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好きなこと、楽しめることを見つけるために
子どもには、生き生きと輝く人生を送ってほしい。人の親ならば、誰もがそう願うでしょう。車いすシンガーとして活躍する関本泰輝の母・関本里絵さんも、同じ思いでした。
「生まれてきたのは、双子の男の子(長男:紘輝さん、次男:泰輝さん)でした。後に、2人とも脳性麻痺と診断され、小さい頃から手術やリハビリ、つらい治療など、さまざまな困難を頑張って乗り越えてきました。その分、2人にはそれぞれ好きなことを見つけて、人生を楽しんでほしいという思いが強くなったのだと思います」
里絵さんは、2人が幼い頃からさまざまな体験をさせることに注力しました。太鼓、バイオリン、ミニゴルフ、相撲観戦、旅行…。里絵さん自身も2人とともに過ごす日々を楽しもうと、お気に入りのハイヒールをはき、2台の車いすを押して、積極的に出かけていったのです。

「離婚してシングルマザーとなったとき、紘輝と泰輝、そして私の3人で、毎日をいっぱい楽しもう、キラキラ輝いて生きていこうと決めました」
小学校は、地元の公立小学校(特別支援学級)を選択。実は、障がいの特性に合わせた学習や教育が受けられる特別支援学校を勧められましたが、あえて公立小学校を希望しました。
「保育園のときから一緒に遊び、成長してきたお友だちとともに、2人にはどんどん新しいことにチャレンジさせたかったのです」
その思いは、実を結びました。休み時間のサッカーやドッジボール、鍵盤ハーモニカやリコーダーの発表会…。担任の先生やクラスのお友だちが、2人に合わせた遊びのルールや発表の仕方などを工夫してくれたおかげで、2人はぐんぐん成長していきました。
「大縄跳び(通り抜け)も、お友だちに車いすを押してもらって参加したんですよ! ただ、一緒に活動できるのはうれしかったのですが、車いすが加わると、どうしても通り抜ける回数が減ってしまうなあと思うと、みんなに申し訳なくて…」
ところが不思議なことに、2人が参加したほうが飛べる回数が増えたのです。
「担任の先生に『紘ちゃん、泰ちゃんがいるおかげで、みんなが一つになって頑張ろうという気持ちになるんや』と言われ、胸がジーンと熱くなりました」
こうして、さまざまな体験と友だちとの交流を重ねて成長していくうちに、2人は好きなことに出合うことになりました。

「歌手になりたい!」次男・泰輝さんが出合った音楽の夢
幼いころから、さまざまな音に敏感で音楽が好きだった2人。次男・泰輝さんは、10歳のときに「輝かしい夢」を見つけました。2014年の春に公開されたディズニー映画『アナと雪の女王』を映画館で観て、
「ぼく、歌手になりたい」と言ったのです。
歌手のMay J.が歌うエンドソング「Let It Go ~ありのままで~」を聴いて、心がワクワク、ゾクゾク興奮して、歌手になりたいと思ったのだとか。里絵さんは、すぐさま、こう答えました。
「いいなあ! それやったら、ボーカルスクールに通って、歌、習ってみる?」
「行きたい」
「よし‼ 行こう」
里絵さんが探してきたボーカルスクールで念願のレッスンを開始。そのうち、泰輝さんはライブハウスで行われたスクールの定期発表会で、スポットライトを浴びながら観客の前で歌うという快感を味わいました。大きな刺激を受けて、夢はどんどん膨らみます。

「武道館で歌いたい」
「いいなあ。いつか歌えるように頑張ろう‼ 夢は、どんどん口に出して言ったほうが実現するしな‼」
「そうやなあ」
その後、泰輝さんの必死の努力が運命の出会いを引き寄せ、泰輝さんは見事にメジャーデビューを果たしました。車いすシンガーとしてさまざまな舞台でパフォーマンスを披露し、プロとして音楽活動をすることになったのです。
※メジャーデビューまでの道のりについて、詳しくは記事末でご紹介する関本里絵著『車いすとハイヒール』でご覧ください。
長男・紘輝さんは、頑張る人を全力で応援
長男の紘輝さんは、カラオケ、ゲーム、スポーツ観戦などさまざまなことに興味を持っていますが、中でも夢中なのは「全力で応援する」こと。弟・泰輝さんのライブ活動はもちろん、地元・京都府亀岡市のボウリング場にかけつけて、女子ボウラーにも熱い声援を送っています。
「紘輝は、自分がプレイするだけでなく、汗だくになってみんなを応援します。いろんなボウリング場で仲間を見つけ、『うまいなあ』と声をかける紘輝は、地元では結構、有名な存在なんですよ」と里絵さん。

