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「猫ひっかき病」って?
猫ひっかき病とは、その名の通り、人が猫にひっかかれたり、かまれたりすることで、菌に感染して発症する感染症の一種です。「バルトネラ ・ヘンセレ」という菌に感染することから、「バルトネラ ・ヘンセレ感染症」とも呼ばれています。
「猫」と名がついていますが、相手が犬でも同様に感染することがありますし、ただ触れ合っただけで感染することもあります。また猫や犬を介さず、ノミから感染した例もあります。
感染経路としては、まず感染猫の血液(赤血球)内にバルトネラ ・ヘンセレが存在します。菌の運び屋(ベクター)であるネコノミがこの猫に寄生し、血を吸うと、ノミの体内で増殖し、菌を含んだフンが体表面上に排泄されます。猫のグルーミング(毛づくろい)により、菌は猫のツメや口腔内にも付着します。このような状態の猫にひっかかれたり、かまれたりすると、傷口から菌が侵入し、感染します。
「猫ひっかき病」の症状
猫ひっかき病の症状は、一般的に、リンパ節の腫れが6~12週間続き、発熱・悪寒・倦怠感を伴うのが特徴です。猫にひっかかれた、または、かまれた後、1~2週間程度で症状が出て、腫れは受傷部位のすぐ近くのリンパ節に見られるのが一般的です。
また非定型例として、原因不明の発熱や視神経網膜炎、肝脾肉芽腫、急性脳症など重症で全身性感染を伴うことがあります。

秋から冬、西日本で感染報告が多い
続いて、猫ひっかき病の感染報告が多い時期と地域の研究結果をご紹介します。
感染報告が多い時期は「秋から冬」
感染報告は一年中認められますが、特に毎年9月頃~1月頃、つまり秋から冬にかけて増加する傾向にあります。
これは猫ひっかき病の感染経路となるノミの繁殖に関係していると考えられます。
ノミは気温も湿度も高くなる夏場に繁殖力が高まるといわれています。そのため夏場にバルトネラ・ヘンセレに感染した猫が増え、気温が下がる秋から冬にかけて猫が飼い主さんと接触する機会が増えることから、秋から冬に患者さんが多いのではないかと考えられています。
感染報告の多い地域は「西日本」
ノミの繁殖力が高まる温暖な地域ほど感染報告が顕著に現れています。日本では西日本に感染報告が多くあり、日本以外の国にも似たような傾向が見られます。
「猫ひっかき病」が子どもに多い理由とは?
猫ひっかき病は、小児に多い感染症です。
私たちの研究では188例中152例、約8割の患者さんが18歳未満のお子さんでした。現在もこの傾向にほとんど変わりはありません。

子どもは野良猫と接触する機会が多く、無防備な状態が多いと推察されます。また子どもは猫への好奇心が強く、過剰な接触をして猫を興奮させ、ひっかかれたりかまれたりする機会が多いのではと考えます。
ただし大人の症例もあり、誰もが油断はできません。
猫にひっかかれたらどうすればいい?
猫ひっかき病のことを知ると、猫にひっかかれたらあわててしまいますが、「猫にひっかかれたらすぐに医療機関を受診する必要がある」というわけではありません。
受診すべき症状を理解し、適切に対応することが大切です。
次のような症状がある場合には、猫ひっかき病のほか、それ以外の感染症の可能性も考えられますので、医療機関を受診しましょう。その際、猫にひっかかれた、かまれたなど、猫との接触歴を主治医に伝えることが重要です。
・リンパ節の腫れが見られる
・原因不明の熱が続く
・傷口の痛みや腫れが強い
・傷口が化膿している
・出血がひどい
・体のどこかに不調が生じている
「猫ひっかき病」の治療法は?
受診後、猫ひっかき病と診断された場合、一般的な症状の場合は約6~12週間で自然に治るケースがほとんどです。少しでも早く軽快をめざす場合には、抗生物質が有効です。
腫れたリンパ節の切除の必要はほとんどなく、自然に軽快します。万が一、うみがたまってしまっている場合などは、吸引することもあります。
全身症状のある非定型例の場合は、症状に応じて適切な治療が行われます。
「猫ひっかき病」の予防法は?

猫ひっかき病の予防策は、日常的な行動を意識しましょう。
飼い猫よりも野良猫のほうが猫ひっかき病の原因菌を持つ可能性が高いといわれていますので、猫を飼っているか飼っていないかに関わらず、注意が必要です。
猫や犬を飼っている家庭
猫や犬を飼っている家庭は、基本的に人も飼い猫や犬も、野良猫に触れない、触れさせないようにしましょう。
●飼い猫・犬への予防策
・できるだけ外に出さない
・触れた後は手を洗う
・定期的な爪切りをする
特に定期的な爪切りを心がけることが大切です。
猫ひっかき病に猫が感染しても無症状なので、感染に気付きにくいという点は覚えておきましょう。また、飼い主さんが猫ひっかき病を発症したことで、猫の保菌が判明したとしても、現時点では猫に治療の必要が生じるわけではありません。
猫や犬を飼っていない家庭
猫や犬を飼っていない家庭も油断大敵です。次の点は押さえておきましょう。
・野良猫や野良犬には触らない
・過度なスキンシップは避ける
特に子どもが外で無邪気に野良猫とスキンシップを取り、家庭内に原因菌を持ち込んでしまう可能性はゼロではありません。十分注意しましょう。
子どもがいる家庭
子どもがいる家庭は、特に次の予防策を意識しましょう。
・野良猫には触らない
・飼い猫のネコノミを駆除する
・飼い猫はできるだけ外に出さない
・飼い猫のツメを定期的に切る
・猫との接触後は手指をよく洗う
・猫を興奮させない
・猫との過剰なスキンシップはしない
猫からの感染症にじゅうぶん注意を
猫ひっかき病は耳慣れない感染症ではあるものの、身近なところに危険が潜んでいます。特に子どものいる家庭では、野良猫と飼い猫両方からの感染予防を意識して過ごしましょう。
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お話を伺ったのは
国立大学法人 山口大学大学院医学系研究科保健学専攻 教授(特命)
臨床微生物学を専門としており、特にバルトネラ・ヘンセレ感染症の診断法の開発とわが国のその感染実態を中心に、研究を進めている。
構成・文/石原亜香利

