「イケメン」のことを、なぜ「二枚目」と言うの?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴44年。日本語のエキスパートが教える〝知ってるようで知らなかった〟言葉のウンチクをお伝えします。

芝居小屋から生まれた二枚目と三枚目

若い世代は使わない言葉かもしれませんが、「イケメン」のことを「二枚目」といいますよね。さらに、こっけいなことを言ったりしたりする人を「三枚目」とも言います。

でもどうして、「二枚」「三枚」なのでしょうか?

実はこれらの語は、歌舞伎と深い関係のある語なのです。といっても、歌舞伎の演目から生まれた語ではありません。歌舞伎を興行した芝居小屋から生まれた語なのです。

顔見世興行が描かれている浮世絵。歌川広重, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由

江戸中期頃から京坂の芝居小屋では、一座総出演でおこなう顔見世 (かおみせ) 興行の際には、役者の名を並べた看板を掲げました。そしてそのうちの6枚(のちに枚数が増えます)の看板は、一座の中心となる重要な役者のものでした。

その右から2枚目に置かれたのが、「濡事師(ぬれごとし)」と呼ばれる役者の名でした。「濡事」というのは、歌舞伎で男女が愛情を交わす場面や、その演出・演技のことをいいます。そのような場面を演じる役者ですから、当然のことながら色男だったわけです。これがのちに演劇や映画などでも美男役の役者をいうようになり、さらには一般に美男子をいうようになったというわけです。

こっけいなことを言ったりしたりする人を「三枚目」と呼ぶのも、これで想像がつきますね。「二枚目」と同じで、役者の名を並べた看板の右から3枚目に置かれたのが、道化役、つまりこっけいなしぐさやせりふで人を笑わせる役専門の役者だったのです。これがやはり日常でも、こっけいな人物をさす語として使われるようになったというわけです。

「1枚目」が広まらなかったワケ

ところで「二枚目」「三枚目」という語は、一般に広まったのに、「一枚目」という語はなぜか広まりませんでした。芝居小屋で掲げられた看板の最初は、当然のことながら一座の花形役者だったのですが、そのような役者は演じる役柄が必ずしも固定していなかったためなのかもしれません。

ちなみに看板に描かれるのは、その一座の中心となる重要な役者たちです。このような役者を「立者 (たてもの) 」「立役者(たてやくしゃ)」などと呼び、そのうち一座の幹部役者を「大立者(おおたてもの)」と呼んでいました。「立役者」「大立者」という語はお聞きになったことがあるでしょう。どちらも日常語として使われています。「立役者」は「和平会談の立役者」のように、中心になって活躍する重要な人のことをいいますし、「大立者」は、「財界の大立者」のように、ある社会で最も重んじられている人のことをいいます。

このように歌舞伎の世界から生まれた語はけっこう多いのです。

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記事監修

神永 曉|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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