ついイライラしてしまうママに…「 PT/ペアレントトレーニング」をマンガで学ぼう!

「朝、家を出る時間なのに準備ができていなくてイライラ、つい怒鳴ってしまう」「寝る時間なのに、いつまでも遊んでいて片付けない、寝ない。言っても聞かない様子にこちらが疲れてしまう」「どうしてこの子は言うことを聞いてくれないんだろう」……子育てをしているなかで、1度は経験がある悩みではないでしょうか。

怒鳴ってしまったことで、あとから自己嫌悪に陥り、叱られた子どもはもちろん親も暗い気持ちになることも。「もっと上手に子どもと向き合えることができたら…」誰もが思うその気持ちにそっと寄り添ってくれる本が『マンガでわかる魔法のほめ方 PT』です。

ロサンゼルス生まれの「ペアレントトレーニング」とは?

PTとは、「ペアレントトレーニング」のこと。さまざまな子どもの問題行動に対応するための手法です。UCLA(米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で生まれ、マサチューセッツ医療センターで研究開発されたPTは、AD/HD(注意欠如・多動症)のある子どもへの理解を深め、対応していくための方法として活用されてきました。日本では国立精神・神経センターなどから紹介されています。

こちらの本では日本の国民性に合わせたトレーニング内容や順序を説明。子どもと関わり合うとき、障害の有無や教育現場だけでなく家庭でも大いに手助けとなるヒントが載っています。基本理論から実践の仕方などをわかりやすく紹介しており、マンガとコラムで楽しく「ほめて伸ばすペアレントトレーニング」を学べるんです。

 

どんな場面でほめていますか? ほめることで子どもを上手に育てよう

ペアレントトレーニングの大きな特徴は、子どもの行動が改善するだけでなく、子どもに注目し対応することで保護者の主観的健康感も改善するという、親子双方に良い影響を与える点にあります。

◆いつ、どう子どもをほめたらいいの?

この本では、どうほめたらいいのか、いつほめたらいいのか訓練する方法を紹介しています。具体的にはノートを用意し、子どもの行動と保護者自らの行動を記録しながら、ほめ方を学んでいきます。ひとは誰でも好きな人に注目されたい、かまってもらいたいもの。子どもはそれが顕著です。「悪いことをして叱られる」。言い換えればそれは、「注目してもらっている、かまってもらっていること」に他なりません。子どもが「悪いことをすればかまってもらえる」と誤った認識のままでいては、良い方向へ導けないばかりか親のストレスも増え続けてしまいます。

 

 

ペアレントトレーニングでは「良いことをすれば良いことが起き、悪いことをすれば悪いことが起きる」と認識させることが原則です。この場合の良いことは、注目してもらえ、かまってもらえるということ。反対に悪いことをすると注目されない、相手をしてもらえないんだなと学習させることにあります。

◆子どもの行動を3つに分類しよう

親子の行動を記録したら、子供の行動を

「増やしたい行動=ほめる・相手をする」
「減らしたい行動=相手をしない(無視する)」
「絶対に許せない行動(放置すると大きな怪我をするような行動・命にかかわる行動など)=すぐに止める」

の3つに分類します。

増やしたい行動の中からほめるポイントを見つけ、ほめることで良い行動を導くことができる……わかっていても見つけることは難しいですね。そこで一緒に探してみましょう。次の例題の中から増やしたい行動と、ほめるポイントを見つけてください。

 

