リスキリングの意味と重要性
そもそもリスキリングとは何でしょうか? 単語の基本的な意味や、間違えやすい「リカレント教育」との違い、リスキリングが求められる背景を解説します。
リスキリングという学び直し
経済産業省によれば、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する・させること」です。
一般的にキャリアアップというと、今までと同じ職種・業種の延長線として昇進したり上の工程に関わったりすることをいいます。一方、リスキリングは、よりギャップの大きい異なる分野のスキルを身に付けることです。
AIの発達やグローバル化などで社会が急速に変化する中、市場の需要も大きく変わり、仕事を続けるためにはリスキリングがますます重要になっています。
リスキリングとリカレント教育の違い
リスキリングとリカレント教育は、目的や学ぶ範囲、学びのスタイルが違います。リカレント教育は、広く「学び直すこと」をいい、目的や学ぶ内容は人によってさまざまです。
それまで学んだ専門知識とは別の分野に挑戦したり趣味や個人的好奇心で学んだりすることも含みます。また、リカレント教育の場合、いったん仕事を辞めて学ぶというスタイルが前提にあります。
それに対して、リスキリングは仕事に必要な学び直しです。あくまでも、職業的に求められる大きな能力変化に対応するためのスキルアップです。仕事をしながらリスキリングする人も多いでしょう。
リスキリングが求められる背景
現在は、世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れや生成AIの発達によって、仕事に必要・不必要なスキルが変化しています。DXとはデジタル技術を活用して業務のプロセスや形態を効率化することです。
脱炭素化(グリーン・カーボンニュートラル化)の推進で、環境技術やサステナビリティの知識も求められるようになりました。
2022年に発表された経済産業省の「未来人材ビジョン」によれば、今後は人材の需要が伸びる職種と、雇用需要が落ち込む職種に大きく分かれるといいます。
AIには提供が難しいサービスや新技術の開発に関わる職は雇用が増加し、事務・販売業は雇用が減少する見込みです。大きなキャリア変更を迫られる人が増える中、リスキリングの必要性が高まっています。
リスキリングは企業にも個人にもメリットがある

リスキリングによる学び直しのメリットはどのようなものでしょうか? 企業と個人それぞれから見たメリットや、リスキリングに役立てられる助成金・補助金なども見ていきます。
企業におけるリスキリングのメリット
企業の中には、リスキリング向けの助成金・補助金を導入しているところもあります。
従業員がリスキリングに取り組むことは、将来に向けたDX化や業務変化に対応できる人材の育成、業務の効率化につながり、企業にとってもメリットがあるからです。主な助成金・補助金は以下の通りです。
●人材開発支援助成金(厚生労働省)
●IT導入補助金(独立行政法人中小企業基盤整備機構・TOPPAN株式会社)
●ものづくり補助金(全国中小企業団体中央会) など
もし働いているなら、自分の所属する企業が導入していないかチェックしてみましょう。就活や転職の予定があれば、導入企業を探すのも一つです。
出典:人材開発支援助成金|厚生労働省
:IT導入補助金|独立行政法人中小企業基盤整備機構・TOPPAN株式会社
:ものづくり補助金|全国中小企業団体中央会
個人におけるリスキリングのメリット
リスキリングは、個人にとってもメリットがあります。リスキリングによって将来性のあるスキルを身に付ければ、今の職場で仕事の幅を広げられます。
就活・転職するときも、需要の高いスキルを持っていれば就職先の選択肢が広がり、結果として収入アップにつながる可能性もあります。選択するスキルによってはキャリアアップ転職も可能です。
勤務先の企業にリスキリング向けの助成金・補助金が導入されていなくても、個人で受けられる給付金制度があります。活用すれば、経済的負担を軽くできます。
個人向けのリスキリングを援助する給付金

これからリスキリングをやってみようという人にとって、気になるものの一つは経済的負担かもしれません。個人向けのリスキリングを援助する主な給付金を紹介します。
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」では、スムーズな転職活動のため、リスキリング講座の費用援助を受けられます。援助内容は以下のように2段階です。
●リスキリング講座を終了:講座費用(税別)の約半分を援助する(40万円以内)
●リスキリング講座後に転職し、1年間勤務:講座費用(税別)の約1/5を援助する(16万円以内)
経済産業省が民間会社に業務委託しているもので、専門家へのキャリア相談・リスキリング・転職支援がセットになっています。
出典:リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業|経済産業省
教育訓練給付制度
「教育訓練給付制度」とは、厚生労働大臣が指定した教育訓練の費用が一部援助されるものです。教育訓練は専門レベルによって以下の3通りになります。
●専門実践教育訓練:最大で費用の80%を援助する(年間64万円まで)
●特定一般教育訓練:最大で費用500%を援助する(年間25万円まで)
●一般教育訓練:最大で費用の20%を援助する(年間10万円まで)
対象となるのは約1万7,000講座で、夜間や土日の講座があるため仕事と両立することもできます。詳しくは公式サイトで確認しましょう。
出典:教育訓練給付制度|厚生労働省
:教育訓練給付金のご案内|厚生労働省
求職者支援制度
「求職者支援制度」は、一定以下の収入の人が、月10万円の給付金と無料のスキルアップ講座を受けられます(テキスト代は除く)。一定以上の収入がある場合でも、無料講座だけを受けることが可能です。
<生活費10万円の受給条件>
●講座を受ける人が月収8万円以下
●講座を受ける人の世帯が月収30万円以下
●世帯の金融資産が300万円以下
●住所以外に土地や建物を持たない
●基本的に講座を休まない、仕方なく休む場合でも80%以上は出席する
主に転職や再就職を目指す人向けで、講座の受講と並行してハローワークが求職活動をサポートします。詳しい内容はハローワークでチェックしましょう。
母子(父子)家庭自立支援給付金
「母子(父子)家庭自立支援給付金」は、ひとり親家庭が経済的に自立できるように支援するものです。給付金には以下の2種類があります。
<自立支援教育訓練給付金>
●対象となる講座を受けた後、基本は費用の60%を支援
<高等職業訓練促進給付金>
●訓練中は月額10万円(訓練最後の1年間は月4万円アップ)
●訓練後に5万円
高等職業訓練促進給付金は、児童扶養手当の支給条件を満たすような低収入の人向けです。そのため、住民税を払える程度なら給付額も減額されます。
資格内容などは公式サイトで調べましょう。申し込みや質問は、各自治体で受け付けています。
出典:母子家庭自立支援給付金及び父子家庭自立支援給付金事業について|こども家庭庁
:高等職業訓練促進給付金のご案内|こども家庭庁
できる仕事の幅をリスキリングで広げよう
DX化やAIの進化などが重なり、今後は多くの仕事がコンピュータシステムやAI、ロボットなどに取って代わられるといわれています。
特に、事務や販売の分野では雇用需要が大きく落ち込み、情報処理や通信技術者、新技術の開発などは増加するようです。
リスキリングによって、仕事上の大幅なスキル変化やキャリア変更に対応していくことが今後ますます重要になっていきます。リスキリングに取り組む場合は、自分に適した助成金や補助金を探して活用しましょう。
こちらの記事もおすすめ
構成・文/HugKum編集部

