AI時代こそ【調べる力】が肝に!「フェイクに騙されない」「ネットで調べるだけではダメ?」「情報のまとめ方は?」調べ学習や自由研究にも使える【調べる力】の育て方を大学教授に聞いた!

スマホひとつで何でも調べられる時代。小学生も、自由研究や調べ学習などではデジタル機器を使って調べる機会が多くあるでしょう。『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』の監修者である茂木秀昭先生は、今の時代だからこそ、知識を活用して課題や問題を解決する力がより求められるといいます。茂木先生に「調べる力」の身につけ方や、情報を活用する方法、家庭でできる習慣などを伺いました。

「調べる力」によって学びと人生の選択肢が広がる!

――なぜ今、「調べる力」が大切なのでしょうか?

茂木先生:少し前の時代までは、教育といえば「覚える」ということが中心でした。しかし、今はスマートフォンやタブレットといったデジタル機器が日常的に使える時代。知識はいつでも簡単に検索できるようになり、忘れたとしても調べ直せばすぐわかるようになりました。もちろん、知識を覚えることも大切ですが、その比重は確実に変化しています。今の学びは、「知らないことを自分で調べること」から始まるともいえるでしょう。

自分で調べて得た情報は、自分の判断や行動にも深く関わってきます。進学や就職といった大きな選択の場面でも、より多くの情報を持っていれば、納得のいく判断ができるはず。また、例えば、体調を崩したときに自分で調べることで、「こんな専門の先生がいる」「この症状は、こう対応すればいい」といった基本的な知識を得て、状況に柔軟に対応することもできます。知らなかったことがわかるようになると、不安も減り、自分で対応できる自信にもつながります。より多く知ることで、より人生が豊かになるといってもよいでしょう。

『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』より

例えばおいしいイチゴを食べたときに、「なんていう品種なのだろう」と思ったところから、どんどん調べていくと、「糖度」について知ることもあるでしょう。このようなことの繰り返しで、新たな知識が広がり、未知の領域に出会えるかもしれません。まずは興味があることを調べてみましょう。

フェイクニュースやフェイク動画に騙されないで! 情報の見極め方や活用法とは

『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』より

上のグラフを見ると、新聞やテレビなどの従来のメディアは比較的信用されていて、SNSなどのネットの情報はあまり信用できないと考える人が多いことがわかります。しかし、どの情報源も100%正しいということはありません。情報を無条件に信用せず、複数の情報源を調べて情報が正しいかどうか見極めることが大切です。

――インターネットは手軽に調べられるがゆえに、情報の見極め方が難しいです。

茂木先生:そうですね。今は情報が多すぎて、「何を選べばよいのかわからない」、「何を信じたらよいのかわからない」という状況になっています。また、先生から「○○について調べてみましょう」と言われたとき、とりあえずキーワードで検索することはできても、そこから先、どの情報を参考にし、どのように深掘りしていけばよいのかがわからない、という子どもたちも多いです。

もちろん、小学校の低学年などでは、まずはそういったプロセスに慣れることが大事でしょう。ただ、学年が上がってきたら、「なぜそれを調べるのか」という目的意識「具体的に何を調べてどうまとめていくのか」といった方向性を、しっかり持つ必要があります。

情報に振り回されたり、ただ鵜呑みにしてしまったりするのではなく、調べながら自分の考えを少しずつ整理していくことが大切です。調べる前に自分の意見や疑問を明確にしておき、そのうえで、専門家の意見やネット上の情報などを、自分の考えを補強する材料として使うというような姿勢も必要だと思います。これからは、自分の考えを持ちながら調べる姿勢を育てていくことが求められています。

『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』より

AI技術の進歩によって、フェイク画像やフェイク動画を見抜くのも難しくなっています。だからこそ、本物と偽物を見抜く力も重要です。上の4つの画像はすべてがフェイクです。このような画像や動画を見たときに、「これは本物?」と疑問を感じるための幅広い知識を持つことや、疑問を感じたらすぐに調べるという習慣が必要です。

インターネットだけでは知識が浅い場合も。用途に合わせて情報収集ツールの使い分けを

――今は学校の授業でもインターネットを使って調べることが多いようですが、それ以外に書籍や図鑑なども活用した方がよいでしょうか?