◆例題をみて、ほめるタイミングをキャッチしよう

◆例題1

お母さんに、服を着替えるよう言われた。着替えながら途中で飽きてしまい、服を半分着たままテレビを見ている。

◆回答1

すぐに従って着替え始めた。半分まで着替えることができた。

◆例題2

学校に行こうとしているが、筆箱を机の上に忘れたまま。靴を履いているが左右が逆。

◆回答2

自分から登校しようとしている。忘れ物はしているが準備はした。靴も自発的に履いた。

◆例題3

お姉ちゃんとトランプ遊びを始めた妹。自分が負けそうになるとルールを破って自分が勝つようにズルをしている。ズルをしているのがバレバレで、お姉ちゃんは怒っている。

◆回答3

自分から遊び始めた。お姉ちゃんと一緒に遊んで好ましい。ズルをする=ルールがわかっている。ズルを隠そうとしていない。

このように、重要なのは「プロセスをほめる」こと。一見すると叱ってしまうような場面にも、ほめるべきポイントがいくつか隠れていました。これらのポイントは、すべて子どもが努力しているプロセスに現れます。ここを見逃さないことが重要です。ほめられた子どもは学習し、自信をつけ、ほめられる行動=増やしたい行動が増えてくるようになります。

目標100個! ほめ言葉を増やして声がけに活用しよう

子どもをほめるといっても、どうもほめられ慣れていないのが日本人のようで、なかなか言葉のバリエーションが出てきません。この本では「ほめ言葉を100個書き出してみよう」と提案します。初心者であれば10分で30個書けたら自信を持っていいとありますが、訓練せずには難しいものです。100個書けたら、行動記録からどの場面でどの言葉を書けたらよいか、あてはめていきます。子供に声がけを続けるうち、有効なほめ言葉が見つかります。どのほめ言葉も、ほがらかに、にこやかに、おだやかに声をかけてください。

 

◆ほめるポイントを作り出す

子どもを誘導するのに、ほめるポイントを作り出すテクニックがあります。

①大きな仕事を小さな仕事に分けて指示する。

②仕事を作り出して、子どもに手伝いをさせる。

例えば「着替えなさい!」を言い換えるなら「パジャマを脱ぎましょう」「パジャマをかごに入れて」「シャツを着てね」。「部屋を片付けなさい!」なら「ミニカーをひとつ手にとって」「それをおもちゃ箱に」「その紙のゴミをゴミ箱に捨ててね」と分けるのです。

それぞれの行動ができたらほめて次のステップに進みます。やり方がわからない子には、古くから言われる「してみせて、いってきかせて、させてみる」方法で一緒に行ってください。

ひとは「自分が他人の役に立っている」と感じるときにこそ、自分の価値を認めます。この感覚を自己有用感といい、自己有用感があるからこそ、他人のためになることなら辛いことでも努力しようという気持ち(自己耐用感)が生まれます。子どもの良いプライドを育てるために、ほめ言葉を増やし、ほめるポイントを作り出すことが大切です。

 

子どもが自発的に行動する習慣をつけるためにBBCチャートを活用

「帰宅したら連絡帳とお手紙を出して!」「宿題をやって!」「あしたの時間割を準備してね」など、毎日同じことを言うのはストレスですね。そして「やっていないじゃないの!」と叱ってしまう。この「毎日のルーティーン」こそ怠惰を改善、子どもの自発的な行動を促し習慣づけるチャンスが隠れています。

BBCチャートという表があります。Better Behavior Chart、より良い行動の記録表という意味です。まず、1日の中で家族が忙しくて混乱しやすい時間帯(登校・登園前や帰宅し夕方から就寝前の時間帯)での行動を設定します。

表の縦軸に日頃からしてほしい行動を、横軸に曜日を記します。日頃からしてほしい行動には「ママが手伝って18:30までにお風呂に入る」「19:00までに自分一人でパジャマを着る」など子供が一人でできる行動の中から、自ら進んでできる行動(週に4〜5回)を3つ、ときどきできる行動(週に2〜3回)を2つ、たまにはできる行動(週に1回)を1つ選びます。

 

 

子どもがその行動をできた時にはすぐに表に丸を書いたりシールを貼ったりします。毎日、寝る前に子どもと一緒に印やシールを数えてほめましょう。結果が悪くても叱ってはいけません。BBCチャートはほめるための道具です。うまくいったことに注目し、うまくできなかったことは見ないふりをしましょう。一週間が終わったら点数に応じたごほうびをあげるのも有効です。この場合のごほうびは、例えば「夕飯に好きなものを作ってあげる」「一緒に遊ぶ」など、大人からみて惜しげもなくあげられるものに限ります。何かを買い与えたり、お金をあげるのは厳禁です。

