人間関係も“読解力”しだい? 中学受験の最前線で“驚異の合格率”を誇る β(ベータ)国語教室・善方威先生が語る「読解力=生き抜く力」とは

「読解力」と聞くと、国語のテストや入試対策を思い浮かべる方が多いかもしれません。でも、ベストセラー『超読解力』(かんき出版)、『マンガでわかる!読解力を10日で上げる方法』(あさ出版)の著者であり、中学受験で驚異的な合格率を誇るβ(ベータ)国語教室を主宰する善方威(ぜんぽう・たけし)先生は、「読解力は“生き抜く力”」だと言います。読解力は、人生のあらゆる場面を支える土台になる。そんな目から鱗の読解力の“真の価値”について、じっくりうかがいました。

読解力は「人生をおいしくする」力

「情報摂取量」が上がれば生きやすくなる

― テストや入試のためだけでなく、読解力は“生き抜く力”になるとうかがいました。

善方先生:読解力があると情報摂取力が上がります。つまり、世界がどうなっているのか、人が何を言おうとしているのかを、正しく受け取れるようになる。そして、後述する、読解力の要素である背景知識があれば、コミュニケーション力がアップして人間関係で嫌なことが起きる可能性が大幅に減ります。それだけで、もう生きる力がグッと上がる。人生が“超おいしく”なります。

読解力がコミュニケーション力につながるというのは、まさにこの「正しく受け取れるかどうか」が決定的です。読解力とは、単純に字面を追う力ではなく、背景や意図まで理解する力。そこまで膨らませていくことで、初めて“実質的な読解力”になるんです。

情報を正しく受け取れなければ、誤解や衝突を招く

― 「情報を正しく受け取る力」が、どうしてそこまで大事なんでしょうか?

善方先生:情報を誤って受け取ると、判断ミスや誤解につながるからです。たとえば誰かとの会話で、「言葉の裏にある意図」や「その人の立場」を読み取れないと、相手を傷つけてしまったり、無用な衝突が起きてしまったりします。

物語を読み慣れている子や、背景知識を豊富に持っている子は、登場人物の立場や状況を自然に読み取れるようになる。すると現実の人間関係でも、相手の気持ちに気づきやすくなってくる。共感力や空気を読む力もついてくるので、人間関係のトラブルも減っていくのです。

どんな場面でも「読解力の効き目」は発揮される

― 日常でも、そうした“読解力”が問われる場面は多いのでしょうか?

善方先生:そうですね。高学歴な人でも、「入院中の人にメッセージを送ったのに返事がない」と怒ってしまう人がいます。でも、入院中の人からすれば、元気な人の近況なんて正直しんどい。そういう状況を想像して、「今この言葉はふさわしいか?」と考えられることが、まさに読解力の“効き目”なんです。

読解力とはどんな力?

読解力は「事実」と「背景」を理解する力

― そもそも「読解力」とは、どのような力を指しているのでしょうか?

善方先生:読解力には、大きく分けて2つの側面があります。ひとつは「事実関係を正しく読み取る力」、もうひとつは「背景知識を使って読み解く力」です。

事実関係を読み取る力―主語・述語・因果を正確に理解する

―まず「事実関係を読み取る力」について教えてください。

善方先生:主語と述語の対応、修飾語と被修飾語の関係、指示語が何を指しているのか、接続語がどのような関係を示すのか、といった文法的な仕組みを理解する力です。因果関係を見抜く力もここに含まれます。

「先生が厳しい口調になったのは、時間を守らなかったからだ」という文があったとします。このとき、「なぜ先生が厳しい口調になったのか?」正しく理解できなければ、「先生は怖い人だ」とだけ受け取ってしまうかもしれません。そうすると、自分の行動を省みる機会を逃してしまいます。

― 確かに、「なんとなく読んでいる」だけでは、因果まで意識が届かないこともありますね。

善方先生:そうなんです。こうした基本は本来、学校や塾である程度教えられていなければならないのですが、主語・述語や接続語、指示語などの用法について、正しく判断するための“共通ルール”が、教育現場でもまだ十分には整備されていません。そのため、子どもたちは「わかった気になっている」ことが多く、実際には正しく使いこなせていないケースが多いのです。

背景を読み解く力―世界観・テーマ・構造を理解する

― もうひとつの「背景知識を使って読み解く力」についても教えてください。

善方先生:単なる語彙の豊富さだけではなく、文章の前提となっている世界観や構造、テーマを理解する力です。読解には不可欠ですね。論説文なら、「理性と感情」「自己主張の文化と協調の文化」「言語の構造」が頻出です。

実際、東京大学の現代文や難関中学の入試問題の多くも、こうしたテーマに基づいた文章です。大学受験の定番参考書『現代文読解力の開発講座』でも、11問中9問がこれらに関わる内容でした。

― 知識のストックがないと、読み取りが浅くなるのですね。

善方先生:そうです。物語文でも同様に、前提となる“背景知識”が理解できているかどうかで、読解の深さがまったく変わります。

「成長の物語」、「ビンボースペシャル(登場人物に負の面がある物語)」、「愛の物語(特に親の愛)」、「お金スペシャル(経済に関する物語)」、「ラブラブスペシャル(恋愛感情)」の5つは中学受験で頻出する物語の型ですが、これらを理解していると、登場人物の気持ちや行動の背景が見えてきて、「この人はなぜこういう選択をしたのか」を深く読み取めるようになります。つまり、表面の言葉だけでなく、その裏にある構造や背景まで見えてくるようになります。

*   *   *

読解力とは、単に「文章を読む力」ではなく、事実を正しくとらえ、背景まで読み解く“生き抜く力”だということが見えてきました。

後編では、「読書好き=読解力が高い」って本当? 家庭でできる読解力の育て方や、夏休みに親子で取り組める実践法まで、善方先生にさらに詳しくうかがっていきます。

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お話を聞いたのは

善方威(ぜんぽうたけし) 中学受験国語塾 β(ベータ)国語教室代表(経営者、指導責任者)

早稲田大学法学部卒。法律の論理的読解と国語問題の構造的分析を結びつけた独自の指導法を確立し、1994年に日本初の中学受験国語専門塾「β(ベータ)国語教室」を文京区千駄木に開設。現在は都内5教室(千駄木・本駒込・南青山・白金高輪・お茶の水)とオンライン校を展開し、講師約20名、受講生約100名を指導。25年以上にわたり、開成・桜蔭・麻布など最難関中高から中堅校まで毎年驚異的な合格実績を誇る。著書に『全教科対応! 読める・わかる・解ける 超読解力』『全試験対応! わかる・書ける・受かる 超思考力』『超読解力ドリル』(かんき出版)、『マンガでわかる!読解力を10日で上げる方法』(あさ出版)などがある。

取材・文/黒澤真紀

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