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アスリートの食卓が、母としての視点につながった
――今回、オーガニック離乳食ブランド「ILY BABY(イリーベイビー)」を立ちあげられたきっかけを教えてください。
恵美さん:私はもともと、食や栄養について詳しいほうではありませんでした。ですが、夫と結婚し、生活をともにするようになって、アスリートにとって食事が心身にどれだけ影響があるのかを目の当たりにして。ボクシングは減量がある競技ですから、食事の内容やタイミングによって、体調やパフォーマンスが大きく左右されます。そこから食について学ぶようになりました。
減量期は特に、数字だけ落とせばいいわけではありません。心が疲れてしまうような極端な食事では続かないので、少ないカロリーでも栄養をしっかり摂り、飽きずに食べられる工夫をしてきました。

恵美さん:その後、子どもを授かり、今度は「わが子の体に入るもの」という視点で、食がその子の未来につながるのだと、深く考えるように。また、周りのママたちからも“離乳食づくりが大変”“何を食べさせればいいかわからない”という声も多く聞きました。
――母としての経験も、ブランド立ち上げにつながっているのですね。
恵美さん:はい。アレルギーやアトピーの悩みを抱えるご家庭も少なくありませんし、そうした周囲のママたちの声を聞く中で、これまで自分が学んできた食の知識を、形にして伝えられないかと考えるようになりました。
赤ちゃんとママのために、温める“ひと手間”を足したわけ
――離乳食ブランド「ILY BABY(イリーベイビー)」がオーガニック・無添加にこだわった理由を教えてください。
恵美さん:赤ちゃんの体はまだ未熟です。消化器官や体の機能を考えると、添加物や農薬が入ることは、できるだけ避けたいと思いました。そのため、無添加であること、有機素材を使うことは、商品づくりにあたって前提条件でした。
――パウダータイプなのも珍しいですね。小鍋で温める仕様なんですね。
恵美さん:野菜の皮ごとパウダーにしているので、未発達な赤ちゃんの胃腸でも消化しやすく、栄養を逃さず摂取できます。水の量を変えることで、離乳食の段階に合わせて硬さを調節できるのもポイントです。
また、あえて小鍋で温める手順を残しました。お湯で溶かせば簡単ですが、ほんのひと手間“自分で作ってあげている”という気持ちが生まれます。私自身、レトルトの離乳食に頼った日には後ろめたさを感じたことがあったので、その気持ちに寄り添いたかったんです。子どもがおいしそうに離乳食を食べてくれたとき、作ってよかった、楽しかった、という体験もつながると思っています。
――栄養面で、特に意識された点は?
恵美さん:鉄分とビタミンDです。生後6か月以降、母乳だけでは鉄分が不足しやすいとされていますが、添加物で補う方法が多いのが現状です。そこで、鉄分は天然の植物発酵パウダー「ピート」を配合しました。
また、母乳からは得られず日光浴で得られるビタミンD。強い日差しを気にしたり、冬生まれでなかなか外に出られなかったりする赤ちゃんもいますよね。こちらも、食材の有機きくらげパウダーを使用。離乳食で扱うのは難しい食材も、パウダーなら食感も気にならず摂取でき、1食で1日に必要な栄養量の半分を摂ることができます。
――月齢に合わせて調節して使える点も便利ですね。
恵美さん:はい。水分量を調整することで、最初の離乳食・10倍がゆから成長に合わせた硬さまで対応できます。また、少量から作れるので食品ロスも出にくく、水分を含まないので外出時などにも持ち運びが便利で、使いやすいと思います。

“家族みんなで食べる”ことが、井岡家の軸。夫婦でバランス良く家事育児を分担、子どもたちの成長を支える強固なチームワーク
――アスリート家庭ならではの食卓について教えてください。井岡選手の減量期など、どんな食卓なのでしょうか?
恵美さん:我が家では、できるだけ毎日同じ時間、だいたい夕方6時半に家族みんなで食卓を囲むようにしています。夫の試合前の減量期にはメニューが変わりますが、子どもたちも同じものを食べることが多いですね。時間は多少ゆっくりになりますが、最後まできちんと食べてくれます。
――井岡選手は、その食事をどのように感じていますか。
一翔さん:試合前は、午前も午後もトレーニング中心の生活になるので、家に帰って食べる食事の時間が一番の楽しみです。栄養面はもちろんですが、忙しい中で食事を作ってもらえること自体が気持ちの支えになります。それが「心の栄養」となり、日々のトレーニングや力につながっていると感じています。

――ご家庭で大切にしている食のルールは?
恵美さん:食卓に出したものは残さない、ということは日頃から子どもたちに伝えています。
一翔さん:それは本当に大事にしていて、ママが誰のために作った食事なのかを話しています。
恵美さん:お菓子等も一切禁止にするのではなく、「これは自分の体にとってヘルシーかどうか」を一緒に考えるように語りかけていますね。
―育児や家事の分担についてはいかがですか。
恵美さん:夫婦それぞれが得意なほうに回ることにしています。家事は基本的に私が担っていますが、育児に関しては夫が大いにフォローしてくれます。私が食事を作っている間に子どもをお風呂に入れてくれたり、私が感情的になったり、叱ったりしたときには、夫が子どもをフォローしてくれるなど、自然に助け合っている感じです。そんな存在がいることで、家庭のバランスがうまく保たれているな、と感じていますね。

一翔さん:「家族はチーム」ですよね。子育てを通して、自分自身も学ぶことが多いです。最初の頃はうまく気づけなかった部分も、妻に指摘してもらったり、「今の叱り方は違ったかな」など、二人であれこれ相談したりしながら、父母として成長しているな、と。自分が間違っていたら子どもに謝ることもあります。
ボクシングは殴り合いのスポーツということもあり、試合前の期間は緊張感やプレッシャー、減量などで、気持ちの切り替えが難しいときもあります。でも、家では父親の自分でいられるようにと思っていて。家族で愛情を深めながら、子どもと一緒に、親も成長していけたらと思っています。
恵美さん自身の日々のリセット方法とこれからのこと
――毎日、お忙しい中でどう自分を整えていらっしゃいますか?
恵美さん:1日の最後に、今日も何事もなく終えられたことに感謝しています。まとまったひとり時間を求めているわけではなく、この日常そのものがありがたいなと感じています。
あとは、運動をするのが好きですね。体を動かすと頭がスッキリするタイプで。モヤモヤも飛んでいくので、私には合っているんだと思います。体を動かすことは運をも動かす、と考えていて、ポジティブになれるんです。
一翔さん:今日もうちのジムで、ファイタートレーニングや筋トレに参加してましたよ。
――最後に、今後について教えてください。

恵美さん:私自身、「迷ったらやってみる」という考えを大切にしています。「ママだから無理」ではなく、やってみたらできたことが今までも多くて、これからもさまざまなことにチャレンジしていきたいですし、それが生きる活力になっています。
また、「ILY BABY」の離乳食をもっと多くの人に広めていき、今後はお菓子やふりかけなど、子どもが日常的に口にするものも、安心して選べる形で商品を展開していきたいと考えています。食は毎日の積み重ねなので、無理なく続けられることを大切にしていきたいですね。
一翔さん:僕もこの商品開発をそばで見てきたので、これからも応援していきます。
撮影/杉原賢紀 取材/羽生田由香