このようにBBCチャートは子どもの自発的な行動を習慣づけるためだけのものでなく、大人がほめることを習慣化するためのツールでもあります。ぜひ有効的に使ってみてください。

減らしたい行動を無視しよう

外で駄々をこねてひっくり返り、言うことを聞かない。叱れば叱るほど泣きわめくばかり。……このような「減らしたい行動」には「無視をする」という対処法が有効です。この対処法は、普段から「ほめてしつけている」ことが前提です。

例えばお菓子売り場で買ってほしいと泣いて大騒ぎをした場合、「きのう買ったでしょ! きょうはダメ!」と言ってしまいがちです。納得する子もいれば、納得せず「きのうのは食べちゃったからもうない!」などと反論する子もいます。あるいは根負けして、買い与えてしまうことも。これでは、減らしたい行動にごほうびを与えることになり、結果として「騒げば要求が通る」と誤った認識のままになってしまいます。減らしたい行動が減らないのは、親の対応が間違っているからです。

ここでの正しい対応は、相手をしない(無視する)こと。お菓子売り場から立ち去ってしまいましょう。すると子どもは泣くのをやめ、あとをついてくることがあるでしょう。そこで泣きやんだことをほめるのです。小さなお菓子を買い与えても良いでしょう。「大騒ぎをして泣いても相手にしてもらえない。静かに言う方が得だ」と子どもが学習します。

このように、減らしたい行動の相手をせず、子どもの行動を変えてほめるタイミングを待つことで、減らしたい行動を少なくしてゆくのです。PTにおける無視は、いつもほめてくれる人からの無視だからこそ効果があります。

◆無視しても、周りは無視しないで

無視をする、相手をしないといっても、お店や周囲に迷惑を掛ける場合は「しつけのできない親」になってしまいます。周りまでも無視してはいけません。本書ではより詳しい無視の仕方について解説しています。

 

最後に

「ほめて育てる」ペアレントトレーニングはママだけでなく家族全員で協力して行うと、より良い影響が生まれるのではないでしょうか。頭ごなしに叱るのではなく、相手の自発的な行動を導き、尊重し、ほめる。ほめられて嫌な気分になる人はいません。子育てに行き詰まった時、上手にペアレントトレーニングを活用してみてください。

ほめて育てるペアレントトレーニングを知る本

魔法のほめ方 PT 横山浩之・著 明野みる・マンガ

愛着障害・発達障害の子どもにも対応可能! 累計8万部を突破した、『マンガでわかる よのなかのルール』の著者&マンガ家コンビが贈る、保護者向けの姉妹版。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で創始された行動療法の1種である「ペアレント・トレーニング」。PTを日本人の国民性に合わせ、学校の学級集団にも応用できる手法として改善したノウハウを、ストーリー漫画でわかりやすく解説する、入門&特訓テキストにまとめました。愛着障害・発達障害を抱える子どもたちの問題行動にも対応可能な手法ですので、保護者やすべての教育関係者にとって必読の1冊です。

 

横山浩之(よこやま・ひろゆき)

1987年、東北大学医学部を卒業、2009年より山形大学医学部教授、2016年より福島県立医科大学ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部小児科学講座教授。小児科医の立場から特別支援教育の研究を続け、その成果は子育てに悩む保護者や、学校・保育現場から絶大な支持を得ている。著書は『軽度発達障害の臨床』(診断と治療社)、『マンガでわかる よのなかのルール』他多数。

明野みる(マンガ)

漫画家にして2児の母。日本大学芸術学部卒。2004年、『ちゃお』でデビュー。著書に『ハッピー♡おばあちゃん』『ジャングルおねえちゃん』『めしませ♡かれんちゃん』『マンガでわかる よのなかのルール』(以上、小学館)『ママはじめました。』(晋遊舎)等がある。

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