スマホをやめられないのは子どもだけじゃない!? デジタル教育の専門家・石戸奈々子さんが語る子どものデジタルリテラシーの育て方

「うちの子、ずっとスマホを見ているけど大丈夫?」と心配になることもあるかもしれませんが、問題はスマホそのものではなく、どう使うか。20年以上子どものデジタル教育を推進し、『賢い子はスマホで何をしているのか』などの著書もあるNPO法人CANVAS理事長の石戸奈々子さんにお話を伺いました。

デジタルデバイスは見ている時間の長短より質が大事

──子どもにスマホやタブレットを見せすぎていないか、気になる親は少なくないと思います。時間の目安はありますか?

石戸奈々子さん(以下、石戸):唯一の正解があるわけではありませんが、参考になる目安としては、WHOなどが幼児期のスクリーン時間について一定の基準を示しています。ただ、それもあくまでひとつの参考であって、すべての子どもに当てはまるわけではありません。そもそもスマホやタブレットはツールなので、時間だけで評価するのは難しいと思います。同じ時間でも、受動的にコンテンツを消費しているのか、それとも学んだり考えたり、何かを生み出したりしているのかで、その価値は大きく変わります。大切なのは「何分使ったか」ではなく、どう使っているかです。

さらに、どう関わるかという点も重要です。同じ1時間でも、ただ動画を見続けるのか、親子で「これおもしろいね」「どうしてだろうね」と対話しながら使うのかで、その意味は大きく変わります。一律に時間で区切るのではなく、どんな関わり方になっているかを見ていくことが大切だと思います。

──忙しいと、子守り感覚でスマホを見せて、受動的な関わり方をさせてしまうことも…。

石戸:それもあまり否定しなくていいと思います。親も忙しいですし、どうしても手が離せないときはありますよね。そういうときにスマホに助けてもらうことは、自然なことだと思います。大事なのは、それが続きっぱなしになるのではなく、そのあとに子どもと向き合う時間を持てているかどうかです。うまく取り入れることで、親の余裕が生まれて、結果的に子どもとの時間、子育て全体の質も高まると思います。

大人もはまる中毒性のあるスマホのアルゴリズム

────スマホでいろいろ見ていると、アルゴリズムが学習し、興味のあるコンテンツを次々と表示してきます。動画などをダラダラ見てしまうのを防ぐには、どうすればいいですか?

石戸:正直なところ、私たち大人もアルゴリズムに引き込まれてしまうことがありますよね(笑)。それくらい強力な仕組みなので、子どもの意志だけでコントロールするのは難しいと思います。その前提に立った上で大切なのは、環境や使い方を整えることです。たとえば、フィルタリングなどの技術的な工夫に加えて、「今日は◯分見よう」「これを見たら終わりにしよう」といった区切りを親子で共有すること。親子のコミュニケーションが一番の安全装置になるんじゃないかと思います。

さらに、見て終わりではなく、「さっきのおもしろかったね」「あれやってみる?」と、現実の体験や会話につなげていくことも有効です。アルゴリズムに対抗するには、意志だけに頼るのではなく、関わり方や環境そのものをデザインしていくことが重要だと思います。

──時間を決めても守ってくれないときは?

石戸:それはスマホに限らず、よくあることですよね。マンガでもゲームでも、「もうやめなさい」と言ってもつい続けてしまうことは、昔からあると思います。だから、ルールだけでうまくいかないことも自然なことだと思います。大切なのは、「どうしたらやめられるかな?」と一緒に考えていくことです。少しずつでも、自分で区切りをつけられるようになることが大事で、そのためにも日頃の親子の会話が大きな役割を果たすと思います。

ルールより大切なのは、使いこなす力を育てること

「スマホを見ているときにずっと付きっきりは難しくても、子どもに任せっきりにしないことも大事」だと石戸奈々子さん

──石戸さんはご自身のお子さんが小さい頃は、スマホ時間制限を設けていなかったそうですね。なぜそれでうまくいったと思われますか

石戸:正直、うまくいったかどうかは分からないのですし、「こうすれば大丈夫」というものもないと思っています。ただ、私が心がけていたのは、制限することよりも、子どもが安心して選べる環境をつくることでした。質のよいアプリをたくさん用意して、その中から自由に選べるようにしていたんです。そして、「さっき見ていたもの、一緒にやってみようか」と、デジタルの体験を会話や実際の遊びにつなげることも意識していました。

これからの時代、デジタルを使わずに生きていくことはできません。だからこそ大切なのは、子ども自身が適切な使い方を学び、時間も含めてコントロールできるようになっていくことだと思います。

デジタルか、アナログかの二択ではない

──どういうアプリがおすすめですか?

石戸:これも一律の正解があるわけではないと思っています。子どもの興味・関心に合わせて、一緒に見つけていく姿勢が大切だと思います。親が一方的に決めるのではなく、一緒に使ってみて、どんなことに興味を持つのか、どう反応するのかを見ながら、その子に合ったものを選んでいくことが大切です。

主催している「デジタルえほんアワード」の受賞作品を見ても、リアルなごっこ遊びと組み合わせて遊べるものや、生成AIを使って自分だけの物語をつくれるものなど、体験の幅は大きく広がっています。だからこそ、その子にとってどんな体験が広がるかという視点で選ぶことが大切だと思います。

──デジタルとリアルな体験の理想のバランスはありますか?

