運動が苦手な子は「できていない動き」が3つある!『スポトレ』コーチに聞いた3〜8歳の運動体験の大切さと運動が上達する方法とは?スポーツ好きな子に育つ親の声かけの秘訣も

運動って得意な子にとっては楽しいものだけれど、苦手な子にとっては楽しさを感じづらいもの。運動ギライって治らないのかな……、と思っていたら、どうもそんなことはない様子。子どもたちに身体を動かす楽しさを教える「スポトレ」コーチの伊藤彰浩さんに、子どもをスポーツ好きにする「とっておきの動き」と「声かけの秘訣」を教えてもらいました。

運動が苦手な子が獲得できていない、3つの動きとは

――そもそも、なぜ運動が得意な子と苦手な子がいるのでしょうか。

伊藤さん さまざまな運動をするときに重要といわれる「動き」を獲得できていない子が多いからです。その動きとは、大きく3つに分けられます。

1 移動運動

歩く、走る、跳ぶ、這うなど、最初にいた位置とは違うところに移動する運動です。

2  操作運動 

ボールを投げる、打つ、漕ぐ、蹴るなど、モノを操作する運動です。キャッチボールが苦手というのはまさにコレです。

  • 3 姿勢制御運動 

体幹のバランスを保ち姿勢を維持する運動です。たとえばトラックを走るときはカーブに合わせて身体を傾けないとうまく走れません。押しくらまんじゅうでぶつかったりするとすぐ突き飛ばされてしまうのも、姿勢制御がうまくできていない一例です。

3〜8歳ごろのプレゴールデンエイジにしっかり運動体験を

運動の機会が少ないと、動きを獲得できない🟰運動が苦手に

とくに3〜8歳ごろは運動神経のネットワークがぐんと成長し、9〜12歳で完成

伊藤さん 運動が好きで得意、という子はこれらの動きを適切に獲得しているといえます。でも、運動が苦手、という子はどうしても運動の機会が少なかったり、獲得が遅かったりします。

でも、繰り返し練習すれば上手になります。人は一般的に2~4歳で運動神経のネットワークが形成され、8歳くらいまでに発達・成長し、9~12歳くらいに完成します。なかでも3〜9歳ごろまでの時期は「プレゴールデンエイジ」と呼ばれ、この時期にしっかりと運動体験をしておくといいのです。

体力が減退している現代の子どもたち。多様な運動をすることが大切

今の子どもたちは昔と比べて体力が減退しています。勉強が忙しい、室内で長時間ゲームをするなどが要因で、運動の機会が少なくなっているというのもあります。つまり、幼少期の運動経験を多くして、多様な運動をすることが大切、ということです。

ただ、あまり運動の時期にこだわりすぎることはありません。どの時期でもいいから、上の3つの運動をまんべんなくやるといいんです。やるとなったら「楽しい」と思えることがマスト。痛い経験や怖い経験は運動がきらい、苦手となりやすいので、楽しさが勝るような体験をさせてあげましょう。

「サッカー」「野球」など限定した運動より低年齢なら基礎的な運動を!

幼い頃は、ひとつの競技だけをやるよりも、基礎的な動きを多様にやるのがおすすめ

――本人がサッカーが上手になりたいと思っているのなら、サッカーをたくさんやらせてあげると楽しいと思うのですが。

伊藤さん それより基礎的な動きを多様にやることが大事です。もちろんサッカーを早く始めるとうまくできるようになります。でも、その競技の動きだけが上手になる傾向に。

ひとつの動きばかりを集中してやるとほかの動きがうまくできず、ちょっとしたアクシデントに対応できなくてケガにつながります。遠回りに感じるかもしれませんが、多様な運動をした先に「動きの洗練化」があります。いろんな状況に身体が対応できるよう、さまざまに身体を動かすことを楽しんでもらえるといいですね。

やるべきは、3つの運動!組み合わせてやってみよう

――とはいえ、どんな運動をしたらいいのかわかりません。

伊藤さん では、具体的におすすめの運動をしてみましょう。子どもに「やりなさい」と言ってもなかなかやらないので、親子や兄弟で楽しみながら一緒にやってみてください。

①移動運動なら【ハイハイ・○×ゲーム】がおすすめ

伊藤さん 外ならウォーキングやランニングを一緒にするのがいいですが、手軽に家の中でやる運動としては這う運動をおすすめします。

赤ちゃんがハイハイすることは、運動としてとても大事とよく言われます。腕や脚の筋力が強化され、体幹も鍛えられ、運動の基礎的な筋力をアップさせるのに最適。また、目線が低くなり、動物が獲物を探して突進するような姿勢なので、運動の目的への集中力も養うことができます。

ただハイハイするだけでは飽きてしまうので、3×3の格子を作って○×ゲームと組み合わせてはいかがでしょう。親子で「ヨーイドン」で競争して、速くゴールしたほうが自分の目印を置けます。立て横斜め、3つそろったほうが勝ちです。

ヒモや棒などで格子をつくり、それぞれに目印を用意、先にゴールしたほうが目印を置く

伊藤さん このとき気をつけたいのは、膝をつかないで進むこと。膝をつかないことで体幹や脚の筋力がさらに養われます。3mくらい離れたところに格子を設置し、目印を置いたらまた膝をつかないハイハイで戻ってきます。そして次にまた「ヨーイドン」で始めます。

膝をつかずに進むことで、全身の筋肉が鍛えられる!
親子で競争。ハイハイからの目線は立ったりすわったりするときと違い、ゴールなど目指す方向に集中して向かっていける

②操作運動なら【やわらかボールのキャッチ】がおすすめ

伊藤さん 「ドッジボールやキャッチボールが苦手」というお子さんは多いもの。投げるのも難しいですが、ボールを受け取るのが怖くてやる気になれず、自信が持てない場合も多いのでは?

