相次ぐ女子大の共学化
2025年6月、武庫川女子大学は2027年度以降の共学化を発表しました。共学化にともない、校名は武庫川大学へ変更となります。
全国にある女子大の中でも、学生数が特に多い武庫川女子大学さえも共学化する背景には、どのような理由があるのでしょうか?
共学化した女子大
近年、女子大から共学化した大学や、今後の共学化を発表した大学は、武庫川女子大学だけではありません。
例えば鹿児島純心大学・園田学園大学・神戸松蔭大学・名古屋葵大学などは、女子大から共学化した大学です。
また岡崎女子大学は岡崎大学へ校名変更し2026年4月から、仙台白百合女子大学は2027年4月から、鎌倉女子大学は鎌倉大学へ校名変更し2029年4月から、共学化することを発表しています。
共学化の背景にある定員割れ
女子大の共学化が相次いでいる理由は定員割れです。女子大は1学部や2学部で構成され、入学定員が999人以下の小規模大学に分類されるケースが多くなっています。
日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、入学定員が1,000人以上の中規模・大規模大学では定員充足率が100%を超える一方、小規模大学は100%未満にとどまっています。
女子大は小規模大学が多いことから、定員割れしているケースが多いと考えられます。
また現状では、大学の経営改善に向けた学部・学科の新設は、収容定員が50%を下回るとできなくなる仕組みです。この基準を収容定員70%まで引き上げる方針が発表されたことで、共学化へ踏み切った女子大もあると考えられます。
出典:私立大学に関する現状等について|文部科学省
:令和6(2024)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向|日本私立学校振興・共済事業団
女子大だからこそのメリット

共学化する女子大が増えている中、女子大だからこそのメリットもあります。今だからこそ女子大を選ぶことの、代表的なメリットを見ていきましょう。
小規模大学だからこその面倒見の良さ
女子大のメリットには、面倒見の良さがあげられます。小規模大学が多い女子大は、教員や職員が学生一人ひとりを把握できる規模です。
授業の出席率や単位の取得状況などはもちろん、出身校や部活動の経験・生育環境・バイトの状況なども把握した上で、教育効果を高める働きかけを行っている女子大もあります。
充実のサポート体制による就職のしやすさ
キャリア教育に力を入れる傾向があるのも女子大のメリットです。
キャリア教育を受けた学生は、キャリアプランを明確に持つ割合が高く、内定の早期獲得につながっているという調査結果があることから、多くの女子大で実施しているキャリア教育は就職のしやすさにつながっているといえます。
またOGの話を聞く機会や、インターンシップの紹介などのキャリア支援が充実しているのも、女子大の特徴です。
出典:HR総研×就活会議:2026年新卒学生の就職活動動向調査(3月) 結果報告 第2報|HRpro
セキュリティや設備の充実度の高さ
セキュリティが整っている点も女子大のメリットです。学内へ入るときに学生証の提示が必要な女子大もあり、部外者が入りにくい仕組みで安全を確保しています。
またお手洗いの清潔さや設備の充実度の高さに加えて、健康や美容につながる学食メニューなどが充実している女子大もあります。
女子大のデメリットも

小規模大学の多い女子大には、小規模だからこそのきめ細やかな指導といったメリットがある反面、学園祭などのイベントは盛り上がりにくいこともあるでしょう。
また男子学生がいないため、男性の意見を聞きたいときに、参考になるのが在籍している男性教員の声に限られます。
共学の「女子枠」とは?

女子を対象とした入試の制度として、理工系学部の女子枠も話題になっています。
「教育未来創造会議『第一次提言』を受けたこれからの大学について(進学者のニーズや人材需要に対応するための学部再編と理系女子学生の活躍促進について)」により、導入が後押しされた制度です。
なぜ今、女子枠が増えているのでしょうか? 女子枠へのさまざまな意見とともに紹介します。
出典:教育未来創造会議「第一次提言」を受けたこれからの大学について|文部科学省
女子枠が増加している理由
文部科学省の資料によると、女子と男子の科学的リテラシー・数学的リテラシーに大きな差はありません。加えて読解力は男子より女子の方が高いスコアとなっています。さらに科学的リテラシー・数学的リテラシー・読解力ともに、女子はOECD加盟国平均を上回るスコアです。
このような調査結果があるにもかかわらず、女子が理工系学部へ進学する割合や、研究者に占める女性の割合はOECD加盟国で最低水準となっています。
この状況を是正するために、共学の理工系学部に女子枠が設けられました。あわせて経済界の「女性理工系人材を確保したい」という意向も、女子枠が増加している要因の一つです。
出典:教育分野における女性の理工系人材の育成及びアンコンシャス・バイアス解消に向けた取組について|文部科学省
奨学金制度に女子枠を設ける大学も
大学によっては、奨学金制度にも女子枠を設けているケースがあります。入学金や学費などの経済的なサポートを行うことで、さらに女子生徒が理工系学部へ進学しやすくするのがねらいです。
女子枠で受験して入学した学生を対象とした奨学金を設けている大学や、女子学生を対象とした奨学金を設けている大学などがあります。
女子枠への意見
女子枠に対する意見もチェックしましょう。高校1・2年生を対象にしたアンケートによると、女子枠に賛成と回答した人の割合は56.0%、反対と回答した人の割合は44.0%でした。賛成の割合が高い結果ではありますが、前回調査よりも減少しています。
科学的リテラシー・数学的リテラシー・読解力が低いわけではないのに、理工系学部への進学率や研究者に占める女性の割合が低い状況の是正を目的とした、女子枠のねらいが十分伝わっていない可能性がある結果です。
また女子枠を設けている大学へのアンケートによると、45.5%の大学で「大学のレベルが下がる」「女子だから入れたというレッテルを貼られたくない」などのネガティブな意見が出たそうです。
マイナスの声があがっている反面、女子比率が高まるといったポジティブな変化が見られた大学もあります。
文部科学省は、女子枠を設ける大学に対して、合理的な理由の説明と、選抜区分を分けて実施することを求めています。
女子枠での受験を検討する際は、制度の理念や目的、文部科学省が示す留意点を理解しておくことが重要です。
出典:拡大する大学入試「女子枠」 高校生の受け止めは? |河合塾グループ
:大学入試の女子枠は「男性への逆差別」か?|朝日新聞Thinkキャンパス
:入学者の多様性確保に向けた選抜について|文部科学省
《まとめ》共学化や女子枠についてチェックしておこう
女子大は定員割れを背景に共学化するケースが相次いでいます。女子大は小規模大学が多く、小規模大学は定員割れが続いているためです。
一方で、小規模な女子大だからこその、充実したサポート体制はメリットでもあります。学生一人ひとりの状況を把握した上で行うサポートは、教育の効果を高めるのはもちろん、内定獲得にもつながるものです。
また女子生徒を対象として理工系学部に設けられるケースが増加中の、女子枠にも注目が集まっています。
賛否両論ある女子枠は、男子と女子の科学的リテラシーや数学的リテラシーなどに大きな差がないにもかかわらず、理工系学部への進学率や研究者に占める女性の割合が低い状況の是正を理念としていることを、理解しておくとよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部