茂木先生:インターネットを情報を得る手段として活用するのはもちろんよいことですが、それだけに頼りきってしまうのは、やはり危うさがあります。本来、「情報」というのは、人が持っているものです。その人の経験や知識の中で、さまざまな情報が結びついていることもありますね。

『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』より

専門家や当事者に話を聞いたり、1冊の本をじっくり読んだりすることで、そのテーマについて体系的でまとまりのある知識を得ることができます。インターネットはどちらかというと、素早く情報を得るための道具のような存在です。もちろん、長文の記事や深い内容も探せばありますが、全体としては断片的な知識が多く、基礎的な知識を得るにとどまることが少なくありません。ですから、インターネットだけではなく複数の情報源を活用することが大切です。

――確かにネットの情報だけを見て、知ったつもりになっていることも多いかもしれません。

茂木先生:そうなんです。学生に何かの話をしたときに、「それ、知ってます」と言っていても、実は中身まではよく知らないというケースがよくあります。ですから、複数の情報源から調べることは大切ですし、その情報をアップデートしたり、それが本当に正しいのかどうか人と話したりするということも必要ですね。

調べたことの丸写しはNG! 自由研究に役立つ調べ方、まとめ方のコツ

――調べ学習や自由研究の際に、調べたことをそのまま写すだけになってしまうこともよくあるかと思います。情報を活用して、自分なりの学習としてまとめるにはどのようにするのがよいでしょうか。

茂木先生:調べ学習の初期段階では、与えられたテーマについて調べて発表すれば、ひとつの学習として成立します。しかし、学年が進んでくると、より発展的な視点が求められるようになります。例えば「郷土」について調べる場合、調べた情報をもとに、自分だったらどうするか、どのように郷土をよりよくできるかと考えられるとよいですね。

例えば、
単に歴史や特産品を調べるだけではなく、「郷土を活性化するにはどうしたらよいか」といった問題に目を向ける
自分なりの考えを深めていくことが重要になります。

ですから、小学校高学年くらいからは、「問題を見つけて、どう解決するか」を意識した調べ学習や発表活動を取り入れていくことが望ましいと考えます。ただ調べて終わるのではなく、「自分はどう考えるか」「自分なら何をするか」といった視点を持つこと。

例えば、
自分がその町の町長や市長になったつもりで、どんな政策を打ち出すかを想像してみる。
調べ学習を通して、そうした主体的な姿勢を育んでいくことは最終的に「問題解決力」へとつながっていく
と考えます。

さあ、自由研究を始めてみましょう!

――テーマの決まっていない自由研究の場合はまずどんなことから始めるのがよいですか。

茂木先生:まずは興味のあることを探すところから始めてください。先ほどお伝えした「問題解決」をひとつの視点として取り入れてみるのもおすすめです。

例えば、最近のニュースを見ると、「お米の価格が高騰している」「関税の問題が取り上げられている」といった問題が話題になっています。小学生には少し難しいかもしれません。しかし、こうした問題に対して、「なぜそんなことが起きているのか」「どうすれば解決できるのか」と親子で一緒に調べながら考えてみるというのもよいと思います。

また、野球好きな子であれば、例えば大谷翔平選手のことを調べてみるのはどうでしょうか。「いつから野球を始めたのか」「どんな努力をしてきたのか」「どんな考え方を持っているのか」といった視点で掘り下げてみてください。

――調べたことをわかりやすくまとめるためのポイントを教えてください。

茂木先生:構成としては「序論・本論・結論」という形にするとよいでしょう。序論では「なぜこのテーマを選んだのか」「どんな背景や問題意識があるのか」を書きます。そして、研究の中心となる本論には「わかったこと」を中心に、気づいたことやどのように調べたか、新たに生まれた疑問などをまとめます。そして結論では、調べてわかったことや今後どうしていきたいかなどを書きます。

『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』より

また、本論でテーマに関する問題点を挙げ、「問題 → 原因 → 解決策 → メリット」という一連の流れをとると、内容がぐっと伝わりやすくなります。

先ほど挙げた米不足をテーマにするのであれば、米不足によってどんな問題が起こっているのか
→その原因は何か
 →どうやったら解決できるのか
  →解決するとどんなメリットがあるのか

という流れです。少し難しく感じるかもしれませんが、小学校高学年ぐらいであれば十分に取り組める内容だと思います。

――調べると同時に自分の意見を入れていくということですね。

茂木先生:例えば 「日本でおいしいお米を安心して食べるにはどうしたらいいか」という問いに対して、「もっと自由にたくさんお米を作って、余った分は輸出する」といった意見が出てくるかもしれません。自分の意見を裏付けするような情報を取り入れながらまとめていくとよいでしょう。

