保護者の不安の言葉が、子どもの自己肯定感を下げる? 自信を取り戻すために必要な親の態度とは【不登校の苦しみから抜け出す処方箋】

「不登校という概念をこの世からなくしたい」との想いから、企業や保育園・幼稚園にて不登校を理解するための講演などを行っている蓑田雅之さん。これまでの多くの保護者の方と接してきた経験をもとに、不登校の苦しみから親子で脱するための処方箋をお届けします。今回は、不登校になった子どもの多くが自己肯定感を失ってしまう原因と対策について考えます。

不登校に悩む親の数は、島根県の人口と同じ?

不登校になっている児童生徒の数は、毎年10月末に文部科学省から発表されます。ここ数年は2割ずつぐらい増えていて、令和6年度にはついに34万人を超えました。令和7年度はさらに増加することが予想されています。

不登校の子の人数が34万人ということは、単純に両親がいると計算して(もちろんシングルの方もいらっしゃいますが)、68万人の保護者が子どもの不登校で悩んでいることになります。島根県の人口が67万人ちょっと。それとほぼ同じと考えると、改めてすごい人数であることが分かります。

世間のレールから外れてしまう恐怖

筆者はこれまで8年近く、のべ千人を超える不登校の子を持つ親御さんと接してきました。皆さんの悩みは本当に深く、なかには人生が終わったと、苦痛に顔を歪める方もいらっしゃいます。その中でひとつ気づいたことがあります。

多くの保護者は、「子どもが学校に通えないこと」を問題視されています。学校に通えずに、この子は将来どうなってしまうのか。勉強の遅れは取り戻せるのか。進学はできるのか。交友関係がなくて大丈夫なのか。このまま家にひきこもってしまうのではないか。世間のレールから外れてしまう恐怖が、モヤモヤした霧のように心を覆いつくし、保護者を苦しめます。

そして、その保護者の苦しみが子どもに伝播し、その子の「自己肯定感」を下げてしまうのです。そこに不登校の最大の問題があるのではないかと考えるようになりました。

自己肯定感とは何か?

「自己肯定感」という言葉を使いましたが、厳密にこの言葉を定義するものはありません。私なりに解釈すると、それは「自分が自分であっていい」と肯定的に受け止める感覚だと思います。

ありのままの自分がいて、その自分が周囲に認められ、受け入れられているという感覚。この感覚はとても大切で、その人の心の土台となり、一生涯を支えていきます。逆に、自己肯定感を失うと、人は生きていくのが大変になります。肯定の反対の「自己否定」が始まるからです。

自分はダメな人間だ。自分なんかいなくていい。この世から消えてしまいたい。自己肯定感を失った人間は、こういう負のスパイラルに陥ります。そして、不登校になった子どもの多くが、自己肯定感を失い、苦しんでいるのです。

自己肯定感を失うと、子どもの心は内側に閉じこもっていく

自己肯定感を失うと、まず周囲から受け入れられているという感覚がなくなります。誰も自分を認めてくれない、理解してくれない、その絶望と孤独が子どもを苦しめます。

自己肯定感を失うと、子どもの顔から笑顔が消えます。元気がなくなり、気力もなくなり、口数が減って、心の内側に閉じこもっていきます。もしかすると、それは鬱と呼ばれるものに近い状態かもしれません。

こうなると学校復帰どころではなくなります。自己肯定感を失った状態では、親がいくら励まし、刺激したところで、子どもは動けません。勉強もせず、人とも話さず、極端な場合は外にも出られなくなり、内側にひきこもってしまいます。

このような状況に子どもを追い込まないためにも、親としてはまず子どもの「自己肯定感」を保ってあげることが大切なのです。

子どもの自己肯定感を下げる親の言葉

自己肯定感を下げる最大の要因は、「否定」の言葉です。「なぜ学校に行けないの」「お願いだから行って」「このまま家に居てどうするの」「勉強だって遅れるよ」「上の学校にも行けないよ」「このままじゃ大人になれないよ」
こういった否定の言葉の数々が、子どもの自己肯定感を下げていきます。

口に出して言わなくても、態度でそれは伝わります。家にいる子どもを見てイライラしたり、眉間にシワを寄せたり、深いため息を付いたりするだけで、子どもは敏感に感じ取ります。「学校に通わないと子どもはダメになる」という考えそのものが、子どもの自己肯定感を下げてしまうのです。

子どもの状況を「これでよし」と受け入れる

子どもの自己肯定感を高める方法は意外と簡単です。「自己肯定感」というのだから、相手を肯定してあげればいいのです。

まず、「学校に行くか行かないか、それはどうでもいい」と考える。不登校を否定せず、肯定的に受け止める、そこが第一歩になります。

そして、いまの子どもの状態を、「まずはこれでよし」と受け入れます。学校行かなくても、勉強しなくても、ゲーム三昧でも、部屋から外に出なくても、朝起きてこなくても、歯磨きしなくても、風呂に入らなくても、「まずはいまのままでいい」と認めてあげるのです。

こうやって、「いまのままでいい」「ありのままでいい」という態度を親が続けていくうちに、子どもの心の中で徐々に「自分が自分であっていい」という感覚が戻り、自己肯定感が高まっていくのです。

まずは、家庭に笑顔を取り戻そう

不登校になった子どもの将来を心配する親の気持ちは、痛いほど分かります。でも、同時に、その心配が子どもを追いつめ、苦しめてしまうことも事実です。

子どもの成長にとって大切なのは、学校に行くことでも、勉強することでもありません。毎日を元気で、明るく、笑顔で過ごせることの方が、登校するよりよほど大切です。

学校復帰を願う前に、将来のことを心配する前に、まずは子どもの笑顔を取り戻しましょう。学校に行っていたときと同じように子どもに接して、雑談をしましょう。子どもといっしょに食卓を囲みましょう。好きなものを一緒に食べたり、外でお茶をしたり、映画を見たりするのもいいかもしれません。

笑顔の先に、子どもの未来がある

学校に行くか行かないかは、どうでもいい。子どもと一緒に居られるいまの時間を大切にしてください。子どもの心が元気になれば、将来はどうにでもなります。学校に行かなくても、勉強する方法はいくらでもあります。いまは通信制もあるので、高校や大学への進学も心配ありません。まず優先すべきは、いま目の前にいる子どもの笑顔を取り戻すこと。それが何よりの不登校対策になります

長い道のりになりますが、どうか無条件で子どもの味方になり、寄り添ってあげてください。親御さんご自身も元気を取り戻し、会話と笑いの絶えない家庭を築きましょう。それが子どもの自己肯定感を高め、ひいては子どもの一生を支えていくことにつながります。

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この記事を書いたのは…?

蓑田雅之 コピーライター

一般社団法人 楽習楽歴 代表理事長。子どもをサドベリースクールに通わせた経験から学校教育のあり方に疑問を持ち、教育分野の研究に着手。「不登校という概念をこの世からなくしたい」という思いから、「おはなしワクチン」の活動を開始。企業や保育園・幼稚園にて、講演を行っている。著書に『もう不登校で悩まない! おはなしワクチン』『「とりあえずビール。」で、不登校を解決する』(びーんずネット)がある 。

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