チュニジアの青年による焼身自殺から広がった民主化運動。独裁政権を崩壊に追い込んだSNSの力とは?【親子で語る国際問題】

今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は、アラブ諸国で起こった民主化運動「アラブの春」について学びます。

アラブ諸国で起こった民主化運動「アラブの春」

「アラブの春」という言葉を聞いたことがありますか? これは2010年末から2012年にかけて、北アフリカから中東にかけてのアラブ諸国で起こった、大規模な民主化要求運動の総称です。数十年にわたって続いてきた独裁的な政権が次々と崩壊し、世界に大きな衝撃を与えました。

この運動を理解する上で重要なのは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が歴史的な役割を果たしたことです。

「アラブの春」の発端は、2010年12月、チュニジアで起こったある青年の焼身自殺でした。失業中の26歳の青年が、家族を養うために路上で野菜を売ろうとしたところ、警察官に商品を没収され、侮辱を受けました。彼はこれに抗議するため、市役所前で自らの体にガソリンをかけて火を放ち亡くなりました。

この事件をきっかけに、長年の政治腐敗、高い失業率、そして抑圧的な政権に対する国民の不満が限界に達し、人々の怒りに火をつけました。大規模なデモは瞬く間に全土に広がり、政権交代を達成。「ジャスミン革命」と呼ばれ、長年独裁体制を敷いてきたベン・アリ大統領は国外へ亡命しました。

抑え込まれていた国民の不満がSNSで拡散

チュニジアでの成功は、周辺のアラブ諸国にもすぐに波及しました。特にエジプト、リビア、イエメンなどでも大規模な反政府デモが発生し、長期政権が次々と倒れました。

この連鎖的な動きの裏側で、SNSが極めて重要な役割を果たしました。これらの国々では、長らく政府がメディアや情報発信を厳しく統制し、国民の意見や不満を抑え込んできました。しかし、フェイスブックやツイッターといったSNSは、従来の検閲システムをすり抜けることができました。

SNSが直接的に政権を崩壊させるわけではありませんが、政権崩壊の引き金を引き、そのプロセスを加速させる強力なツールとなり得ると言えます。アラブの春の例では、SNSは長年の不満と怒りを「爆発」させるための起爆剤、そして「組織化」のための通信手段として機能しました。

政権の崩壊は、最終的にはデモ参加者の勇気と、時には軍や警察の一部が国民側についたという要因が重なって実現したものです。しかし、SNSが情報統制下にある社会に「穴」を開け、市民をつなぎ、行動へと駆り立てる革命的な力を持っていることは間違いありません。それは、現代の権威主義政権にとって、最も恐ろしい「自由のツール」の一つなのです。

SNSは可能性を引き出したが、変革の道は険しい

残念ながら、「アラブの春」によってすべてが民主化に成功したわけではありません。チュニジア以外の国では、エジプトで再び軍による統治に戻ったり、リビアやシリアのように内戦が勃発したりして、かえって情勢が不安定になった国もあります。

SNSは人々に新たな可能性を与えましたが、その後の民主的な制度を築くという困難な課題までは解決できませんでした。「アラブの春」は、情報技術が社会変革の大きなうねりを作り出す可能性を示すとともに、変革後の道のりがどれほど複雑で困難であるかをも、私たちに教えてくれているのです。

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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバルサウスの研究に取り組む。大学で教壇に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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