最近では、ボウリング場で女子プロに会える日は、朝からソワソワ。
「髪、セットするわ」
「男前にしていくの?」
「うん、していくの。会えるしな。写真撮らなあかんしな」
今、2人は、母が願った通り、好きなことに出合い、かけがえのない時間を謳歌しています。
素直な紘輝さんから教わったこと
2人は、2歳の頃からお風呂介助のヘルパー支援を受けています。里絵さんは、当時の相談員から「将来、ヘルパーさんの支援が絶対に必要になるので、早いうちから慣れておいたほうがいいですよ」とアドバイスされ、支援を受けることにしたそうです。
「今、振り返ってみると、早くから支援関係の皆さんに2人のことを知ってもらえてよかったと思っています。長いお付き合いのおかげで、良い関係を築けました」と里絵さん。
障がいのあるなしに関わらず、人は人との関わりの中で生きていきます。周りの人と上手にコミュニケーションを図るには、「ありがとう」という言葉が欠かせません。
「紘輝は、関わってくれた人には必ず感謝の言葉を伝えるんです。『〇〇さん(ヘルパーさん)、ボウリングに(一緒に)行ってくれてありがとね』というように。誰が教えたわけでもないのですが」
里絵さんは、そんな紘輝さんの日々の様子から、「感謝を素直に表現することの大切さ」を教わったそうです。
泰輝さんは恋のキューピッド
一方、泰輝さんからは、里絵さん自身の生き方、家族について考えるきっかけをもらいました。
2人が中学生の頃、新たな介護事業所と契約することになり、若い男性のヘルパーさんたちがやってきたときのこと。泰輝さんは、そのうちの一人である「てる君」と里絵さんの結婚をさかんに勧めてきたのです。
「あまりにしつこいので、『誰とも結婚しいひん。これからもずーっと三人家族やで』と言ったら、『かっか(お母さん)はこれから歳をとっていって、一人で大変やのに、どうすんの。結婚したほうがいいって。でも、てる君以外はあかんで』と言われちゃいました」
ずっと子どもだと思っていたのに、そんなことを考えるようになっていたんだと、里絵さんはその成長ぶりをうれしく思ったそうです。
後日、泰輝さんの予感(!?)した通り、里絵さんとてる君は結婚。里絵さんの念願だった介護事務所を一緒に立ち上げました。

一人で抱え込まないで。人との関わりの中で人生は輝く
脳性麻痺の双子をシングルマザーとして育ててきた里絵さん。
「2人にとって、一度きりの人生を絶対に幸せだと感じてほしいから、できることは何でもしてあげたい、やらずに後悔するよりは、やって後悔するほうがいいという気持ちでした」
以前は、「何でも一人でやる!」を当たり前だと思っていましたが、今は、父母やきょうだい、パートナー、情報を交換しあう障がい児をもつママ友、日々の暮らしを助けてくれるヘルパーさんなど、みんなに助けてもらいながら毎日を過ごしているそうです。
「紘輝も泰輝も、人が大勢集まるにぎやかな環境で育ちました。今も、大勢の人と関わりながら、楽しく毎日を送っています。『ステキな息子さんたちですね。愛情をいっぱいもらってきたんですね』と言われると、心からうれしく、自信を持たせてもらえます」
さまざまな体験をさせること、その中で子どもが興味を持ったことをとことん応援すること、母子ともに人と人の関わりの中で生きていくこと。それが、関本里絵さん流「子どもの人生の輝かせ方」なのです。
3人のこれまでを綴った関本さんの著書
生きる力が湧いてくる七転八起の子育て記
2023年12月にメジャーデビューした車いすシンガーの関本泰輝さんの母、関本里絵さんの初の著書。20代で結婚、そして妊娠。男の子の双子(紘輝さん・泰輝さん)を出産後、彼らに脳性麻痺があることがわかります。障がいを抱えた息子たちと自分の3人家族で、どうやって生きていけばいいのか・・・。
悩み、戸惑い、そしてもがく「おかん」の姿と双子君たちのやりとりは、ときに過激(!)、ときにほっこり、そして最後はうるっと涙…。問題は山積み、でも、とにかく前へと突き進む、ノンストップ、ジェットコースター人生のはじまりです!
お話を聞いたのは
1974年、京都府亀岡市生まれ。
短大卒業後、ブライダルコーディネーターとして京都で6年働くが、当時の夫の転勤により退職。2003年に双子の男子(紘輝、泰輝)を8か月の早産で出産。二人とも脳性麻痺という障がいがあることがわかる。長男の難治性てんかん発作や次男の重積発作発症など、幼い息子たちが入退院を繰り返す日々に不安になることも。2008年、離婚してシングルマザーに。家族の助けも得ながら二人の息子たちを伸び伸びと育て、不撓不屈の精神でいろいろなことにチャレンジする。その結果、音楽的才能が芽生えた次男・泰輝は、車いすのシンガーとして2023年12月、テイチクエンタテインメントよりメジャーデビュー。また、息子がキューピッド役となり年下男性と再婚。現在は京都で訪問介護事業「株式会社てるてる」を夫婦で経営しつつ、音楽事務所「Office Taiki music」を主宰。息子の音楽活動を支えている。
この記事を書いたのは
富山県出身。出版社勤務(少女まんが編集部)を経て、フリーランスライター・エディターに(スタジオ・ペンネ主筆)。教育、健康、文化芸術分野のインタビュー記事や書籍、まんがのシナリオなどに携わっている。2児の母として、息子と娘の中学受験を経験。
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