2020年初旬から始まった新型コロナウィルスによる自粛生活は、まもなく1年…。2度目の緊急事態宣言が発令される中、1冊の絵本が発売されました。著者はこれまでにも多くの絵本を書いて来た女優の室井 滋さん。室井さんは昨年の5、6月ごろ、女優業もすべてお休みになったなか、この絵本を書き上げたそう。絵本の主人公、ケイちゃんはある日ママからおばあちゃんのいる「ホームへしばらく行っちゃダメ!」と言われますが、どうしても会いたくて、会いに行ってしまうというお話です。
そして作画を担当したのは、絵本『しげちゃん』などで長年タッグを組んで来た、絵本作家の長谷川義史さんです。
この絵本『会いたくて会いたくて』が生まれた背景や、作品に託された思いを、お二人に伺いました。
目次
みんなが抱えている不安をあぶり出し、ポジティブになれる絵本。子どもだけでなく、大人にも
コロナ禍でのご経験から生まれた絵本を、どんな思いで書き上げましたか?
室井:誰も予想しなかった大変な時代がきました。そして、この絵本を書いていた昨年6月ごろの時点では、先の見通しがどうなるのかも全く予想がつかなかった。多くの人が経験した「会いたい人に会えない」という辛いことに対して、何か自分なりの、前向きなメッセージを発する本にしたかったんです。
おばあちゃんと、ケイちゃんという孫を主役にしたのは、私自身がすごくおばあちゃん子だったから。私が小さいころは近くに老人がいるのがあたりまえ、まずはお年寄りを敬い、一番偉い存在 様々な儀式、しきたりなども教わりました。
今、残念ながら去年よりも状況は悪くなっていますよね。おばあちゃんやおじいちゃんとの最後のお別れにもガラス越しにしか立ち会えない、なんてニュースも目にします。本当に切ない…。
だからこそこの本は、そんな切ない、苦しい思いを抱えるたくさんの人に届いてほしいという願いを込めて書き上げました。
長谷川:これまで室井さんとは数々の絵本をご一緒してきましたが、今回はまたけっこう難しいお題だなと思ったんです。小学生の男の子になりきって描く絵日記のページと、男の子とおばあちゃんの心情を俯瞰で見て描くシーンとのかき分けが大変でしたね。
デザインや、絵のタッチにもこだわり抜いた1冊
室井:今回はこれまでの絵本よりも文字数が多くなってしまったんですが、私自身、これをたくさんの人に向けて朗読したいと思っているので、本のデザインや絵と文字のバランスにもこだわりました。
長年のお付き合いがある長谷川さんにも、普段とは違う繊細な感じのタッチにしてほしいとオーダーしました。長谷川さんも試行錯誤してくださって、結果、本当に大好きな、線画の繊細な仕上がりになって大満足です。
長谷川:絵は本当にたくさんたくさん描きました(笑)。ふだん、自分の絵本を描くときとは違う雰囲気にしたかったから、今回は室井さんの原稿を見て、気持ちのままに、手の動くままに筆を動かしました。
何の画材で描くか迷ったけど、ガラスペンに決めて。どこのページにどの絵が入る、などもきっちり決め込まずに書いたので楽しかったです。
老人ホームの話題が出てくるので、近所のケアハウスの近くまで行ってインスパイアを得たりしましたね。
明日はどうなるかわからない、だからこそ、今しかできないことを
室井さんと長谷川さんは、この状況を経験し、ご自身に考え方の変化などはありましたか?
長谷川:自粛中は逆に仕事が早くなりましたね。締め切りを守るようになった(笑)。明日どうなるかわからない、いつ自分が罹患するかもしれないという思いから、人様にご迷惑をかけられないなって。
室井:私は自粛中は執筆をたくさんしていて、この本以外にもあと2冊を書き上げました。とくのこの絵本は、私がニュースで目にしたことや、日常の生活で感じたことを素直に反映しています。
遠方に住んでいたり、施設に入っている祖父母に会えないというニュースをたくさん目にして、世の中が「じゃあオンラインで会おう」という方向にいきましたよね。もちろんそれも否定しないけど、絵本登場させたような糸電話や、手紙といった昔ながらの伝達手段も忘れないでほしいなあ。子どもたちはすごく面白い発想を持っているから。こんな時代だからこそ、その発想力を発揮してほしいですよね!
結成10周年!しげちゃん一座で全国を回り、みんなに元気を
室井滋さんと長谷川義史さんは、しげちゃん一座という、絵本の読み聞かせやライブを披露する活動を、2011年から続けています。メンバーはほかに、ジャズ・サックス、フルート奏者の岡 淳(おか まこと)さんとピアノ演奏・マジックを担当する大友 剛(おおともたけし)さんを加えた4名。コロナ禍においても、できる限りの活動は続け、日本全国を回っているそうです。歌あり、即興描き下ろしありの楽しい内容なので、こちらもぜひチェックしてみて!
家族で絵本を朗読する時間を
『会いたくて会いたくて』の絵本の中にコロナという文字は出てこないし、マスクも登場しません。でも、この時代を過ごす中で、大好きな人との「つながり」の大事さを改めて実感し、後になって読み返しても思い出させてくれる1冊になるでしょう。ぜひ、手にとって、ご家族で朗読の時間をもったり、遠方の祖父母の贈り物にしてみてはいかがでしょうか。
ベストセラー絵本『しげちゃん』のコンビ、女優・室井滋さんと絵本作家・長谷川義史さんの最新作!いま届けたい、大切な人を想うピュアな気持ちを、柔らかであたたかい色彩で描き出しています。かけがえのない大切なかたへの贈り物にもオススメです。
写真/浅野 剛 取材・文/HugKum編集部