石戸:デジタルかアナログか、と分けて考える必要はあまりないと思っています。たとえば、タブレットを持って街に出て写真を撮り、それをもとにコラージュ作品をつくったり、アプリで作曲して演奏したりと、デジタルとリアルを行き来しながら体験することが増えています。子どもたちにとっては、デジタルは特別なものではなく、クレヨンや粘土と同じように、表現のためのひとつの道具が増えた感覚なのだと思います。

スマホや生成AIは子どもの可能性を広げる道具

──長年デジタル教育の現場を見てきて、どのような変化を感じていますか?

石戸:もはやスマホは是か非かを議論する対象ではなく、社会のインフラになっています。だからこそ問われるのは、「使うかどうか」ではなく、「どう使うか」「どう関わるか」です。同じデバイスでも、受動的に消費する使い方もあれば、主体的に学びや創造につなげる使い方もあります。

子どもたちにとってスマホは、単なる娯楽の道具ではなく、世界中の知識にアクセスし、自分のアイデアを表現し、地域を超えて人とつながることができる、可能性を広げるツールでもあります。だからこそ親も、制限することだけに目を向けるのではなく、どうすればその力を引き出せるのかを、子どもと一緒に考えていくことが大切だと思います。

──生成AIの登場で考える力が衰えるのではないか、と心配する声もあります。

石戸:そうした不安の声があるのも自然なことだと思います。ただ、技術が進展して社会が変わると、求められる力も変わっていくものです。

AIは答えを与える存在というよりも、ヒントをくれたり、思考を広げるきっかけになる存在だと思っています。その上で、何を問い、どう考えを深めていくかは、人間にしかできません。むしろ、知識や情報にアクセスしやすくなることで、試行錯誤の回数が増え、思考の幅を広げたり、深めたりしやすくなる面もあります。作曲やプログラミングなど、これまで専門的なスキルが必要だった領域にも、アイデアがあれば挑戦しやすくなり、創造のハードルは確実に下がっています。だからこそ大切なのは、どう問い、どう使いこなすかを育てていくことだと思います。

AIを効果的に使うために

石戸:AIを使う上で大切だと思うことは、大きく3つあります。1つ目は、問いを立てる力です。探究心をベースに、自分が何を知りたいのかを言葉にする力です。2つ目は、情報を見極める力です。生成AIの情報は必ずしも正しいとは限らないので、そのまま受け取るのではなく、真偽を判断し、取捨選択する力が求められます。3つ目は、行動に移す力です。AIは私たちに大量の情報やアイデアを与えてくれますが、それを実際に「どう動くか」まで決めて行動できるのは人間だけです。

そしてもう一つ大切なのは、変化を楽しみながら、学び続ける姿勢だと思います。

親として心がけたい3つのスタンス

──変化の激しい時代に、親はどんなスタンスでいるのがよいでしょうか。

石戸:これも3つあると思っています。1つ目は、答えだけではなく問いを大切にすることです。デジタルの世界は変化が速く、正解だと思っていたものもすぐに古くなってしまいます。だからこそ、「どう思う?」「なぜそう感じるの?」と問い続けることが大切です。

2つ目は、子どもに伴走することです。ルールで縛るのではなく、一緒に使い、一緒に楽しむ。その中で子どもが見ている世界を理解しながら、関わり方を考えていくことが重要だと思います。

3つ目は、大人も学び続けることです。子どもたちはもちろん大人もこれからデジタルやAIとともに生きていく必要があります。大人も含めて生涯学び続けなければならない時代です。大人が学び続ける姿勢を見せること自体が、子どもにとって大きな学びになると思います。

変化の速い時代だからこそ、答えを与えるのではなく、問いを持ち、伴走し、ともに学び続けることが大切だと思います。

──変化への不安は親のほうが大きいのかもしれませんね。

石戸:そうかもしれませんね。新しい技術が登場するたびに、不安の声が生まれるのは自然なことだと思います。ただ振り返ってみると、これまでの社会も、さまざまな技術の進歩によって大きく変化してきました。その中で私たちは、新しい技術と向き合いながら、より便利で豊かな社会をつくってきたとも言えると思います。デジタルやAIも、その延長線上にあるものだと考えると、過度に恐れるのではなく、どう使いこなしていくかが重要になってきます。だからこそ親として大切なのは、不安を前提に制限することではなく、子どもと一緒に新しい技術に向き合い、使い方を学びながら、その可能性を広げていくことだと思います。その積み重ねが、より良い社会をつくっていくことにもつながっていくのではないでしょうか。

石戸奈々子 NPO法人CANVAS理事長/慶應義塾大学教授

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。株式会社松屋、株式会社フジ・メディア・ホールディングス、株式会社デジタルガレージの社外取締役。
総務省情報通信審議会委員など省庁の委員やNHK中央放送番組審議会委員を歴任。デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。
著書には「子どもの創造力スイッチ!」、「賢い子はスマホで何をしているのか」、「日本のオンライン教育最前線──アフターコロナの学びを考える」、「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」、「デジタル教育宣言」をはじめ、監修としても「マンガでなるほど! 親子で学ぶ プログラミング教育」など多数。

文・構成/古屋江美子

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