家庭での習慣で「疑問力」を高めることが、調べるための原動力になる

――この本の中では「疑問力」が調べるための原動力になるとありました。身近な疑問に気づくための心がけがあれば教えてください。

茂木先生:小学校に上がる前の小さな子でも本当にいろいろなことに関心を持ち、次々に質問してきますよね。そのときに、親や周りの大人が「そんなこと知らなくていいのよ」と話を終わらせてしまうのではなく、できるかぎり丁寧に答えてあげることが大切です。つまり、子どもとの対話を大事にして、子どもを単に「子ども」として扱うのではなく、「小さな大人」として尊重する姿勢が必要だと感じます。

『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』より

私にも3歳の孫がいますが、たとえ知らない言葉があったとしても、大人同士の会話をよく聞いていて、意外と内容を理解していることに驚かされます。大人が思っている以上に、子どもは物事をよく見て、感じ取っているのです。だからこそ、「まだ早い」「難しいだろう」と決めつけず、あえて少し難しい話題でも問いかけてみる。そうした関わりのなかで、子どもの思考力や言葉の力も自然と育っていくはずです。

――家庭での関わりの中で、子どもの好奇心は伸ばすことができるということですね。

茂木先生:はいそうです。また、小さなうちから、いろいろな本を読む習慣や、本のある環境を作ってあげることも大事だと思いますね。子どもが成長して、物事を深く考えたり、人生に迷ったりしたときに本に助けられることもあるはずです。私自身も自分の人生に影響を与えてくれた本が何冊かあります。本を手掛かりに「他人の生き方について調べる」というのもよいのではないでしょうか。

『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』より

――他にも家庭でできることはありますか?

茂木先生:私は、考える力を養うにはディベートが有効だと考えています。簡単なテーマでしたら小学生でもできるので、家庭でもぜひ取り入れていただきたいです。

例えば初めてディベートをするなら……
「夏休みに行くのは山がいいか、海がいいか」 という、どちらにもそれぞれの魅力のあるものはどうでしょうか。

ディベートの良い点は、双方のよい面や悪い面の両方を見たりする訓練にもなるので、双方についてできるかぎり深く調べてみるのがよいでしょう。

まずは考えさせる訓練をして、その上で必要な情報を探していくということに慣れていくのがよいと思います。

――ありがとうございました。茂木先生が監修された書籍『こども調べ方教室 なぜ調べることが大切なのかがわかる本』は、調べ方のコツや気をつけなければいけない点、また調べた情報のまとめ方についてわかりやすく紹介されています。ぜひ親子で読んでみてくださいね。

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勉強でわからないことがあるとき、旅行で最適なルートを考えるとき、欲しいものを安く買える店を探すとき……
人生のさまざまな場面において「調べる」ことはかかせません。今では何かを調べるうえでネットが重要なツールになっていますが、ネットにはデマやウソも多く、ディープフェイクのような見分けづらいニセ情報も増えています。これからの時代は、情報の真偽を見抜く能力をより求められる社会になっていくはずです。

本書では、こうしたことをふまえながら、検索のときのちょっとした工夫やテクニックを紹介するほか、調べたことをだれかに伝えることで調べたことが整理される効果、ネット以外の新聞・書籍などの有用性、ネット偏重によって引き起こされる「フィルターバブル」の危険性など、さまざまな側面から「調べる」ことの大切さについて解説していきます。

お話をうかがったのは

茂木秀昭 都留文科大学文学部国際教育学科教授

1960 年群馬県太田市生まれ。慶応義塾大学文学部英米文学科卒業。コロンビア大学大学院修士課程修了。専門は異文化コミュニケーション。日本や欧米の言論風土及び文化とコミュニケーションに関する研究を進めている。KUEL、東西大学対抗などの英語ディベート全国大会やフジテレビ「ディベート」のグランド・チャンピオン大会等、数々の優勝経験があり、教育ディベートの啓蒙、普及活動をおこなっている。『60分」図解トレーニング ロジカル・シンキング』 (PHPビジネス新書ビジュアル)、『ビジネス・ディベート』『ロジカル・シンキング入門 (日経文庫 I 28)、『こどもロジカル思考』『こども問題解決教室』(カンゼン)ほか著書、監修書多数。

取材・文/平丸真梨子

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