの息子の行状を考えれば、家庭教師をつけたからといって成績が上がる保証はありません。

「どうしようか…」と悩みました。しかし、ここで投資を惜しんでは、これまでかけてきた時間や労力、お金がすべて無駄になる。さらに、息子の希望が叶えられなくなる可能性が高い。

そのことを考えて、意を決した私は、
「わかった。お母さんも頑張ってみる。一緒にやってみようか」
そう言うと、息子は少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに「ありがとう!」と言ってくれました。

私は、塾に加えて、家庭教師をつけることを決断しました。今まで2年半かけた時間と労力とお金が無駄になり、さらに追加した家庭教師代もすべて失う可能性もありましたが、息子の希望を叶えてやりたいとの思いから、できる限りのサポートをしようと心に決めたのです。

今回の学びと葛藤《まとめ》

●約束の重みを知ることで、子どもは大きく成長する
●将来の後悔を避けるためには、リスクを取る勇気も必要

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執筆/清宮ゆう子

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