まずはボールを受け取る練習をしましょう。やわらかいボールで、スピードを遅くし、「ここに来る」と受け取る狙いを定めやすい方法から始めるといいです。100円ショップなどで売っているやわらかい野球ボールくらいの大きさのボールを用意しましょう。

まずは、上から落とすボールをキャッチ

高さの目安は大人の肩くらい

まずは、お子さんをすわらせて手のひらを広げて上に向けてひざの上に置き、大人が上からボールを落として受け取る練習です。「行くよ」と声をかけて手に向かって落としてあげましょう。

ボールの落下地点に手をおき、受け取ると同時に手でギュッとボールをつかみます。上手になってきたら、ふたつ同時に落としてふたつ受け取る練習もします。10回ずつトライしましょう。

上から落とすボールを受け取ることでキャッチのタイミングを体得できる

次は、バウンドキャッチ

伊藤さん これができるようになったら、ふたりで部屋の端と端にすわって、ボールをワンバウンドさせてキャッチボールをします。スピードはゆっくり。それができたら立ってワンバウンド、ツーバウンドで取る練習をします。受け取る練習になれてきてから、通常のキャッチボールやドッジボールをすると、うまく受け止められる確率が増えます。すわって10回、立って10回をルーティンにしましょう。

投げる前に「行くよ!」などとタイミングがわかるように声をかけるといい
うまく取れなくても「あーあ」「何やってんの!」は言わない。「ナイスチャレンジ」「ナイストライ」
ワンバウンドだと取りやすく、失敗が少ないのでボールのキャッチの練習には最適。遠ければ2バウンドでも

③姿勢制御運動なら【体幹ジャンプ】がおすすめ

伊藤さん 体幹を鍛える運動です。長い線を引いて、ジャンプしながら進みます。

・線の左右に両足をそろえてジャンプしながら進む

線をはさむように、交互に脚を出して斜め横にジャンプしながら進む。両足同時に着地

伊藤さん これを各5回ずつやってみましょう。まっすぐジャンプするのと違って身体を左右に傾けながらの移動になるので、姿勢をしっかり整える練習になります。

家の中だと振動が大きいので戸外や体育館のようなところでやるといいですね。

失敗しても「あーあ」と言わない! 「3割成功」を目安に

――ボールのキャッチなどは、失敗したりうまくできなかったりすることが多そうです。特に運動が苦手な子はどれも動きがぎこちないかもしれません。

伊藤さん そんなとき大人は「あーあ」「失敗したね」と言いがちです。でも、考えてみてください。打率のいいプロ野球選手でも「打率3割」でしょう? バッターボックスに入ったら10回のうち7回失敗するんです。失敗ばかりに注目しないで、「3回できたね」「すごいよ!」と一緒に喜び、成功体験を積み重ねてほしいです。

ボールを使うときに限らず、僕は脚がひっかかった、うまく飛べなかったなどのときも

「ナイスチャレンジ!」

「ナイストライ!」

そう声をかけます。チャレンジしたことがすばらしい、というマインドで声かけをしてあげてください。

運動好きになる秘訣は、「できるようになった!」ことを大人も一緒に喜ぶこと

それと、ほかの子との比較はNGです。「Aちゃんのほうが上手」「なんでBちゃんみたいにできないのかしら」なんて言われたら、ますます運動がきらいになります。

僕が主宰する「スポトレ」は、放課後などを利用し、地域の子ども達が楽しく身体を動かし、スポーツを通してチャレンジする気持ちや自信を育んでいます。運動が苦手な子でも楽しめるプログラムになっていますが、その中でも本人が「あ、うまくできない」と思うことがあります。でも、失敗したときは「ナイスチャレンジ!」だし、その子が以前できなかった動きができるようになったときにほめるという「絶対評価」を大事にしています。

何より子どもが「できるようになった!」という思いを、保護者の方が共感して一緒に喜ぶことが、子どもが運動好きになる秘訣かな、と思います。

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お話を聞いたのは

伊藤 彰浩さん 日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー/理学療法士

株式会社MEDI-TRAIN代表取締役。 日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー/理学療法士、ドイツ式ライフキネティック公認トレーナー、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー。企業の健康経営サポートや医療機関・介護福祉施設のリハビリコンサルティング、産前産後ケア、アスリートサポートを行う。子どもたちの身体能力を伸ばし、スポーツが苦手な子でも好きにする子どもたちの主体的な「スポトレ」を全国で運営。

撮影協力/小松應太郎くん(小4)、美しが丘東小学校放課後キッズクラブ 取材・文/三輪 泉

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